第9話 スライム魔石

「うーん、いい朝ね! おはようレオ君!」

『んー、おはよう~』


 ヒナノは初めての異世界での夜であったが、レオがいることで安心して眠ることができたようである。

 一人だったらこんなに気持ちいい朝を迎えられなかったかもしれない。


 見た目は子猫なのに念話ができるだけで随分と人間くさい反応だなと思うが、寝ぼけたレオも可愛い、ヒナノは思う。

 

「レオ君のモフモフは最高だったよ」

『んー、そうなんだ~』


 ヒナノは伸びをしながら、レオの癒しパワーに感謝するのだが本人はつれない反応。

 気を取り直してペットボトルの水で顔を洗う。


「あっ、歯磨きできない!?」


 歯ブラシも歯磨き粉もない、自然の中で歯磨きする方法はヒナノには見当もつかない。

 とりあえず今は、しっかりとうがいをするぐらいだろう。

 でも今後の課題として早急に解決しなければならないと、ヒナノは頭の中にメモする。


 レオの朝ご飯を用意するため、ヒナノはアイテムボックスを確認する。


 朝ご飯といってもダイヤなのだが、レオが喜んでくれるのでこれがいいはず。

 ダイヤに魔力を込める、これだけで美味しさがアップするというのだから簡単である。


 代わりにレオがヒナノが食べれそうな物を取ってきてくれた。

 今度は肉ではなく果物で、甘い匂いがするバナナのような物である。


「うん、美味しいね!」


 レオが人間の食べれる物が分かることはヒナノとしてはありがたい。

 ヒナノだけだったら適当に食べてお腹を壊すとかあったかもしれない、最悪なのは毒がある物などを誤って食べてしまい死んでしまうこと。

 それが無いだけで随分と助かる。


 【鑑定】が鉱物意外にも効果があればいいのだが、将来的にはあらゆる物に有効なそんな鑑定ができる道具を作ったりとかできたらいいなとヒナノは思う。

 それにはまずは自分の能力の把握が必要だろう。

 出来ること出来ない事を一つ一つ確認していくしかない。


 レオが『旨いよおおおお!!』とダイヤの味に絶叫している時に、ヒナノはそんなことを考えていた。


「レオ君、この近くに今は使われていない城が在るって聞いたんだけど知ってる?」


 神様は廃城がどこにあるのかとか言ってなかった。

 ここに住んでいるレオなら分かるかもしれないと思いヒナノは聞く。


『城っていうと……ここからだと結構距離があるけどあるね。他にはないから多分それじゃないかな』

「遠いんだね。神様も近くに転送してくれれば良かったのに。そこら辺も自力で何とかしなさいって事なのかな?」


 ここにはいない神様に、ぼやくヒナノ。

 でもレオの近くに転送してくれたのだから、感謝しないといけないのかな?

 レオの有用性は実用的にも、心の癒しとしても完璧でありヒナノは満足している。

 神様はヒナノの為を思ってそうしたのかもしれない。


「とりあえずは能力を成長させながら、その城を目指そう。レオ君、一緒に来てくれる?」

『もちろんだよ! 契約もしたしヒナノといれば美味しい物が食べられそうだからね』

「うん。それは任せて! よろしくね!」

『うん』

 

 折角、一緒来てくれるのだから色々な鉱物に魔力を込めてレオに食べさせてあげよう。

 能力は使えば成長するので手が空いたらどんどん使っていかなきゃ。


 城までの道を進みながら鉱物を探し見つかれば【鑑定】する。

 拳大の石を手に持って【変形】や【分解】を繰り返す。


 【合成】は鉱物と鉱物をくっ付けることができるが、まだ端が少し付く程度である。

 レベルが上がっていけばもっとしっかりと接合できたりするかもしれない。

 ダイヤに魔力を込めるのは【光沢】に影響があったみたいだった。

 魔力をダイヤに込めると内部が輝くので分類としては【光沢】に当てはまるのかも、そこら辺は曖昧。


 他にも能力はあるけれど使い方が分からないので、分かるものからどんどん試していく。

 

 ヒナノが能力に集中しているとレオがたまに消える時がある。

 どうやら狩りにいっているようであり、戻ってくると魔石を持って帰ってきた。

 周りの弱い生物は本能的に強いレオを避ける。

 だから自分から行かない限りレオが獲物を見つける事はできない。


 狩りをしてくるとレオの口の周りが赤くなってしまうので、ヒナノとしてはどうにかしたいと思っている。

 水で洗えばいいのだけれど、いつも都合よく川や水辺がある訳ではない。

 何か対策できればいいのだけれど。


 レオが持ってきた魔石をヒナノが【鑑定】していると面白い物を発見する。

 スライムの魔石であった。


【スライム魔石(青)】:空間能力


「レオ君、スライムって結構いるの?」

『うん? スライムは沢山いるよ』

「スライムの魔石には空間に関する力があるみたい」

『ああ、そう言えばスライムは腹に物を収納できるとか聞いたことがあるけれど、それが関係しているのかな?』

「やっぱり! それだよレオ君! もしかしたら魔石を使って空間収納とかできるかもしれないわ」

『そうなの?』


 神様から貰ったアイテムボックスは10日間で消えてしまうので代替になる物が欲しい。

 異世界物の話だと大体スライムは有用と決まっている。


(でもどうやって作ればいいのだろう?)


 ヒナノは魔石に魔力を込めてみる。

 淡い光が魔石の中心で光るが、それだけみたい。


『美味しそうだね』

「レオ君にはこれが美味しそうに見えるんだね」

『うん』


 よだれが垂れるのではないかと思う程、レオはキラキラした目でヒナノの方を見ている。

 魔石に魔力を注入した物を食べたいなんて、ヒナノには感覚的に理解し難い。

 でも、そんなに可愛い顔で物欲しそうに見られたら、あげない訳にはいかない。


(ふう、危険な可愛いさね)


 ヒナノは魔石を差し出す。

 

「はい、どうぞ」

『ありがとう!』


 可愛い仕草で美味しそうに魔石を食べるレオを見ていたら、あげて良かったと思えてくる。


(いや、違う違う! 収納に関する事を確認しないと!)


 レオの愛らしい姿にヒナノは当初の目的を忘れるところであった。

 スライムの魔石はレオが複数取ってきてくれているので予備はある。


 ヒナノは今度は実験用だからとレオには先に食べさせない事を伝えておく。

 『ええ~』とか言っていたがヒナノは心を鬼にして作業を続けることにした。

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