第21話 香る鉱石

 火の扱いを心と体で学んだヒナノとレオは食事にすることにした。

 火事はダメ絶対! の精神でこれからは火を扱うと誓うヒナノ。

 慎重になり過ぎるぐらいが、ちょうどいいのである。


 消火用の水を入れる容器は変形の能力で石を薄く伸ばしてバケツのように成形、両脇に取手を付けた。

 軽いとは言えないが持ち運びする訳ではないので消火できる水が入ればいい、贅沢に神様から貰ったペットボトルの水を6本分入れてある。

 何かに引火したらすぐに掛けるためのものなので少なめ。

 川から汲んでくればいいのだが、10日間は水の量が減らないのでいいだろうという結論に至る。

 火の勢いが強く水だけではどうしようもない場合は、地面に大きな穴を開けて火元ごと落下させてもいい。

 むしろそちらの方が確実だろう。


「あっ、そっか下に金属の板でも敷こう!」


 湿った土で周りを囲えば良いかもしれないが、燃えかすが下に落ちて周りに燃え移らないようにすれば、火事になりにくいはず。

 ついでに金属で板を作れば能力の成長に繋がるので一石二鳥。

 

 ということでストックしてあった鉄鉱石を取り出して、薄く伸ばしていく。


 ここまで能力を使ってきて分かったことがある。

 固い物ほど変形に時間がかかるということだ。

 偶然ではあるが、ヒナノが固い鉄の塊で【変形】の練習をしていたのは効果が高かったということであり、多くの経験値が得られていたということになる。

 だからこそ火事になりそうになった時に、土に対して能力を使用したら大きな穴が空くという効果をもたらした、鉄より柔らかい土の方が操作しやすいということだろう。


 能力の使用は能力向上のためには必要なことであり、固いもので練習した方が効率がいいということである。


 空気の通り道のために、作った板に等間隔で小さめの穴を空けていく。


「地面と少し間隔をとった方がいいわね」


 そのまま地面に置いてしまうと空気が通らなくなりそうなので、四隅に柱を立ててその上に鉄板を取り付け、その上で火を起こすそんな感じである。

 柱は岩石を棒状にしたものであり、【合成】により鉄板に取り付けることができた。

 鉱物であれば材質がなんであれ能力が適用されるので、違う材質でもくっ付いたと思われる。


(これって凄いことかも!)


 鉄と石が接着できてしまうのだから、色々と用途は広がりそうである。

 

 まずは燃えやすいものと細い枯れ木を鉄板に敷いて、自作した着火用の杖で火をつける、うん便利。作って良かった。

 勿論、使用魔力は最小から始め、火がつかないようなら量を増やすという慎重点火、一気にはやらない。

 細い枯れ木に火が燃え移ったので、太い枯れ木を投入、火を大きくしていく。


 先程、成形しなおしたフライパンを取り出し食材を火にかける。

 結局のところ今は食材を焼く事しかできないので、こうやって食べるしかない。

 今度は鍋でも作ろう。

 


 食事が済んだあとヒナノ達は先に進むことにした。

 色々と刺激的なことが多いので城に向かうという目的を忘れそうになってしまう。

 城まで残りどれぐらいの距離があるのか分からないので、ヒナノはレオに確認してみる。


『うーん、まだまだ遠いかな』

「えっ、まさか迷子とかじゃないよね」

『ほ、方向はあっているから、だ、大丈夫なはずだよ!』

「そ、そう?……」


 なんとも心強いお言葉である、というのは強がりでレオの戸惑い口調に不安を感じてしまうのは仕方がないことだろう。

 でも、ヒナノとしては可愛いレオとの旅は楽しいので、10日の間に城に到着できなくてもいいかなとも思っている。


 城に向かうのは目的として、今は色々なことを楽しんでやっていきたいというのが本音だろう。

 しばらく二人で歩いていると開けた場所に出る。

 地面には土ではなく、ごつごつとした岩が敷き詰められており無機質な印象。

 

 だが鉱物を知覚できるヒナノの目には違って見えた。

 岩の地面は所々で色の違う光を放っていて、同じ色の物は大体一つのエリアに固まっている。

 同じ鉱石同士が集まっているってことなのかもしれない。


 赤、青、黄色、様々な光が辺りを覆いつくす。

 まるで鮮やかな光の花畑のような感じである。

 

「綺麗ね……」


 キラキラとした輝きに思わずヒナノの口から言葉が漏れてしまう。


『えっ! この岩の地面が?』


 レオには鉱物に関する能力はないので、只の岩の地面を綺麗だとは思えなかったのだろう。

 目に映る印象は二人の間で随分と違うので、レオがそう思うのも仕方がないことかもしれない。


『へえ~、ヒナノにはこの地面が光って見えるんだ』

「そうなのよ。能力のせいでそう見えるみたい」


 魅力的に映って見えるならば、もしかしたら今まで見たことが無い鉱石があるのかもしれない、ヒナノは期待していしまう。

 光っている地面に触れてヒナノは能力を発動させる。


【ラベンダー鉱石】:ラベンダーの効果を持つ石。


「ええっ! 何それ!」

 

 ヒナノは隣の鉱石を鑑定する。


【ローズ鉱石】:バラの効果を持つ石。


 ライラック、クチナシ、ミント、タイム、カモミール等々。

 次々と鑑定をしていくと香りの良い花やハーブの名前が付いた鉱石が見つかった。

 季節感はバラバラであるが、色々な種類の花やハーブが鉱石として存在しているようである。


「さすがは異世界ね。変わった物があるのね」


 前世では無かった鉱石にヒナノは驚く。


『そうなんだ。僕には只の石にしか見えないけれど。これって美味しいの?』

「どうなんだろう。レオ君、食べてみる?」

『もちろん!』


 愚問のようでした、レオは自分では鉱石に噛み付かないのでヒナノが取るのを待っているのだろう。

 ヒナノは地面にある鉱石を千切って丸める。

 いつも通りこれだけでヒナノの魔力が微量に鉱石に含まれたはず。

 ラベンダー鉱石と名前が表示されたので、いい香りがしそうだがヒナノが嗅いでも匂いはしない、とりあえずレオに差し出す。


「はい、どうぞ」

『ありがとう!』


 いつも通りのやり取りで、レオは鉱石を口に咥えて食べはじめる。


『うんうん、噛めば噛むほど、ほんのりいい香りがして美味しいし楽しいね』


 気分も上がるようであった。


「やっぱり名前のとおり、香りがするんだね」


 これで何も匂いがしませんと言われてもヒナノとしては戸惑ってしまう。

 違う鉱石も試してみたが、やはり名前どおり、この鉱石達は皆それぞれ違う匂いがするようであった。


 さて、毎度のことながらレオは期待した目でヒナノを見ている。

 ヒナノも慣れたもので既に鉱石に魔力チャージを始めていた。


【ラベンダー鉱石】:ラベンダーの効果を持つ石(ヒナノ魔力入り)知力+1


「知力がアップするみたいね。はい、どうぞ」

『ありがとう!』


 レオが『くうううっ! おおお!』と鉱石を堪能している間にヒナノは思いついたことがあったので、やることにした。


 アイテムボックスからペットボトルの水を取り出す。

 そこに小さく千切ったジャスミンの鉱石を中に入れる。

 じばらくつけておくとジャスミンの香りがする水になった。


「いい匂いね」


 これなら香水とか芳香剤として使っても良いかもしれない。

 鉱石のままでは匂いはしないが、水に浸けると香りが染み出すようである。

 

 ヒナノはこの水を飲んでみることにした。

 花の名前の鉱石など怪しさ満載であるが、何となく飲んでも平気なのではないかとヒナノは感じている。

 鉱物使いという能力のせいと考えるのが自然であるが、本当のところは分からない。


(んっ!)


 ひとくち、口に含み様子を見るが特に舌が痺れるとか痛いとかはない。

 味はまあ、水である。

 ジャスミンということで香りはいいので、お茶とかに混ぜれば美味しく飲めそう。

 

 レオのおやつにも丁度いいし、他にも色々な用途に使えるかもしれない、アイデアはある。

 ヒナノは香る鉱石を回収することにした。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る