第6話 レオと契約

 食べてしまったダイヤで体に異変がないか陽菜乃は子猫に聞いてみる。

 普通の生物なら消化できるとは思えないから、だが回答はあっさりとしたものであった。


『平気だよ。僕は鉱物からも栄養が取れるからね』

「宝石から栄養を? あなたは不思議な生物なのね。異世界だと普通なのかな?」


 人間のエネルギー補給の構造とは違うようである。

 こちらの世界ではこれが主流なのか、まだ子猫にしかあっていないので、何とも言えない。


『でも今の物はとても美味しかったよ。君の魔力が混じっているからかな? いい匂いがしたのもそのせいみたい』 

「私の魔力ってなに?」

『魔力を知らないの? でも異世界っていうぐらいだから君は違う世界から来たってことかな』


 いや、魔力については陽菜乃にも何となくは分かっている。

 学生時代に読んだ異世界ものの話ではよく出てきていたので、超常的な力なのだろう。

 そこら辺の説明を神様がしてくれても良かったと思うが、話はなかった。


 子猫は陽菜乃が突然現れた事、容姿が変わるという超常現象を見ているので陽菜乃が違う世界から来たのだと理解できたようで、それを受け入れた。

 この世界なら変身する能力もある気もするのだが、信じたようである。


「そうなのよ。まだ来たばかりなので、この世界の事はよく知らなくて」


 分からないなら現地の人(猫)に確認するのが手っ取り早い。


『そっか。魔力はこの世界に溢れている力で生きていくのに必要なものだよ。生物にもそこら辺の木や岩、大地にも沢山あるよ』


 子猫はあやしい異世界人である陽菜乃を簡単に受け入れて話を進めてくれた。

 聞いた説明は大体、陽菜乃が思っていた通りで、魔力イコール不思議パワーであった。


「へえ~そうなのね」

『君にも魔力があって、それがその宝石にも宿っているみたいだよ」

「なるほど……」


 そういうものなのだろうか。

 陽菜乃はダイヤを取り出して確認してみる。特に変わったところはない。

 凝視してみると、うっすらと光の膜がダイヤの周りに見えてきた。


「あっ、この光っているものかな?」

『そうそう。君才能あるみたいだね』

「うーん、そうなの?」


(魔力の才能ってなんだろう? 魔法の才能ってことかな?)

 陽菜乃の能力は鉱物限定の能力であり、他には使えない。

 才能の有無は、よく分からないというのが正直なところである。


『そうだ今の石ってまだ持っているの?』

「うん、まだあるわよ」


 10日間は無限に取り出せる仕様なので陽菜乃はそう答えた。


「はい、どうぞ」

『じゃあ、その石に君の魔力をもっと込めてみてよ。更に美味しくなるかもしれないしね』

「魔力を込める?」

『そうそう』


 魔力を込めるとはどういうことなのだろう、陽菜乃にその知識はないが不思議とできるような気がしている。

【鉱物使いSS】という能力が関係しているのだろうか。


「やってみるね」


 ダイヤを手のひらで握り体の中の力を注ぎ込むように陽菜乃は力を加える。

 すると握っていた右手から光が溢れる。


(綺麗!? いい感じかも!)

 

 手を開きダイヤを確認してみると中に球状の光が輝いている。

 これが魔力の塊なのだろうと陽菜乃は理解した。


「た、食べる?」

『うんうん!』


 子猫は陽菜乃の手からペロッと一口でダイヤを口の中に入れた。

 今度はボリボリと噛み砕く訳ではなく、味わうように舌の上でころがして目を閉じている。


『んーーー、旨い! 最高に、最高に美味しいよおおおお!!』

「!?」


 どうやら子猫はお気に召したようである。最高いただきました。

 しばらくは飴のようにゆっくりと舐めていたが、ゴクンとダイヤを飲み込み満足そうな表情である、良かった。

 陽菜乃の目の錯覚だろうか、子猫が少し大きくなったり、光ったり、背中に光の翼が見えたような気がしたが、今は元に戻っているので多分気のせいだろう。


『やっぱり君の魔力はいいね!! 僕と契約しようよ』

「えっ? 契約?」

『そう契約。これからも君の魔力を込めた石をくれるなら、僕が君のことを守ってあげるよ』

「一緒に付いてきてくれるってこと? でも今あげたダイヤ……石は10日間しか取り出せないの。だから同じ物はあげられないよ」

『構わないよ。他の石でも君が魔力を込めた物なら問題ない。それに周辺には魔物もいるから君一人だと死んじゃうよ』

「えっ?」


 可愛い顔をして怖いことを子猫は言う。


(魔物って怪物みたいな存在よね?)


 陽菜乃はキョロキョロと周りを見回しても魔物らしきものはいない。

 でも小さなこの子猫が自分を守る? そんなことができるのか陽菜乃は疑問に思う。

 そんな陽菜乃の考えを察したのか子猫は答える。


『僕こう見えて結構強いんだよ。安心していいよ』

「そ、そうなんだ」


 陽菜乃としては子猫の強さなんて分からないが、こんなに可愛い子猫と旅ができるなんて断る理由はないし、こちらからお願いしたいぐらいの気持ちである。


「わ、私って弱いんだ?」


 陽菜乃は気になり子猫に聞く。


『そうだね。僕なら少しつついただけで倒せちゃうよ』


 子猫は前足を片方上げてそんな仕草をする。

 まさかいくらなんでもと思うが陽菜乃は別の事に気を取られた。


(か、可愛い! 凄く可愛い!?)


 そんな姿を見せられたら守ってもらう云々は別にして一緒にいたい、それが陽菜乃の正直なところである。


「じゃあ、契約よろしくお願いします」


 当然、そう答えてしまう。


『良かった。じゃあ君の名前を教えて!』

「ええ、天花寺陽菜乃よ」

『では、天花寺陽菜乃を主と認め契約を致します。僕に名前を付けてください』


 主? そして名付け、突然の展開に陽菜乃は戸惑う。


「な、名前……、ええっと、ではレオでお願いします」

『了解、天花寺陽菜乃を守護するものレオ! 【契約】!!」


 二人……一人と一匹を光が包む、これが契約というものなのだろうか。

 

『これで契約成立だね。ええっとテンカジ……』

「ヒナノでいいよ。よろしくねレオ君」

『よろしくヒナノ!』


 ヒナノはレオと契約を交わしたのであった。

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