第19話 ヘルハウンドの魔石

 爆音が聞こえてから少しして、レオは帰ってきた。

 あれだけ激しい衝撃があったのにも関わらず、何事もなく澄ました様子である。


『ただいま、ヒナノ』

「お帰りレオ君。平気そうで良かった、大丈夫なの?」

『うん、平気だよ』


 とくに怪我をしている様子はないので一安心である。


「さっきの凄い音と光はレオ君の魔法なのよね?」


 ヒナノが見たことがある魔法は肉を焼く時に火を付けてもらう際にみた威力の小さいもの。

 あれほどの規模の魔法をレオが持っているとは思っていなかった。


『そうだよ。ちょっと頑丈そうな魔物がいたので魔法を試してみたんだ』

「試したの?」

『そうそう。別に魔法じゃなくても余裕で倒せたんだけど、気になることがあって使ってみたんだ。それでやっぱり今までと違うなってことが分かったよ』

「何かが違ったんだ?」

『うん。今までよりも魔法の威力が増していたんだ。それも凄く!』

「そうなの?」


 魔法には詳しくないのでヒナノは曖昧に答えるしかない。


『本来なら肉も残るはずだったんだけど、威力が強すぎて魔物を焼き尽くしてしまったので、魔石しか取れなかったからね』

「何か理由があるの?」


 ヒナノには見当が付かずレオに質問する。


『多分、ヒナノに会ったからだと思うよ』

「えっ私? どういうこと?」


 益々、ヒナノには分からない。


『うーん、僕にもよく分からないんだけど、主従契約による主人の能力の上昇は考えられるんだけど逆は聞いたことがないんだよね……』


 つまりヒナノと主従関係を結んでいるレオは、ヒナノが主でありレオは従魔であるのでヒナノには恩恵があるがレオにはないと言いたいようだ。

 魔法の威力が上がる要因にはならないし、主従関係とはそういうものらしい。


「でも、魔法の威力は上がっていたのよね?」

『そうなんだよ。だからあと考えられるのはヒナノから貰っている魔力入りの石や宝石が原因なんじゃないかなって思うんだ』

「えっ!? あれにそんな効果があるの?」


 鉱物や宝石に魔力を込めているだけの物であり、ヒナノは他には何もしていない。

 

『うん、それしか考えられないんだよね』

「美味しいだけじゃなかったのね……」


 食べた時にレオの体が光ったり大きく見えたりしたのは錯覚ではなかったようである。

 パワーアップしていることを現していたのかもしれない。


「でも、それで威力が上がるんならいいんじゃないの?」

『そうだね。でも普通は能力を上げるは大変なことなんだよ』


 訓練や実戦を経て経験値を溜めて強くなっていくのが自然なことなのだろう。

 それを宝石を食べただけで強くなるのは、レオとしては気が引けるのかもしれない。


「じゃあ、これからはレオ君が食べるようには作らないようにするね」


 ずるをして強くなっても仕方がないかもしれない。

 レオが喜ぶ姿が見れる一つの手段が封じられてしまうのは、ヒナノとしては悲しい。


『いやいや、そうは言ってないよ! これからも作ってよ!』

「えっ? 今の流れだと反則は良くないってことだよね? だからもう要らないってことだよね?」

『そんなことは言ってないよ。不思議だねって言いたかっただけだよ!!』


 どうやら魔力入りを作ってもいいようである。いや、むしろ積極的に作ってくれとヒナノにはレオの心の声が聞こえた気がした。


「分かりました。レオ君のために美味しいもの作るね!」

『うん! お願いします!!』


 この決断が後に最強の魔物レオを産み出すことになるとは、ヒナノもレオもこの時は気がついていなかった。


『そうそう、ヒナノにお土産だよ』

「えっ、なんだろう」


 レオは首輪に付いたスライム魔石から色々と取り出す。

 収納機能は問題なく使えているようである。


 果物や木の実、小動物と思われるものの肉、卵。

 そして……。


「赤い、魔石?」

『そうだよ。さっき話していた魔物の魔石だよ』

「大きいのね!?」

『うん。体が大きい奴だったので、種族の中でも強いと言われる特異種だったみたいだね』

「そうなんだ」

 

 ヒナノとしては魔物の種類とかは分からないので何とも言えないが、これだけの大きな魔石は初めて見た。

 凄い魔物だったのだろうことは想像できる。

 只、それを平然と倒してくるあたり、レオはヒナノが思っているより相当強いのだろう。


 魔石は形状も大きさもラグビーボールぐらいもあり、赤と灰色が入り交じった色で表面はつるっとした手触り。宝石の様な輝きはないが一部が鈍く光っていた。

 こんな物が体の中にあるのだから魔物とは不思議な生き物である。

 人間でいうところの心臓、核のようなものなのだろうか?


【ヘルハウンドの魔石(特異種)】:強力な個体の魔石。火の力を宿している。


 例によって【鑑定】が自動発動、魔石の内容を教えてくれる。


「ヘルハウンドっていう魔物だったのね。火の力があるみたい」

『そっか、ヒナノにはどんな魔石か分かるんだったね』

「そうそう」


 鉱物と魔石に関してはヒナノは調べられるのである。


『火の魔法を使っていた魔物だったから、その魔石が関係しているのかもね』

「うん、そういうことだと思う」


 火を使う魔物だから火の魔石なのか、火の魔石を持っているから火の魔法が使えるのか。

 何だか卵が先か鶏が先かみたいな話だが、これを使えば火を操れるとかそんな期待がヒナノにはある。

 その前にやらなければならないことがある。


「レオ君、味見してみる?」

『当然でしょ!?』


 愚問だったようである、当然のごとくレオは頷いた。

 ヒナノはヘルハウンドの魔石を指で摘まみ引っ張る。

 魔石の表面は硬いはずであるのだが、摘まんだところだけが伸びて千切れた。

 それをヒナノが丸めるとレオにも食べやすい大きさの魔石が出来上がる。


【ヘルハウンドの魔石の欠片】:火の力を宿している。ヒナノの魔力有(小)


「はい、どうぞ」

『ありがとう! うん、美味しい! ん? 何だか体がぽかぽかするね!』

「そうなんだ。やっぱり火の魔石だからかな?」


 食べ終わったレオはヒナノをきらきらした瞳でヒナノを見上げている、期待している目であり、あざとすぎる可愛さである。


「魔力入りが欲しいのね?」

『うん! お願い!!』


 そこまで元気に可愛くせがまれたら、断る選択肢などヒナノにはない。

 再度、ヘルハウンドの魔石から小さく切り取り丸めて魔力を込めた。

 勿論、たっぷりめである。

 

「はい、どうぞ」


 パクっと口に入れるレオ。


『ぐ、ぐおおおお、う、旨いよおおおおおお!!』

「レオ君の絶叫いただきました!」


 レオの体は一瞬赤く光輝いた、綺麗である。

 食べ終わり少し落ち着きを取り戻した時に、レオは言った。


『僕、火の魔法が使えるようになったかもしれない』

「えっ!?」


 どうやら今回の魔石には魔法獲得の効果があったようであった。

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