第78話 城攻略了承とセレスの依頼
「そう言っていただけて嬉しいです。断られてしまったらどうしようかと思いましたわ」
セレスはヒナノの言葉に安堵の表情を浮かべる。
代表者としてのプレッシャーがあったのか、彼女なりの決意でヒナノに城に関する提案をしに来たのだろう。
どうやらエステラータ王国としてはヒナノ達に、この城に住んで貰いたいようであった。
神様からの紹介の人物ともなれば、王国としては仲良くなっておきたい気持ちがあるのだろう。
それどころか是非とも取り込みたいという気持ちの方が強いのかもしれない。
実際にヤナギを釣り上げた能力も目の当たりにしたので、ヒナノ達の実力は多少なりとも分かっている。
機嫌を損ねられるのは得策ではない、そんな判断もあるのかもしれない。
王国の至宝、聖女と言われるセレスを派遣する辺り、ヒナノ達との友好的な繋がりを確立したいという思いは王国として本気なのだろう。
聖女とは様々な優れた能力を持っている女性である。
セレスも神託を授かったり、遠くの出来事を確認できたりする能力に長けているようであり、他にもまだ能力があるようであった。
今後ヒナノ達と親しくなれば、それも見られるかもしれない。
ヒナノとしては城を攻略することを、それほど悩まなかったようである。
当初から目標としてきた場所であり、興味はあった。
ところどころ壊れていて汚れているが実際に見た城は大きく、ここに自分達が住めるなんて素敵なことではないだろうか。
今は住めない状態ではあるが、改装や増築も自由となればやりようはある。
ここを拠点にしてのんびりと過ごすのも悪くはないかなとヒナノは思う。
もう城が自分の物になったかのようにヒナノは考えているが、まだ魔物を攻略した訳ではなく倒せる保証もない。
でも、レオとココがいるので問題ないだろうとヒナノは思っている。
セレスの護衛達もヒナノ達が本当に城の魔物の討伐ができるのであろうかと半信半疑であるが、湖の主であるヤナギを釣り上げたのは見ていた。
今まで湖の主を釣り上げた者はいないし、不可能とさえ思われていた。
それをあっさりと攻略してしまったのを目の当たりにすれば、城の攻略もできるのではないか、そんな気持ちに傾きつつあるようであった。
「ところで話は変わるのですが、ヒナノ様は宝石も作られるとか?」
セレスはお祈りするかのように胸の前で両手を合わせ、キラキラした瞳をヒナノに向けて聞いてくる。
「ええ。よくご存じですね。あっ、それもお告げされたということですね」
ずいぶんと細かいところまで神様はセレスに説明したのだなとヒナノは思う。
個人情報だだ漏れでプライバシーの侵害ではないだろうか。
でも神様からの恩恵はたくさん受けているので、ヒナノは本気で怒っている訳ではない。
「いいえ。実はある人からもヒナノ様のことを聞いておりましたの」
「ある人といいますと、まさか……」
その時、馬車から一人の女性が降りてくる。
まあ、ヒナノが宝石付きの装飾品を作ってあげた人物は限られているので見当はついていた、やはりといった感じであった。
「久しぶりねヒナノ。また会えて嬉しいわ!」
優雅な仕草と大人びた容姿、清らかな声、胸元には十字に輝く青い宝石が良く似合っている。
その宝石に負けない気高さ美しさを持った人物。
「久しぶりリリア! 元気だった?」
女性商人であるリリア・アークその人だ。
セレスのお姫様感ある可愛さも素晴らしいが、リリアは大人の女性の魅力がたっぷりの美女である。
タイプの違う魅力的な女性達、これは負けていられないとヒナノは可愛さでは負けていないココの両肩を掴み前へと押し出しアピール。
妙なところで張り合うヒナノ。
「えっ? ヒ、ヒナノさん。なんで前に出すんですぅ?」
もっともな意見であるが、ココは顔も可愛いし垂れた獣耳とふわふわな尻尾が可愛さのアクセントであるとヒナノは心の中でプレゼンして胸を張る。
そんなヒナノの気持ちは分からないので、ココが困惑するのは無理もないことだろう。
リリアと別れてから何年も経った訳ではないが、ずいぶんと久しぶりだなとヒナノは感じている。
それほどヒナノ達の旅が濃密だったといえるのかもしれない。
ヒナノとリリアは抱き合ってお互いに背中をポンポンと叩き合う、再会の抱擁である。
「どうしてリリアがセレス様と一緒にいるの?」
「実は姫様にお会いする機会があった時に、このネックレスのことを聞かれたのよ。それで近々ヒナノがこの城に来ることを知って同行させて貰うことにしたの」
リリアはネックレスの宝石を指でいじりながらヒナノの質問に答えたが、後をセレスが引き継ぐ。
「わたくしがそのネックレスを是非譲っていただきたいと言ったのですが、大切な貰い物だからと断られてしまいまして。だったらせめて作製者の方を教えてくださいとお願いしたところ、御使い様のお名前が出てきて驚いたしだいです」
国の第一王女ともなれば一商人の持ち物を手に入れることなど圧力を掛ければどうにでもなりそうなものであるが、無理強いをしないところをみると人の良い姫様なのかもしれない。
そんな印象をヒナノはセレスから受ける。
同時に自分がプレゼントした物をリリアが大切にしてくれていることを嬉しく思うヒナノ、作った甲斐があったというものである。
「それでヒナノ様にお会いできたら、わたくしにも作製していただけないか、お願いしてみようと思いまして」
「そうなんですね。でも宝石作りは趣味みたいなもので専門家という訳ではないのですよ」
ヒナノはレオとココのような【石食い】が好む宝石を作るのは得意ではある。
でも国の姫様が着けるような物を宝石デザインの素人であるヒナノが作っていいのだろうか。
ヒナノは前世では誰かが作った物を販売をしていただけなので、加工を専門としていたわけではない。
「そうなのですか! それでこの出来なのには驚きですね。でもヒナノ様が作られたネックレスが素敵で惚れ込んでしまいましたの。是非わたくしにも作っていただけないでしょうか? 勿論、相応の金額で引き取らせていただきますわ!」
「このネックレスに付いているような宝石を王都の職人に依頼したようなのですが、上手くいかなかったようなのよ」
セレスとリリアは言う。
リリアに渡したネックレスの中央の宝石はスターサファイアと言われる六条の白い光の筋が入ったサファイアの中でも特別な物。
自然の鉱物から削り出して作製するのには技術も手間も掛かるだろう。
この世界の加工技術の水準は、まだそこまで行っていないようであった。
しかもヒナノは能力で内包物を移動して思い通りに十字の光を作り出すことができてしまう。
現地の人間があのレベルの物を作り出すのは不可能だろう。
「分かりました。何かデザイン画などあればそれを元に作製しますが」
「本当ですか! ありがとうございます! でしたらヒナノ様が城の攻略をした頃にまた依頼画を持ってうかがいたいと思いますわ」
セレスがとても嬉しそうなので、ヒナノは引き受けて良かったと思う。
輝くような笑顔ってこういうものなのだろう、しっかりとした物を作らなければ。
「王都の街からならこの城までそれほど時間が掛からないで来れるので、ちょこちょこお邪魔するわね」
リリアは言う。
セレスもリリアもヒナノ達が城の魔物を倒せないとは微塵も思っていないようであった。
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