第18話 地道な訓練
レオがヒナノのダイヤを堪能したあと、神様から指定された目的の城へ二人、徒歩で進む。
ヒナノの前をとことこと進んでいくレオを追いかけていく。
その間にヒナノは手で握れる程の大きさの鉄の塊を持っている。
これは能力を向上させるために鉄を変形させる練習で、丸い鉄を握ることでつぶし、また丸い状態に戻す、そんな作業を繰り返し行っていた。
周りからみれば鉄の塊で握力を鍛えている女性に見えなくもない。
どれだけ怪力なんだよという話である。
只、これはヒナノが怪力という訳ではなく、そういう能力であるということを、可愛らしい女性を目指しているヒナノの名誉のために言っておいた方がいいだろう。
あくまで能力を成長させるための練習なのである。
両手で捏ねたり伸ばしたりしていれば、鉄ではないのかとも思えてくる。
丸い鉄を左手で持ち、右手の親指と人差し指で摘まみ伸ばす、伸びた鉄はまるで粘土のような柔らかさであり、そこだけ見れば固い金属であるとは思えない。
(変形の能力は上達してきたわ。これなら色々と道具が作れそうね)
生活をする上で必要な物は結構ある。
今までは買っていれば良かったのだが、人間がいる街に行くまでは作るしかない。
これは贅沢品に限らず普通に生活をするだけで、色々な恩恵を受けていたことを実感させてくれる。
まずは食器であるスプーンを作ることにした。
歩きながらやるのは意外に難しいが、能力に慣れるためには必要なこと。
城に向かわなければならないことと、経験値も多く入るような気がするのでヒナノはそうしている。
鉄を薄く伸ばして適当な長さにする。
外形を整えて形状を作る。
括れを作り持ち手は自分の手に合う大きさにする。
先端は指で押して凹みを付ける。
変形の能力は中級であるCなのでこんなものなのだろか。
もっとレベルが上がれば出来上がりも違うのかもしれない。
『それは何の道具なの?』
「これは物をすくって食べるための道具なのよ」
『ふーん』
手を使って食べることのないレオにはピンとこなかったようである。
『でもヒナノが作るものは美味しそうだね』
「そうなの?」
(ん? 魔力が混じっているのかな?)
出来上がったスプーンを凝視してみると周りがうっすらと光って見えるのでヒナノは鑑定してみることにした。
【スプーン】:普通の鉄のスプーン。ヒナノ作。若干魔力を帯びている。
どうやらヒナノが能力を使用して作製する物は魔力が込められるようである。
魔力を使っているから鉄を粘土のように捏ねられるとも言えるかもしれない。
ヒナノの魔力好きなレオにとっては美味しそうに見えるのも仕方がないのだろう。
「レオ君、これは食べ物じゃないから食べちゃダメだよ」
『うーん残念。じゃあ魔物でも狩ってくるね』
「あっ、うん分かった。気を付けて行ってきてね」
子猫の割に狩猟本能が強いレオは狩りをするのが好きなようである。
『ここを真っ直ぐいけばいいから』とレオが示した城があるであろう方向にヒナノは進みながら能力向上に勤しむ。
以前に作ったフライパンをスライム魔石から取り出してみると、表面に錆が浮いている。
やはり錆止めの処理がされいないので仕方がないのだろう。
ところどころ茶色である。
只、ヒナノが自分で使うには問題ない。
「えいっ!」
ヒナノが魔力を込めフライパンを裏返しにして振ると、表面にあった錆は粉となって地面に落ち、フライパンは新品のようになった。
これは能力で錆だけを鉄から取り除いた結果であり、鉄を抽出した時と同じように不純物だけを分離させたのである。
ヒナノならフライパンを使用する際に毎回やればいいのだが、誰かが使う場合は注意しなくてはならない。
他の人間はヒナノのような能力があるわけではないので、錆びは擦らなければ落ちない、手間が増えてしまう。
錆びにくい処理を表面にするしかないのだが、ヒナノには今のところどうしていいのか思い付いていない。
とりあえずはフライパンの歪な形状を直していく。
勿論、歩きながらである。
能力が低いうちに作った物なので形が悪い、修正が必要。
多分、表面がボコボコしていると具材の火の通りが悪くなり焼き上がりにムラができるはず。
表面を手でなぞり凹凸を減らして均一にしていき、外形も整えた。
変形の能力値が中級になったので上手くなったようである。
「うん、こんなものかな。私も成長したわね」
一応は表面はつるつるしていて以前に比べれば見違えた出来映えである。
まだこちらに来てから数日しか経っていないが、能力が目に見えて上がっているので、神様から貰った能力は成長率がいいのかもしれない。
微妙な能力かもしれないと思っていたのは許して欲しいとヒナノは思う。
ドゴーーーーン!!
突然、けたたましい音と光と共に大地が揺れる。
「きゃっああ!? えっ、なに、なに? 雷?」
上空が光り凄まじい音と地面への衝撃、雷が落ちたときはこんな感じなのだろうか。
ヒナノには影響が無かったが、雷だとすれば光った瞬間に音も鳴ったのでそれほど離れていないようである。
「黒い煙が……レオ君大丈夫かしら?」
方向的にはレオがいる方角であると、ヒナノはレオの契約者として位置を感じることができた。
黒煙が上がるその場所に何かが起こったのは間違いない。
『大丈夫だよ』
レオの念話であった。
「えっ!? レオ君聞こえるの? 凄い音がしたけど大丈夫なの?」
『うん、平気だよ。今のは僕が魔法を使った音だからね』
「そうなんだ。無事ならいいの」
『少し問題があったけど、帰ったら教えるね』
「あっ、うん分かったわ。気を付けて帰ってきてね」
『はーい』
問題があるのは気になるが、どうやら無事なようで良かった。
レオは目に見える範囲にはいないようであるが念話はできたようである。
まるでレオが近くにいるようにヒナノには鮮明に聞こえた。
どれぐらいの距離まで聞こえるのだろう、異世界は色々と不思議であった。
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