第31話 風呂完成
『ただいま~』
「戻りましたですぅ」
「お帰り~」
風呂が完成してしばらくした頃、食材集めに行っていた二人が帰ってきた。
『何だか凄いのが出来上がったね』
「これがお風呂ですか?」
帰ってきて温泉を見た瞬間、レオとココは驚いた反応を見せた。
ココが知っている風呂とは違っていたようである。
「そうね。さっき完成したところよ」
早速入ろうかと思ったが、ヒナノとココは服も体も汚れている。
レオは今のところ大丈夫そうに見える。
血で汚れていない限り汚れが目立ちにくい色合いなのかもしれない、分かりづらい。
ココは今までの生活と狩りで、ヒナノは回転系の技の練習と風呂作製での汚れが目立つ。
このまま入れば湯船が汚れてしまうし、着替えもないので体だけ綺麗になっても意味がない。
綺麗な洋服も必要である。
ココに着替えは持っているのかと聞いたら、着替えが入っているリュックをどこかに置いてきたらしい。
レオに出会って勝負を仕掛ける前は持っていたのだが、戦闘が始まるとすっかり忘れていたようである。
そのままレオに弟子入りしたので取に戻っていない。
「失敗ですぅ……」
「ごめんね、私も気がつけばよかったわ」
何だかココは身に付けている物しかないものだと、ヒナノも思い込んでいた。
今日は暗くなりそうなので、明日にでも戻って探してみよう。
そうココに提案すると……。
「だ、大丈夫です。特に大事な物は入っていなかったし、この服で問題ないですぅ」
「そうなの? まあ取りに戻るのは明日考えるとして、今はある洋服を綺麗にしないとね」
激しい戦闘で汚れた洋服を着ているのは問題がある、女の子なら特にである。
ヒナノも今着ている一着しか洋服は持っていないので、何とかするしかない。
「じゃあ、ココ今着ている物全部脱いで」
「えっ、は、はい。脱ぎますですぅ」
ココは少しもじもじしたが、素直に服を脱ぎ始めた。
そんなに簡単に脱いでもいいものだろうかとヒナノは思ったが、一応主従関係なのでヒナノはご主人様だ。
だからこそココは言う事を聞いたのかもしれない。
命令みたいになるのは嫌なので、今後は気を付けなければとヒナノは思う。
ココが脱いでいる間にヒナノは準備する。
【アラクネの魔石】を取り出して魔力を込めると糸が生成される、不思議な魔石。
糸は粘着性のものとサラッとしたタイプのものが出せる。
今回はサラッとしたものを使う。
サラッとした糸とはいっても、先端は何かにくっ付けられるように粘着力はある。
蜘蛛が出す糸と似ているのかもしれない。
それをヒナノは自分の身長より少し高い木の上に取り付ける。
そして糸を引いて離れた位置の木に接着。
木と木の間に糸を橋渡しし、ここに洋服をかけることにした。
糸は頑丈であり、これぐらいの重さは全く問題ない。
魔石から出た糸は移動や操作ができるので、鉱物扱いなのではないだろうか、不思議である。
自由に動かせて変形できる糸は何だか楽しい。
他の鉱物とも接着できるのでアルミで作ったハンガーを風で飛ばないように糸に接着しておくなんてことも可能だ。
通常は綺麗に洗った洗濯物を干すのだが今回は違う、汚れたままかけた。
「き、汚いまま干してどうするのですぅ?」
もっともな意見であり、ココとしても不思議だろう。
「ここで洗濯するのよ」
ヒナノはスライム魔石から取り出した銀色の製品を見せながらいう。
『何それ?』
「な、なんですぅ?」
「これはシャワーよ」
とはいっても二人には何のことか分からなかったようである。
普通のシャワーのようにホースが付いている訳ではなく、先端部分と柄の部分があるだけだ。
スイッチ部分の魔石に魔力を通すと細かい粒子のお湯が出る、普通のシャワーに見える。
ただ、洋服にかけると汚れがみるみる落ちていく。
「え、ええっ! どうなってるですぅ?」
『へえ~』
「凄いでしょ!」
余った時間でヒナノはこれを作っていた。
定番になりつつある魔石【ヘルハウンドの魔石(特異種)】【クトゥルーの魔石(特異種)】【シームルグの魔石(特異種)】を使って作製している。
炎と水と風があれば結構なことができてしまう。
何かを一生懸命にやっていると突然、応用や全く違う物が思いついたりと人間の脳は不思議だなと、ヒナノは常々思っていた。
今回もそんな感じでアイデアが生まれたのであるが、発想に至るまでのヒントは意外と生活の中に散りばめられていたと思う。
魔導歯ブラシを作製している時に閃いたことがあったので、それを形にしてみたようである。
お湯を作りそれを細かくする機構に流し入れ、微細にしてそれに風を纏わせた。
水圧と細かい繊維の間まで粒子が入ることで、汚れを落とすことができる。
『へ、へえ~、凄いんだね』
「な、なるほどなのですぅ」
説明したが二人とも理解できていない感じであった。
でも綺麗になるのは見た目で分かるので、レオとココも喜んでいる。
ヒナノも自分の服を脱いで糸に吊るし、シャワーの温水をかけた。
人前で裸になるのは恥ずかしいものであるが、二人の前だとそんな気持ちも不思議と和らぐ。
信頼と安心からなのだろうか。
洋服が綺麗になった頃、ヒナノは言う。
「じゃあココ、これを自分にもかけて体を綺麗にしてね」
「じ、自分にですぅ?」
「そうそう。元々は体を綺麗にするための物なのよ」
ヒナノは当初洋服を綺麗にする場合に、くり貫いた鉱石に水を溜めて手で洗おうとしたのだが、それだと大変そうなので魔導歯ブラシを応用したシャワーにすることにしたようである。
魔力で水滴に風を纏わせることができるので、手で擦るより繊維に優しく綺麗になった。
風がいい仕事をしてくれている。
体に対しても同じである。
水量は服を洗うよりは弱めに調整して、肌痛めないように流す。
微細な粒子が毛穴にまで入って優しく汚れを落としてくれる。
ボディソープや石鹸もいらない。
「こすってないのに汚れが落ちます、不思議ですぅ!」
「ふふ、そうでしょ!」
水があまり好きではないレオも興味をそそられたのかヒナノを見上げている。
顔にかからないように背中から流してあげると、レオは素直に受け入れた。
『温かくて気持ちいいかも』
レオも気に入ったようである。
野生に生きてきて温水を浴びることなど、温泉でもない限りなかなかないだろう。
聞いてみるとやっぱりなかったらしく、今回初体験であったようだ。
「じゃあ、体が綺麗になったら入るわよ」
ヒナノ、ココ、レオの順番で湯船に浸かっていく。
レオは底に足がつかないので湯の中に台を作って、その上に乗って貰う。
顔にお湯がかからないぐらいで、体がお湯に浸かる高さに調整した。
「き、気持ちいいですぅ! 何だか良い匂いもしますですぅ!?」
『いいかも! 温かい水って気持ちがいいんだね!?』
「気持ちいいわね!」
どうやら全員満足いったようである、ローズの鉱石を少し使用しているので、ほんのりとした匂いもいい。
「ぷくぷくもいいですぅ!」
『泡が気持ちいいね!』
「そうでしょ!」
【魔泡石】による泡の刺激も好評である。
しばらくすると、お湯の温かさ、優しい香り、泡による刺激でレオの瞼も落ちてきた。
今にも寝そうな可愛い姿にヒナノは更に癒される。
ココも同様であった。
寝てしまって口と鼻がお湯に浸かってしまう、ぶくぶくと湯面が泡立ち苦しくて目を覚ます、といった工程を繰り返している。
「ぶふぁ、寝てしまうですぅ」と言っている姿が愛らしい。
二人にも好評だったので風呂を作って良かったとヒナノは思う。
そんな感じでしばらくお風呂を堪能していると、ココとレオは気が付く。
「あ、あれは何なのですぅ?」
『銀色の突起がいっぱいあるね』
「ふふ、気が付いた? あれはね、後でのお楽しみよ」
温かい温泉を楽しみながらも、銀色の存在が二人は気になるのであった。
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