第23話 ココ登場

 獣人の女の子はレオに何度も地面に転がらせられるとヒナノの存在に気がつく。


「あ、あなたがあの猫を使役しているのですね!」

「えっ、えっ!」


 どうやらヒナノをターゲットに変更したようである。

 使役した人間を倒せばレオが弱くなるとでも思ったのか、彼女は最悪の選択をしてしまったことを理解していない。


ガキンッ!!


 獣人女の子はヒナノに向かい襲いかかってくるも、レオが張っている結界により彼女の攻撃がヒナノに届くことはなかった。


「うぐっ!」

「きゃっ!? えっ、あれ?」

「攻撃が通らないですぅ!?」


 本当に結界は機能していたのねと、ヒナノは胸を撫で下ろす。

 あんな音がする攻撃が体に当たっていたら、怪我だけでは済まないかもしれない。


 だが、このことがレオの心に火をつけたようであった、凄まじい圧力がレオから放たれる、殺気というものなのだろうか。


『お、お前! ヒナノに何しているんだあああ!!』

「ひ、ひいいい!」

「!?」


 レオの怒号受けた獣人の女の子は怯えた声をあげ、ヒナノは驚きで言葉にならない。

 指向性のある殺気が彼女だけに向けられたようである。

 同時にレオの背中に光の羽が現れた、ヒナノが認識できたのはそこまでであった。


 レオはヒナノの視界から消えてしまったのである。


 実際のところレオは一瞬で獣人の女の子との距離をつめて一撃を加えたのである。

 先程とは比べられない程の距離を凄まじい速度で飛ばされた獣人の女の子は、ぼろ雑巾のようになり地面に何度も叩きつけられて転がり、気を失った。

 いや、生きているのは不可能なのかもしれない、そんな一撃。

 原型を留めているだけでも凄いことであろう。


『ふんっ!』


 あっけにとられていたヒナノは女の子が飛ばされたであろう方向を見つめることしかできない。

 レオが自分の為に怒ってくれたことは嬉しいが複雑な気持ちもある、

 子猫のように可愛く見えてもレオは魔物であるということを、再認識させられた出来事であった。

 しばらくして落ち着いたヒナノはレオに声を掛ける。


「ありがとうレオ君、助かったわ」

『うん』


 襲われたのは一瞬であったし結界にも守られていたので、ヒナノにはそれほど恐怖心はなかった。

 何だかよく分からなかったというのが、正しいのかもしれない。


「彼女、死んでないよね?」


 獣人の女の子の心配をする余裕が、ヒナノにはあるようであった。


『ど、どうかな、て、手加減したから生きているんじゃないかな?』

「えっ、あれで手加減したの?」

『ほ、本気でやったら体は残ってないよ!』

「う、うん。そうなんだ」


 レオの本気ではないアピールにそんなものなのだろうかと思う、押され気味のヒナノ。

 どうやらヒナノと同じ人型を倒すのは、レオとしても抵抗があるようであった。

 二人で獣人の女の子の元に向かい生存確認をする。

 

「だ、大丈夫ですか?」


 意味があるかは分からないが、とりあえずヒナノは声を掛けるも、返事はない。

 ダメかもしれないとも思いつつ、ヒナノは女の子の体を揺すってみる。


「だ、大丈夫?」

「ん、んん……」

「あっ、生きてるみたい!?」

『そ、そうでしょ!』


 レオも安心したようである、初めから殺す気などなかったというのは本当らしい。

 何とか生きているみたいで良かった。

 ヒナノに対してレオはいつも優しかったし、気遣いの心があるレオに嬉しくなる。

 誰かを傷つけて何も感じない性格であるならば、ヒナノとしても一緒にいるのも辛いだろう。

 

「はっ! ううっ、私、負けたのですね」


 開口一番、上半身を起こした獣人の女の子はそんなことを言う。


「貴女、大丈夫なの?」


 優しくヒナノは声を掛ける。

 レオの一撃は生易しいものではなかった。

 生きているだけで大したものだろう。

 

「ううっ、全身が痛いですぅ」

「それで済んでるだけで凄いよ」


 ヒナノなら受け止められないであろう一撃。

 ジャイアントボアを倒した時よりも強力な攻撃を彼女は受けたはず。

 それにもかかわらず起き上がった、信じられない頑丈さである。


『て、手加減したからね』


 レオは手心を加えたことをアピールする。

 

「て、手加減してあの威力なのですか! す、凄いですぅ!!」

「貴女、この子の言葉が分かるのね?」

「へぇ? 分かりますですぅ」


 彼女は変な言葉遣いであるがレオの言葉、念話を理解できるようであった。

 同時にヒナノも彼女の言葉を理解できることに気が付く。

 

 獣人の彼女は日本語を話している訳ではない、だがヒナノには理解できる。

 これは神様から与えられた言語翻訳的な力なのだろう。

 結構、色々なサービスをしてくれているようで、神様様々である。


 言葉が通じるのであれば話し合いは可能だ。


「貴女は何でそんなに何回もこの子を襲ってきたの?」


 こんなに可愛らしい容姿のレオを襲うなんて納得がいく説明が聞きたい。

 ヒナノはペットボトルの水を差し出して彼女に問いかける。


「あ、ありがとうですぅ」


 彼女は水を受けとると可愛らしい言動と違い、ごくごくと豪快に一気に飲み干した、よっぽど喉が渇いていたのだろう。

 ぷはぁと一息付き、手で口をぬぐって彼女は話し始める。


「ええっと、つ、強い者と戦うのが強くなる秘訣だと思いまして……その猫さんから凄まじいオーラを感じたので挑戦させて貰ったのですぅ」

「何その理由、自分試しみたいなことかな?」

「そうです、そうです。うちの一族は強くないとダメなのですぅ」


 話を聞いてみるとこんな感じであった。

 戦闘適齢期? となった彼女は修行のために外の世界で戦いを経験して力をつけなければならないらしい。

 その為に家を出されて修行の日々を送っていたようである。

 そして今回相手に選ばれたのが、たまたまいたレオだったということのようだ。

 

「出会った瞬間に強者であるのは分かりましたので、挑戦させて貰ったのですぅ」


 何とも身勝手な理由と戦闘民族である。

 まあ、初めの内は戦いが好きなレオも楽しんでいたのだろう。

 しかし余りのしつこさに嫌気が差していた頃、ヒナノに対して暴挙に出たのでレオに、ぼろぼろにされたとういう感じらしい。


「圧倒的な実力! 自分の目に狂いはなかったですぅ。わ、私を猫さんの弟子にしてください!」

「『はあ?』」


 ヒナノとレオで綺麗にハモる。

 おかしな事を言い出す獣人には正しい反応だったと、ヒナノは思うのであった。

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