第8話 ある物で頑張ります

 転がっていた大きな猪は顔面が陥没しており、ピクリともしないので生きてはいないのだろう、レオの一撃の凄さが分かる。


『ちょうどいいね。これ食べようよ』


 大猪を見ながらレオはそんなことを言うが、これ程の巨体であるから食べきれないだろう。

 

「ふたりじゃ無理だよね。こんな時アイテムボックスに入れられればいいのだけれど……」


 ヒナノもそうだがレオも身体が小さいので、この大きさの物を一回で食べきれる訳はない、当然保存しておきたい。

 神様から貰ったアイテムボックスは、他の物は入れられない仕様になっている。

 仮に入ったとしても腐ってしまっては意味がない。

 パンに変な匂いや痛みは無さそうなので、時間停止のような鮮度が保てる機能があるとは思う。

 だからこそ追加可能であるならば、どんどん入れて長期保存するのが理想なのだが。

 現実は上手くいかないようである。

 

『じゃあ、魔物だから魔石だけ抜いておくね』

「魔物と獣の違いってもしかして……」

『そう、魔石があるかないかだよ』


 そういうとレオは大猪に噛みつき、噛みちぎり魔石を咥えて誇らしげにヒナノに見せる。


(またレオ君、血だらけなんだけど……)


『これが魔石だよ』

「あ、ありがとう」


 血だらけな魔石だが、せっかくレオが取ってくれたので、ヒナノは受けとる。すると【鑑定】が発動した。


【ジャイアントボアの魔石】:身体強化


「あっ、魔石も鉱物に分類されるってことね。いいかも!」


 反応したということは【鉱物使いSS】の能力は魔石にも有効ということなのだろう。

 【鑑定】のレベルがEになったからなのか、名前以外も少し分かるようになったようであり、身体強化というのが表示されている。

 只、この魔石をどうすればいいのかは分からない。


『お金になるみたいだよ』


 レオの話によると魔物を狩り素材などを売って生計を立てている人間がいるようである。

 その中でも魔石は高額になるものが多く、魔物を倒したら必ず獲得しなければならない部位らしい。


「そうなんだね。レオ君は人間の街に行ったことがあるの?」

『うん、結構昔にいったことはあるよ。その時も人間が魔石の取引してたよ』

「そっか。重要な部位なのね」


 レオがそう言っているのでヒナノは魔石を保管しておこうと思う。

 大猪改めジャイアントボアの肉は少し貰っていくことにした。

 ここが美味しいよとレオが言うのでヒナノは腹の部位をナイフで切り取っていく。

 

 先程まで生きていたものにナイフを入れるのは正直に言えば気持ちが悪い、でもヒナノはこの世界で生きていくには食べなければならない。

 前世では誰かが切り分けてくれていた肉を買って食べていただけだが、自活していくには避けては通れない作業である。

 その内、街で精肉店にでも行くまでは自分でやるしかない。


 レオは石だけを食べている訳ではなく、普通に獣の肉や魔物の肉も食べるらしい。

 変わった生物である。魚は好きなのだろうか。


 切り取った以外の部分はそのままにしておけば、他の生き物が食べるらしいので放置する。

 

 大きめの葉っぱで肉を包み川原まで持っていく。

 肉を焼いてもいいし、レオと自分を洗うのにもちょうどいいのでヒナノはそこを選んだ。


 嫌がるレオを川で洗った後、食事の準備をする。

 平らな岩の上を川の水で洗い、更にペットボトルの水で洗う。

 岩の上に肉を乗せ一口大にナイフで切る。

 切りにくかったが何とか切り分けた。


「後は火をつけないとね」


 水もあるし風も吹いていないのでここを選んだ。

 マッチとかライターとか火を起こす道具はアイテムボックスになかったので、神様としては現地調達しろよと言うことなのだろう。

 道具は必要最低限しかないので、自力で火は扱えるようにならなければならない。

 だが、今は一人ではない、レオがいる。


「レオ君、火の魔法って使えたりする?」

『火は使えないけど雷だったら使えるよ』


 さすがはうちの子! 雷だったら火が起こせそうだとヒナノは喜ぶ。

 とりあえずは乾いた木とか燃える物を調達しよう。

 自然に溢れるこの場所なら枯れ木や燃えそうな物は結構落ちていた。


 雷の魔法がどれぐらいの威力であるのか確認しておく必要がある。

 実際にレオにやって貰うと威力の調整が効くようであった。


 種火を作るのに適した出力にして燃えやすい火口に雷を当てて着火して貰う。

 その上に焚き付けをおき炎を移す。

 この時に火口が酸欠状態にならないように注意しておく。


 細い薪を重ねていき水分が飛んで燃え移るまで待つ。

 煙が来ない位置から、葉っぱを丸めて筒上にして、口で空気を送り込む。

 頃合いをみて太い薪を組んでいく。


 火種があるのでヒナノの、うろ覚えのキャンプ知識でも何とかなるものである。


 小さな種火が大きくなり、太い薪を燃やすまでになった、安定したようである。

 ナイフで適当な太さに削った長い木の串に肉を刺す、反対側を地面に刺して火にかざす。


 直火で焼くのは結構難しく苦戦するが、今はこれしかないので仕方がない。

 網とかフライパンとかが、あればもっと簡単に安全に肉を焼けるのだろう。

 何度か串を回しながら肉全体に火が通るようにする。


 パンに横からナイフを入れ半分にする。

 その間に焼いた肉を乗せる、それを二つ、自分のとレオの分を作った。

 肉に味付けができる塩とかステーキソースがあればいいのだが、残念ながらないので、そのまま食べるしかない。

 

 それでも鮮度はいいので肉汁は甘いし美味しい、腹は満たされた。


「でもやっぱり味付けはしたいよね」


 レオは野生育ちだからか味付けのない肉でも美味しそうに食べている。パンも問題なく大丈夫そう。

 やはりヒナノとしては香辛料が欲しいと思ってしまう。

 人間がいる街にいったら絶対に購入したい。


 それから空が少し暗くなってきたので寝床の確保が必要になった。

 川の側は寒いし急に水かさが増したら怖いので、内陸寄りの高台に設置する事にする。

 焚火の消火をしてから布団になりそうな物を探した。


 ヒナノは下に敷く柔らかく大きな葉を集め、それを何枚も重ねた。

 上に掛ける物も葉を使ったのでヒナノは葉に挟まれた状態で寝る事になる。

 暖が取れるかは分からないけれど、無いよりはあった方がいいと思いヒナノはそうした。

 外気温もそれほど低くはないので、葉っぱの布団でも十分なようである。

 

 獣や魔物はレオがいるのでよっぽどの事がない限り大丈夫なはず、でも虫はどうしようもない。

 せめて蚊除けスプレーがあれば安心できるが、この世界にはあるのだろうか?


 慣れない環境ということもあり寝初めはうだうだとしていたヒナノだが、レオを抱きしめ撫でていたら普通に眠れたようで、気がつけば朝になっていた。

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