第79話 ネックレスと米と醤油

 今ヒナノ達がいる城の前にはヤナギが住んでいる湖、そして少し離れたところに王都がある。

 セレス達の話を聞いた限り王都は徒歩で行っても一時間ぐらいで着くのではないだろうか。

 一方エレノアのダンジョンから実は距離が離れていて、一般の馬車で行くなら一日は掛かると思われる。

 ヒナノはここに来るまでにレオの背中に乗って移動した為、すぐに湖に着いたので近いイメージであったのだが、思っているよりもずっと遠い。


 レオの走力が並外れていたと言うことだろう。

 勿論、それに走ってついてきたココも異常な足の速さと体力である。


 何故そんな話になったかと言えば、リリアにあげたネックレスを気に入っているセレスに同じような物があることをヒナノが伝えたのが発端だ。


「ヒナノ様は他にもネックレスを作られているのですね!」

「はい。それでしたらリリアの宝石とは違うのですが色違いの物がエレノアダンジョンの宝箱に入っているはずです」

「えっ! あの新しく名前が決まったダンジョンにですか?」

「はい。実はここに来る前に寄ってきまして」


 ヒナノはダンジョンに寄ったこと、そのコアであるエレノアと仲良くなったこと、そしてダンジョン内の宝箱にヒナノが作った物を入れさせて貰ったことをセレスに話した。


「えっ! ダンジョンコアと仲良くなる? そんなことが可能なのですか?」

「ええ、偶然ではあるのですが」

「ではヒナノ様達はダンジョン攻略者になるのですね!」

「そう……なりますね」

「す、凄いことですわ!!」


 ヒナノとしては金剛石を探しにいった場所が、ダンジョン内のコアの部屋だったということで、ダンジョンをどうこうしようというつもりはなかった。

 たまたま攻略してしまったというのが本当のところである。

 この世界ではダンジョンを攻略することは冒険者として栄誉なことであり、一度は夢見るもの。

 それを冒険者でもないヒナノ達が成し遂げたことは、セレスにとっては衝撃だったのだろう。

 護衛達からも、ざわめきが起きる。


「もしかして新たに名前が付いたのも……」

「その時に私とダンジョンコアとで契約したからですね」

「そうなのですね! 急にドロップアイテムに名前が付いていたりダンジョン内の魔物の強さや報酬が変わったので、おかしいと皆が話していたのですよ。それもヒナノ様が関係していたのですね!」


 ヒナノとダンジョンコアのエレノアが契約したことと、ダイヤモンドによるダンジョン強化というのが、以前のダンジョンと違う原因なのは間違いない。


「まあ、そうなりますね」

「神託でもそこまでの細かい説明はありませんでしたわ」


 神様も必要の無い情報だと判断したのだろう。


「では、あのダンジョンにヒナノ様が作ったネックレスが隠されているのは間違いなさそうですね」


 そう言ったセレスの目が光ったように見えた。


「あなた達、至急ダンジョン攻略の部隊を編成しなさい! 宝箱を回収してネックレスを発見するのよ!!」

「承知いたしました!」

「急げ! 姫様のご命令だ!!」


 周りの兵士達はバタバタと慌しくなり、行動へ移す。

 どうやら王都に向けて伝令が走るようであり、詳細を詰めているようだ。

 何だか大袈裟な話になってしまった。

 まあ、今この場で同じネックレスを作ってもいいのだが、セレス達がやる気になっているのに水を差すのもどうかと思うヒナノ。


 人が入ることでダンジョンは潤うとエレノアは言っていた。

 装備品を回収したり、冒険者の出す魔力を吸収したりといったことがダンジョン発展の一つの要因になるらしい。

 冒険者とダンジョンの共存、どちらが欠けても衰退してしまうのが自然の流れ。

 そこにメリットデメリットがあるだろうが、お互い納得しての行動のはず。

 ヒナノが危ないから行かない方がいいと止める必要もないだろう。

 

 ということでエレノアダンジョン攻略部隊が編成されるようであった。


「セレス様、このネックレスを見て、しきりに欲しがっていたから」

「そうみたいね。なかなか楽しい姫様ね」


 リリアもセレスを何とも言えない目で見ている。

 セレスは厳かな神の巫女みたいな雰囲気というよりは、親近感のわく人間らしい人物、そうヒナノは感じた。


「そうだヒナノ、探していた物があったわよ」


 リリアは思い出したかのように言った。


「えっ、本当にあったのね。さすがリリア!」


 初めてリリアに会った時にヒナノは米と醤油を探してくれないかと依頼をしていた。

 でもまさか本当にあるとは思っていなかったようである。


「私も知らなかったのだけれど、調べたら両方とも遠い東の方の国で作られているみたいよ」

「そうなのね。よく手に入ったわね」

「ええ。知り合いの商人がたまたま産地を知っていて取り寄せて貰ったのよ」

「ありがとうリリア。嬉しいわ」


 米と醤油があればできる料理も色々と増える。

 リリアの話によると米はこちらの気候では育ちにくく、醤油の製法は秘匿のようであり東の方の国の特産としてしかないらしい。

 もしかしたら自分の他にも異世界人がいて、この世界に伝えたのだろうか。

 世界は広いのだからそんな人間がいても、おかしくはないはず。

 

「そうなのね。いつか自分でも作れたらいいわね」


 元日本人としては米と醤油は欠かせない。

 出来る事なら安定供給したいところである。


「えっ! 米と醤油をヒナノが作るの?」

「まあ、作れたらだけれど」


 難しそうではあるが、時間はあるのでなんとかなるだろうとヒナノは思う。


「いいわねそれ! エステラータ王国産の米と醤油。うん、絶対に売れるわヒナノ! 私も一枚かませて!!」


 すっかりリリアが商人の顔になっている。

 どうやらこちらの世界の女性は逞しい人が多いようであった。

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