第77話 セレス登場
「わたくしはエステラータ王国の第一王女、セレスティーナ・ラピス・エステラータ・カルメル・アークトゥルス・シータ……」
「……」
冗談なのか本気なのか分からないが、王女と名乗った少女はつらつらと名前であろうものをを続ける。
ヒナノは、こんなにも長い名前を聞いたのは初めてであった。
あまりの長さに耐えられなくなったのかココは瞼が重くなり、横にいるヒナノの肩に頭をぶつけて目が覚めてまた寝る、これを繰り返す。
レオも同様にコクンコクンと船を漕ぐ。
(この二人を眠らせるなんて! 精神魔法とかそういう類いのものかしら!?)
ヒナノは少女の呪文詠唱……ではなく、名前の読み上げに驚きを感じてしまう。
もはや睡眠魔法といってもいいほどの効果であった。
ヒナノも気をしっかり持っていないと眠ってしまうかもしれない。
見かねた護衛であろう人物の一人が王女に声を掛ける。
「ひ、姫様。御使い様方が……」
王女の言葉を遮るようなことをして護衛の人物が、不敬罪にならなければいいのだけれど。
でもいい仕事をしてくれたなとヒナノは思う。
「あっ! 申し訳ございません!?」
セレスティーナ王女もヒナノ達が長い名前を聞くことに疲れているのを気がついてくれたようであった。
「残念ながら一ヶ所つかえてしまいましたわ。初めからやり直させていただきます」
「いえ、あの姫様、そういうことではなく……そろそろ……」
どうやら気持ちが伝わらなかったようである。
セレスティーナは天然な人のようであって、最初から名乗り直すらしい。
護衛も何とか止めようとしてくれているがセレスティーナは止まらない。
何とか頑張れ! とヒナノは心の中で応援する。
それでもセレスティーナは続けているので失礼かとは思ったが、ヒナノは彼女の容姿に着目することにした。
セレスティーナは美しい金髪の碧眼、細い体であるが出ているところは出ていてスタイルはいい、お姫様といえばこんな容姿であろうという人物。
間違いなく美少女である。
「……と申します」
数分後、やり切った姫様の顔は紅潮しており充実感が見て取れる。
『ん? 終わったの?』とレオが言えば、「あ、朝ですぅ?」とココが言う。
護衛達の顔も引きつっている。
「と、とても長い名前なのですね……」
誰もが思う当然の感想をヒナノは口にした。
セレスティーナは軽快に答える。
「はい。本来ならば名乗らない名前なのですが、御使い様の前でしたので正式名を名乗らせていただきました。わたくしのことは気軽にセレスとお呼びください!」
でしょうねと、ヒナノは心の中でつぶやく。
毎回あんなに長い名前は言えないし言いたくないだろう。
言う方も聞く方も辛いはず。
「【神獣】レオ様、【銀狼族】のココ様、そして【湖の主】であるヤナギ様もよろしくお願いいたしますわ」
セレスは最後にヒナノ達の後ろを覗き込むように湖に向かって言う。
まさか自分のことを言われるとは思っていなかったヤナギは不思議そうな顔をする、まあヒナノのイメージではあるのだがそう見えたようである。
レオやココは勿論のこと、昨日仲間になったヤナギのこと、そして名前までセレスは知っていた。
神様から聞いたというのは間違いなく、信じざるを得ないようである。
神獣とか銀狼族とか気になる単語もあったのだが、ヒナノは違う疑問を口にした。
「それで、セレス様は私達を待っていたのですか?」
名前の呼び方で色々とあったのだが、お互いにセレス様、ヒナノ様と様付けで呼び合うことになった。
自分が貴族のお嬢様みたいになったような気がしてヒナノは少しドキドキしたのだか詳しいことは割愛する。
「はい。わたくし聖女として主のお言葉をいただき、ヒナノ様が本日いらっしゃることが分かっておりましたので、数日前から準備しておりました」
「神様が言ってたってことですよね?」
「そうです。ヒナノ様が到着いたしましたら、こちらの城のことを説明しろとのことでしたので、お待ちしておりました」
セレスは自分の後ろの城を指さして言う。
話を聞く限りヒナノが知っている神様と同一神のようである。
城の説明をする人物をあてがってくれるなんて、ずいぶんとサービスのいい神様であるなとヒナノは改めて思う。
「では、説明をお願いします」
「承知いたしました。こちらの城は古くに建てられた物でエステラータ王国の管轄領となっております。現在は人は住んでおらず荒れ果ててしまい魔物達が住み着いてしまっている状態です」
ヒナノはエステラータ王国というのは初耳であったが、その他の話は何回か聞いたことがあった。
「今回ヒナノ様達が城の魔物を倒して一掃した際には城主として国レベルの権限を与えることを、エステラータ王国代表としてお約束させていただきます」
何だか大きな話になっているようであった。
「つまり城内の魔物を倒したらこの城の城主として住んでいいと言うことですか?」
「はい。自由にお使いいただいて構いませんし、改修改築してもらって結構です。勿論、エステラータ王国への納税の必要もありません」
街という訳ではなく国として独立した権限を与えてくれると言うことなのだろう、驚きである。
「そんなに優遇して貰っていいのでしょうか?」
ヒナノとしては優遇され過ぎて気持ち悪いぐらいである。
「はい。先程もいいましたが、この城は放置状態にありましたので今は誰も住んでおりません。古くには栄えていたようですが戦争や災害などで人が住まなくなったと聞いております。今回ヒナノ様方がいらっしゃるという御告げを聞きまして、国としては御使い様方に使っていただけた方が有用であると判断いたしました。ですので気兼ねなく住んでいただければと思いますわ」
「なるほど。でも、今巣くっている魔物を討伐できたらというのが条件ということですね」
「仰るとおりでございます。ですがヒナノ様方の実力であれば問題ないかと思われます」
どうやらセレスはヒナノ達の戦力も把握しているようであった。
「神託というのは凄いのですね」
素直な感想がヒナノの口から漏れる。
「はい。ですがここまでの情報を一度にいただいたのは初めてのことでありますわ」
特別に詳細を神様が彼女に伝えたかったのだろう。
ヒナノとしては話が早くていいのだが、不思議な感じもする。
「勿論、城を攻略するしないも自由でありますわ。他の場所に行って貰っても構いません。ヒナノ様方の自由にしていただいて結構ですわ」
至れり尽くせりである。
情報も貰えて選択の自由もある、ずいぶんと気前のいいことであった。
これほど自由にさせてくれるのも、それだけこの国が神への信仰が強いということなのだろうか。
神の言葉は絶対なのだろう。
ヒナノとしては答えは出ている。
「では城の攻略をさせて貰います」
ヒナノは城を攻略する選択をしたのであった。
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