第80話 精米機と飯盒
「お米と醤油ですか? わたくしは食べたことありませんわ。ヒナノ様は食べたことがあるのですか?」
「ええ、私の故郷ではよく食べていました」
セレスの疑問にヒナノは答えた。
セレスというよりは、エステラータ王国の人間はどうやら米や醤油を食すことがないようである。
他国の特産ということでリリアもヒナノが作れるならと喜んだのであるが、実は自分では食べたことがないらしいのでセレスとリリアを交えて急遽、試食会を開くことになった。
貰った米は白米というよりは若干茶色がかっていて、玄米と白米の中間ぐらいのもので5ぶづきとか言われるものだ。
精米技術が低いからなのか、それとも他の国にはあえて白米を出さないようにしているのかもしれない。
そこら辺のことはヒナノには分からないが、白米より栄養価が高いといわれているので前世ではヒナノもたまに玄米を食べていた。
ただ、米の良さを分かってもらうのなら、やっぱり白米だろうと思いヒナノは精米することにする。
簡易的な精米機ではあるが、ヒナノは作製することにした。
スライム魔石から作業台を取り出して設置、その上で作業をする。
まずは米を入れるための円筒の器をステンレスで作り、周りに米が抜けないような小さな穴を開ける、網の入れ物といった形状。
底の中心部は少し盛り上げて回転用の軸が通るように穴を開ける。
更に、これを覆うような大きさの器も強化したガラスで作っておく。
中身が見えるのでいいのではないだろうか。
そして別パーツとして丸い軸に4枚の羽が付いたものを作製。
羽の形状は米を切る訳ではなく混ぜられればいいので、刃物というよりは板に角度を付けて面で当てるイメージ。
これで米をかき混ぜて磨き、剥がれた糠などが網を通り抜けて外側の器に落ちる仕組み。
「軸を回転させるにはモーターが必要ね」
周りの人間は興味深くヒナノの作業を見守っているが、時間が掛かりそうだと思い始めてきたようであった。
ヒナノが作業に没頭し始めたのだ。
レオとココの二人はヒナノが作業に集中すると長くなることを、今までの付き合いで分かってる。
レオはヒナノに結界を張ってからココと周囲の探索に出掛けたようであった。
結界はヒナノの体に合わせた大きさで張り、動きに合わせて変形するので邪魔にならない、レオの結界能力も上がっているようである。
ヒナノが誰かに危害を加えられることはないとは思うが、意外に心配性なレオである。
リリアに関してはヒナノが気に入っているようであり、セレスは国の代表の人物であるのでヒナノと同様にレオは結界を張っておいた。
レオは細かな気配りが出来る男(雄)なのである。
ヒナノは昔習った理科の授業を思い出しながら、磁石と銅のコイルを使って回転の機構にチャレンジする。
動力は【レイオームの魔石】を使って魔力を電力に変換、魔力の強弱で流れる電力も変わるので調整が必要だ。
試行錯誤の上、何とかモーターらしきものはできたようである。
ボタンで流れる電力を三段階に変えられるようにしたことで、回転速度を変更できるようになった。
米をかき混ぜることができるミキサーのような物が出来上がった。
「うん、こんな感じかな」
最後にガラスの蓋を作って完成。
米を入れて試運転である。
結構音がうるさいのでエレノアダンジョンで見つけた音を出す【轟石】とは反対の【遮音石】を使う。
【遮音石】:周囲の音を遮断する。
シンプルな説明ではあるが、効果は絶大であれだけうるさい回転の音が全くしなくなった。
どんな理屈なのかは分からないが、異世界の鉱物は凄い物が多い。
回転した羽が米を混ぜ磨いていく。
あまり回転を早くすると米自体が割れてしまいそうなのだが、どうやら上手くできたようであった。
「うわっ! ピカピカね!」
日本の米と同じような大きさであり磨かれて艶があり白い、精米は成功したようである。
「綺麗ですわね!」
「本当に初めとは違って美しいですね!」
まだ、生米を作っただけではあるが、セレスとリリアは感心している。
残った糠を使ってクッキーを作るのもいいかもしれない。
玄米は捨てるところはない貴重な食材だ。
次に米を炊かないといけないのであるが飯盒か、かまどを作ろうかと悩むところ。
しかし思ったよりも精米機に時間が掛かってしまったので、今回は簡単に作れそうな飯盒を選択。
飯盒は鉄を形にすればいいだけなので直ぐに出来る。
かまどは色々とこだわりが出そうなので作るのに時間が掛かかってしまうはず。
次回の楽しみにとっておきたい。
飯盒はキャンプみたいで楽しそうなのでいいだろう。
何で飯盒はあの形なのかヒナノは知らないが真似して形状を作る。まあ、理由があるのだろう。
本体、中蓋、外蓋と鉄を変形させて作製。うん、簡単。
精米した米を入れるのだが、どれぐらいの量を入れればいいのかは分からないので適当に。
【クトゥルーの魔石】で魔力を水に変換して飯盒に入れて、水の濁りが薄くなるまで米を研いで洗う。
ちょうどよくなったら炊く用に水が浸るぐらいに入れるのであるが、ヒナノはご飯は固めが好きなので水は気持ち少なめにする。
ここら辺の水加減も勘であるので自信はない。
魔導コンロに飯盒ごと火にかける、とりあえず中火。
「ヒナノ様これは何でしょうか!」
姫様セレスが魔導コンロに興味があるのか、食い入るように見ている。
「これは火力を調整できる道具です」
「種火や魔法でもなくても火が起こせるのですね。火が規則正しく出ていますわ!」
セレスは火元を覗き込みながら言う。
魔石を使用しているので一種の魔法になるのだろうか。
「ええ。料理をするのに安定した火が必要だったので」
「えっ! もしかしてこれもヒナノ様が作ったのですか!」
「はい。魔導具ってやつですね」
「す、凄いです! こんな物も作れるのですね!」
どうやらこの世界にはない製品であったようだ。
リリアの目が光った気がしたが、ヒナノは大量に作るつもりはないので先に言っておく。
「リリア、販売はしないわよ」
「ええ~、そんな! 絶対に売れる! 間違いないわ!!」
リリアは見た目とは違って、子供っぽく不満を口にした。
商人としたら商機なのだろうが、今のところヒナノにはそんな気はない。
飯盒から水分が吹きこぼれて来たので強火にする。
さらに勢いが増してきたので石の手で押さえる、素手だと熱いので便利である、作っておいてよかった。
吹きこぼれる量が少なくなってきたので、火力を少し弱めた。
あとは焦げないように匂いに注意しながら火の番をする。
頃合いをみて火から下ろして上下逆さまにして10分ほど蒸らす。
この時も石の手を使えば熱くなく簡単である。
初めての米炊きは上手くいったのであろうか。
なかなか城攻略を始めないヒナノであった。
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