第32話 冷却不足

 温泉の気持ちよさを堪能した後、ヒナノ洋服を乾かすことにする。

 湯冷めとか虫に刺さされたりとか他の人が来たりとか、問題は色々とありそうなので、いつまでも裸でいる訳にはいかない。


 パチパチとした音とゆらゆら揺れる炎が心地のいい焚き火で乾かすのも癒されるのだが、今回も三大魔石である炎、風、水で道具を作ってみた。

 魔導歯ブラシ作製ぐらいからヒナノは、ものづくりの楽しさにハマり次々とアイデアを形にしていったようである。

 簡単にいうとドライヤーの大きな物、サーキュレーターみたいな外形、首振り機能あり。

 魔石で温風を作り出して洋服に当てて乾かす、この時に水を少し混合させている。

 温風のみであると熱により洋服が傷むと思いヒナノはそうしたようであった。


(イオン的な何かが作用して、いい感じにしてくれるでしょ!)


 といった適当な考えでヒナノは取り付けたのだが、意外に効果はありそうである。

 余り水分量が多いと濡れてしまって乾燥という目的が達成できない、そこら辺は微調整が必要。

 勿論、風呂上がりの髪も体も乾かせる。

 香り石を付ければ香りを楽しめるのだが、風呂にも同様の機能をつけており、くどくなりそうなので今回はパスした。


 温まった体を温風で乾かすのは結構苦しい、また汗だくになってしまう。

 体の場合は炎の魔石への魔力を少なくするか、遮断して対応することにした。

 冷たい風でも出せればいいのだが、ヒナノは冷却できるコンパクトな機構が思いつかなかったようである。


 ということでレオとココが風呂に入っている時に発見した銀色の突起である。


「これはね放熱して物を冷やすものよ」


 銀色の突起はアルミニウムであり放熱効果が高い。

 それを交互に等間隔に無数配置してある。

 パソコンのCPUとかを冷やす場合に使われているのをヒナノは真似して作ったようだ。


 横側をアルミの板で囲い風を流す。

 最奥部分にはガラス製品が三つ配置されている。

 二個はガラスのコップ、一個はガラスの器だ。


 ヒナノは鉱物からガラスを抽出することに成功したので作製したようである。

 

 入口から流れた風がアルミの突起にぶつかり熱を奪う。

 それを繰り返して進み、冷えた風が奥まで到達してガラスを冷やす。

 【シームルグの魔石(特異種)】の魔石から出される風を魔力でコントロールしながら、ガラスが割れない限界まで風速、風量を上げる。

 全長5メートルはあるであろう大規模冷却装置が完成した。


 ガラスの中にはレオとココが採ってきてくれた、甘い果実の果汁を入れてある。

 実の中にたっぷりと果汁が入っているので、ナイフで切れ目を入れるだけで結構な量がとれた。

 果肉も細かく切って入れてあるので、食感も楽しめるはず。


 冷却装置の魔力を切ってからヒナノはガラスのコップを確認する。

 指で触れてみると、ひんやりと冷たい感触、装置の効果はあったようである。

 しかし……。


「あれ? 思ったより冷えていないかも」


 飲み物を口に含んでみると冷たさはあるが、思ったほどではない。

 ヒナノが考えていたよりも効果がなかった、予想としてはキンキンで頭が痛くなるぐらいをイメージしていた。

 もしかしたら考え方が間違っていたのかもしれない。


 でも風呂上りで温まっている体なら冷たくは感じる。

 二人の感想も聞いてみたい、ヒナノはレオとココに飲み物を渡す。


「はい、どうぞ」

『ありがとう』

「ありがとうですぅ」


 レオはガラスの器からペロペロと、ココはガラスのコップで果実水を飲む。

 

「甘いです! 美味しいですぅ!」

『これは果実の汁だね。美味しいよ!』

「うんうん、本当だったらもう少し冷やしたかったんだけど、冷やす装置が上手くいかなかったみたい」

「ええっ! 十分美味しいですぅ!」

『うん、悪くないよ』

「ふふ、ありがとう」


 ヒナノとしては更にワンランク上を目指したいと思っている。


『あの銀色の突起ってこれを冷やす装置だったんだ』

「そうなのよ。本当ならもっと小さく作りたかったんだけどね」


 スライムの魔石に収納できるとはいえ、大き過ぎであり効果が少ない。

 もう少し小型化、改良が必要であろう。


『うーん、氷の魔法を使う魔物がいるから、そいつの魔石を使えばいいかもね』

「そんな魔物がいるのね」

『今度、探してみるよ』

「あっ、うん。よろしくね」


 氷の魔法が使える魔物なら冷却の魔石である可能性は高い、期待出来そうである。

 さて、いつもならここで何かの鉱石を飲み物に入れて二人を感動させたいところであるが、今回は趣向を変えたいと思う。

 ヒナノは二杯目の果実水を用意すると、石で作ったコースターをガラスの下に置く。

 コースターには【魔泡石】を仕込んでおり、泡の発生場所をコースターの少し上、果実水の中になるように調整。

 更に発生した泡には魔力を纏わせるようなイメージした、ヒナノの魔力入り

果実炭酸水の出来上がりである。

 

『「なっ!」』


 どうやらこれの凄さをレオとココは肌で感じ取ったようであった。


「はい、どうぞ」


 二人は一心不乱に飲み始めた。


「な、なんですかこれはあああ! し、しみるですぅうううう!!」

『おおぉおおお! す、凄いよおおおおおお!!』


 やはりであった。

 硬い石とは違い液体に溶け込んだヒナノの魔力は特に体に吸収されるようである、二人は止まらない。

 魔石から生成されたものでありヒナノの魔力が含まれていれば【石食い】の彼等には効果があると証明されたようである。


 冷却には問題が残ったが、レオとココを喜ばせることができて、満足なヒナノなのであった。

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