第20話 魔石で魔法が覚えられるようです
「レオ君、火の魔法が使えるってどういうことなの?」
突然そんなことを言われても、いつも通りに魔石を与えただけのヒナノとしては困惑してしまう。
『えーとね、僕が持っている魔法は雷だけなんだけど、ヒナノに貰った魔石を食べたら火の力が宿ったみたい。体の中に力を感じるんだ!』
「新たに使えるようになったってこと?」
『試してみないと分からないけど、多分そうだと思う』
レオも半信半疑な様子で戸惑いがあるようである。
「じゃあ、やってみようよ。もしそうなら凄いことだよね!」
『うん、後天的に能力が得られるなんて普通はないよ!』
野生で生きてきたレオには、そんな経験は無かったようである。
生まれ持った能力で生きていくのが普通であり、能力が増えていく魔物などいなかったらしい。
『じゃあ、使ってみるね』
レオはヒナノから離れて岩の前に立つ、どうやら岩に向けて火の魔法を撃つらしい。
落ち着いた雰囲気のレオ、集中しているようである。
『にゃん!!』
可愛い掛け声と共に放たれた魔法は……凶悪だった。
ゴーっと激しい音と共にぶつかると巨大な岩を溶かし穴をあけ、溶けた石粒や火の粉が周りに飛び散る。
それらは周辺の木や草を燃やす。
『あっ!?』
「ああ、大変! 火事になる!」
ヒナノは急いで消化する手段を考える。
思い付いたのは火が燃え移った木の前の土を【変形】【移動】で削り取って火にかけて消すこと。
(土にだって鉱物入っているでしょ!)
思った通り土に対しても能力の使用は可能であったが、効果はヒナノの想像以上だった。
地面に巨大な穴が口を開いた、そんな表現が正しいかもしれない。
「ええっ!?」
驚いているヒナノの目の前で周りの木や草は飲み込まれていく。
火の付いた木や草も、レオの火の魔法により溶けた岩さえも穴に落ちていった。
「『……』」
結果オーライであった。
「はっ、えっと穴を塞がないと!」
大きく空いた穴を周りから閉じるように埋めると、落ちた木は完全に見えなくなり、元の地面に戻る、消火完了であった。
(べ、便利ね)
ヒナノは他にも燃えている木や草がないか確認して同様に消火していった。
見渡すとそこら辺一帯だけ木や草が生えていない場所になってしまい、知らない人が見たら違和感を感じるレベル。
あきらかに人為的な力が働いた場所となった。
「ふーう。もう大丈夫そうね」
『ありがとうヒナノ。ごめんね』
「ううん、全然大丈夫だよ。それにしても火の魔法、凄い威力だったね」
ヒナノはレオを責めることはしない、申し訳なさそうにしているレオも可愛いのである。
『うん。まさかあんなに威力があるとは思わなかったよ。そんなに魔力を込めたつもりはなかったのに……』
どうやら岩がどろどろになってしまったのは、魔法がレオの思っていた以上の威力だったかららしい。
「岩が溶けるなんて魔法って凄いのね」
『うーん、多分これ、ヒナノが原因なんじゃないかな』
「えっ! 私が? どういうこと?」
まさかの展開にヒナノは驚く。
『火の魔法はヒナノの魔力が宿った魔石を食べたら貰えた力だし、通常自分で持っている魔法はもっと制御しやすいんだよ』
「強引に後付けされたから威力の調整が難しいってこと?」
『そうそう、それに威力の最大値も高いから制御を間違えると今みたいになるね』
「そうなんだ」
魔法を持っていないヒナノとしてはそこら辺の感覚は分からない。
レオが感じているならそうなのだろう。
「じゃあ、使わない方がいいってこと?」
『うん。慣れるまでは無闇に使わない方がいいかも。練習して制御できるようになってからの方が良さそう』
「そっか。火の魔法で種火を点けて貰うのは止めた方がいいかな」
『そうだね』
そんなことをすれば焚き火用の木々は勿論のこと、辺り一面消し炭になるのは必至である。
昔から使っていて制御できている雷の魔法で火を点けて貰うのが無難であろう。
只、ヒナノにはもう一つ試したいことがある。
ラグビーボール状の【ヘルハウンドの魔石(特異種)】から一摘まみ欠片を取り出す。
それを【変形】で伸ばしたものを巻いて筒状にする。
鉄鉱石を棒状に伸ばしたものをその中に通して接着、固定。
銀色の鉄の棒の先端に赤い魔石が巻き付いている物が完成。
『なにそれ? 僕にくれるの?』
意外にレオは食いしん坊である、でも今回は食用ではない。
「これは火をつける道具よ」
『うん? 火を?』
レオはどうやらしっくり来ていないようであり、首をかしげる。
意外に人間ぽい仕草をする子猫レオ。
「まあ、見ててレオ君」
作った棒に魔力を少しずつ流すヒナノ。
手元から先端に向かって魔力が流れていくと魔石に到達、ほわっと魔石は赤く輝くと先端に火がつき、まるで大きなマッチのようであった。
魔力量を多くすれば火の勢いは増し、弱めれば火は小さくなる。
「成功ね。魔法の杖みたい」
『へえ~、それで火を付けられるんだね』
「そうそう、レオ君に頼まなくても私でも火をおこせるようになったわ」
『人間って面白いこと考えるんだね』
人間の言葉は分かるのにレオは人間社会のことはあまり知らないようである。
100年生きているみたいだけど、人間とはそれほど関わってこなかったのだろう。
「ふふ、人間って便利な道具が好きなのよ」
『そうなんだ。でもそんな物、作っている人間いなかったけどなあ』
おやっとヒナノは思う。
神様からの説明によると、この世界は中世ヨーロッパ風の剣と魔法の世界と聞いていた。
魔法が発達していれば魔導具なるものが発達していてもおかしくないのが、異世界の常識だとヒナノは前世の学生時代に本で読んで知っている。
レオが知っている人間界にはなかったのだろうか。
でも、この世界のどこかにはあるのかもしれない。
どちらにせよ工夫をすれば魔導具が作れそうなので、色々な鉱石や魔石を集めて試してみよう、ヒナノはそう思う。
出来上がった杖でやりたいことがあったので、ヒナノは大きな岩の前に向かう。
レオには少し離れて貰う。
「あー、あー、うっ、うん!」
ヒナノは喉の調子を整えると、先程作った巨大マッチである杖を手に持ち岩に向ける。
「ファイアーーーーー!!」
叫んだ瞬間にヒナノは魔力を杖に注ぎ込んだ。
魔力が手元から先端の魔石まで一気に進む。
恥ずかしい、それがヒナノが叫んだ自分自身への感想であった。
見た目は少女だが中身は大人な心が、羞恥心が邪魔をする。
恥ずかしさのあまり顔は赤面、誰かに見られていたら地面に穴を空けて逃げ隠れるレベル。
今のヒナノの能力なら実現可能である。
詠唱には憧れはあったが、実際にやってみると恥ずかしいものであった。
肝心の杖による火の魔法であるが、ヒナノが想像していたものとは違った。
火の玉が飛んでいってドカンとなる予定ではあったが、実際には火炎放射器のように杖から連なった大きな炎が岩の表面にぶつかる程度で、レオのように溶けて貫通するとかではなかった。
魔力供給をストップして見てみると岩肌は黒く焦げていた。
こんなに炎は出ていたのだが、手元は鉄なのに熱くならないのは謎である。
その時岩の後方から煙と火が上がった。
「ああ、不味いわ!?」
岩を回り込んだ炎が木に引火、……火事である。
『あっ!』
「しょ、消火あああああ!」
ヒナノは辺りに燃え移った火を、必死に土をかけてなんとか消火した。
「はあはあ……はあ」
『……』
「ええっと……お互い気をつけようね」
『う、うん』
今後、火の扱いには注意しようと、ヒナノとレオは思うのであった。
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