第10話 収納できるようになりました

 今作った魔石はレオに食べさせてしまったが、作り方は先程もやったので、問題はないはず。

 魔石に魔力を注入するだけなので難しい事はない。

 スライムの魔石は小さく、飴玉ぐらいの大きさしかないので二本の指で摘まめてしまう。

 指で持ち先程と同じ様にヒナノは魔力を込める。


(んんっ!)


 魔石の周りから中心へと光が集まっていく。


「こんなもんかな?」


 スライム魔石自体の表面は青く雲っていて光を透過しずらいらしく、反対側が見えない。

 その中にヒナノが込めた魔力が中心付近で丸く輝いているのが見える。


「【鑑定】!」


【スライムの魔石(青)】:収納可能。防御+1


「やった! 収納ができるみたい!」


 前回の鑑定ではスライムの魔石は空間能力と表示されていたので、もしからしたらとヒナノは思っていたが予想通りの結果であり、やはり異世界のスライムは優秀であった。


(【鑑定】結果が少し増えたみたいね)


 能力が成長しているのか、前回よりも鑑定できる内容が増えたようである。

 実際に能力は使用すればするほど上がるということだろう。


(まずは収納に関して確認しないと)


 ヒナノは能力練習用に持っていた石を収納してみる事にした。


「どうやってやるんだろう? 魔力が関係しているとは思うのだけれど……」


 左手に魔石、右手に石を持って、ヒナノは石に魔力を込めるも変化はない。


「ん? 込めるだけじゃダメみたいね。入れ!」


 スッと右手に持っていた石が消えた。


「あっ! 成功したのかな?」


 つい、独り言が多くなってしまうが、ヒナノが魔石を確認すると入っている物が頭の中に浮かぶ不思議な仕様。

 神様に貰ったアイテムボックスと同じである。


「出ろ!」


 パッと右手に石が現れた、成功。


「おおっ。これよこれ! この機能が欲しかったのよ。上手くいったわ!」

『上手くいったの?』

「うん。やったわレオ君、いい感じよ!」

『良かったね』


 これで10日間が過ぎて神様から貰ったアイテムボックスが無くなっても荷物運びに困らない。


 この後、スライム魔石に出し入れを繰り返すと色々な発見があった。

 物を入れる時も取り出す時も言葉は特に決まりはないようで、意味合いが同じならどんな言葉でもいいらしい。

 更に声に出さなくても心の中で思うだけで出し入れは可能であった。


 そしてスライム魔石を体に身に付けていれば右手でも左手でも足でも体の一部ならどこでも作動する。

 収納できる大きさは決まっていて、大体30センチの立方体ぐらいの容量らしいというのが分かった。

 小さい物なら複数入るし、虫など生物も入れられる。

 空気がある倉庫のような感じだと言った方がいいか。

 ヒナノとしてはある程度満足できるものができたのではないか、そう思うが……。


「うーん、凄い事だけど容量は少ないかな」

『美味しい石をたくさん入れるには大きい方がいいよね』


 可愛い相棒の意見にヒナノも賛成である。

 異世界のアイテムボックスといえば無尽蔵に入って時間経過もしない、そんなイメージであり、持っているだけで有用な定番のチートアイテムのはず。

 それが小容量なのは改善すべき問題である。


「あっ!? もしかして……」


 ヒナノは更に二つスライムの魔石に魔力を込めて同じ物を作る。

 そして【合成】により二つの魔石をつなぎ合わせた。

 今のヒナノでもこれぐらいならできる。

 出来上がった物は丸いスライム魔石が二つ合わさった、外形が8の字の形をした物。

 それぞれに同じ量が入るので単純に容量は二倍になった。


「あっ、別にくっ付けなくてもいいのかな?」


 初めに作ったスライム魔石に合わせた二つの魔石を収納する。

 

 結果は三倍の容量になり、しかも中に入っている物は全て一覧で頭に浮ぶ便利アイテムが完成した。

 更にその中に次々とスライム魔石を入れて階層を作れば、30センチ角以内の大きさの物であるのならば理論上無限に収納できるはず。

 

 まあ、そんなにスライムがいるのかどうか分からないし、私利私欲の為にスライムを狩るのも倫理的にどうなのだろうかとも、ヒナノは考えてしまう。

 そこら辺をレオに聞いてみると……。


『あいつ等、たくさん湧いてくるし、別に問題ないんじゃない?』

「湧いてくるの?」

『そうそう、魔力の強い所とかに発生するみたいだよ』

「そうなんだ。普通の生物とは違うのね魔物は……」


 更に話を聞くとスライムなど肉が食べられない魔物は、倒すと魔石だけ残して消滅するらしい。

 ということはレオがフラッと行って口の周りを赤くしている時は、肉が食べられる魔物も狩って食べていたということである。

 レオは小さい体なのに意外に食いしん坊なのかもしれない。


 しかしこの世界やっぱりゲームのようだなとヒナノは思ってしまう。

 どういう理屈で魔物が発生しているのか不思議に思うが、もうこの世界の人間になってしまったのだから、生きていく為に有用な物は活用していこうとヒナノは考える。

 前の世界とは倫理観が違うのだから、できる事はやろう。

 ヒナノのすぐに現状を受け入れてしまう性格は健在のようである。

 

 そしてもう一つ気になる事があった。


【スライムの魔石】:収納可能。防御+1


 そう、この防御力+1である。


「レオ君、スライムの魔石を食べて体に変化はなかった?」

『うーん、言われてみれば、力がみなぎった感じ?』

「えっ、何で疑問形なのかな」


 首を傾げた仕草が可愛いく愛らしいのだが、実際のところ効果は分からないようである。

 防御力が+1ぐらいではそれほど、実感がないのかもしれない。

 ヒナノ自身が魔石を食べて確認したいところだが、流石にそれはできないだろう。

 レオに多く食べて貰えば効果が分かるかもしれない、ヒナノはレオを見つめる。


『スライム狩ってこようか?』

「あっ、うん。じゃあお願いしようかな」

『了解、任せて!』

 

 頼りになる可愛い相棒は気も利くみたいである。

 すぐにピューっと元気に飛び出していく。


 それならばとヒナノはダイヤや他の鉱石に魔力を込めた美味しい食事(?)でレオを労う事にした。

 ダイヤ以外にも気に入る物があるといいのだが、どれが美味しいとかは人間であるヒナノには分からないので、レオに食べて貰うしかない。


 ヒナノの、この世界の鉱物と魔石の研究は始まったばかりである。

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