第33話 武器作れますか?

『ヒナノにお願いがあるんだけど』

「えっ、何かな?」


 可愛いレオの頼みならヒナノは叶えたいと思っている。

 まあ、自分ができる範囲ではあるのだが。

 話を聞いてみるとココのことであった。


「つまり、ココの為に何か武器を作って欲しいってことね?」

『そうそう。剣とか槍とか刃物系の物がいいかな』


 レオが言うにはココは打撃がメインであり、そういったもの耐性がある敵もいるらしい。

 打撃でも時間をかければ倒せないこともないようだが、効率が悪いので刃物でもあればいいだろうと考えたようである。

 意外に弟子想いなレオ、ヒナノは何だか温かい気持ちになる。

 

「うーん、でも私、武器なんて作ったことないのよね」


 武器作りができる人間など中々いないだろう、増してや女性であれば尚のこと。


『ヒナノなら何とかできるでしょ!』

「だ、大丈夫です! ヒナノさんなら作れますですぅ!」


 特に根拠もないと思うのだが、レオとココは断言する。

 鉱物が扱えるのでそう思ったのだろうか。


 そんな風に期待されてしまったらやるしかないだろう。

 プレッシャーではなく二人に頼られるのが嬉しいと思ってしまうヒナノ。


 神様が用意してくれたナイフで食材を切りながら武器についてヒナノは考える。


 ナイフを包丁代わりに使っているが、こんな感じで刃を付ければいいのだろうか。

 パンを輪切りにしてオリーブから絞った油を塗って少し塩を振る。

 それを温めたフライパンで焼いていく、ひっくり返して両面に軽く焼き目が付くように。


 鳥型の魔物の肉で硬い部位があるのだが、火にかけると少し柔らかくなり旨味が増す。

 それを薄めに切り分け焼いていく。

 出来上がりがベーコンのようになるのが不思議である。

 更にその魔物の卵も焼いて目玉焼きにする。


 レタスのような野菜もあったので、水洗いをして食べやすい大きさにカット、ガラスの皿に盛り付けた。


 ココにはとうもろこしと似ている穀物を石で作ったごますりで、ゴリゴリとすり潰して貰っている。

 手間がかかる作業なのだが、ココは楽しそうにやっているのでいいだろう。

 今度、ミキサーを作ってみようか、今ならできそうな気がする。


 ココがすり潰した穀物を牛型の魔物から搾乳した物と、ヒナノが作製した鍋で混ぜて火にかけていく。

 すった汁も一緒に使った、結構甘味がある。

 岩塩と乾燥させて細かくした胡椒で味を整えて完成。


「うん、いいかも」


 温めた食材が冷めないように魔導具の温風で石製の食器も温めておく。 

 それぞれ盛り付けて、とうもろこしのスープをカップに注ぐ、ゆっくりと食事が作れるのはありがたい。

 朝食の完成である。


 スライム魔石(金)時間停止機能有が手に入ったので、食材の痛みは心配なくなった。

 一つ作れる分の魔石しかなかったので、今はレオの首輪に付けて保管して貰っている。

 レアなスライムだから見つけ次第、レオは狩ってくると言ってくれているので期待しよう。

 今度はヒナノも自分の魔石に取り付ける予定だ。

 異世界の憧れ装備である。

 上手く使っていけば色々と料理ができそうだし、生活が豊かになりそうなので活用できるはず。


「じゃあ、移動後に武器を作ってみるね」


 朝食を食べ終わるとヒナノは言う。


『うん、よろしく!』

「よ、よろしくお願いしますですぅ!」

「任せて、やってみるわ」


 朝食の片付けを終えてから城に向けて出発、一応近づいているはずである。

 しばらく行ってから、いつも通り別行動となった。

 レオとココは狩りと修行、ヒナノは武器作り。


「じゃあ、気を付けてね」

『「はーい!」』


 さて、初めての武器作りであるが、ヒナノとしてはどうしたものかと悩む。

 

(やっぱり材料は鉄がいいわよね?)


 この世界、鉄鉱石は結構落ちているので材料には困らない。

 能力上達の練習にも製品としても欠かせない物がたくさんあるのは、ヒナノとしても助かる。

 鉄もだいぶ柔らかく扱えるようになってきたので、能力は上がっているのだろう。


 ヒナノは地面に手をかざし鉄を取り出す。

 手を持ち上げると引っ張られるように鉄が手についてくる。

 ぬるっと地面から競り上がってくる様は何とも異様であり、周りから見れば不思議だろう。


 まずは棒状の鉄を作る、長さ、太さを調整。

 ココはヒナノと同じぐらいの身長なので、ヒナノが振りやすい形状にすればいいはず。

 サイズ的には良さそうであるが……。


「お、重いよね、これ」


 大きさはいいとしても鉄の塊である、重量があるのは当然である。

 こんな物を持って戦うなんて、【鉱物使いSS】の【移動】を使うならまだしもヒナノには無理だし考えられない。

 獣人であるココなら問題ないだろうか。


 体は異常に頑丈なので力もヒナノよりはあるとは思う。

 ココの事を想像すると何だか大丈夫そうな気がしてくるが、正直なところ分からない。


「そこら辺は調整するしかないかな」


 まさか軽い金属であるアルミで作る訳にはいかないだろう。

 強度が足りなくて直ぐに曲がってしまい、武器として成り立たない。

 今は鉄が一番材料として適しているとヒナノは思っている。

 

 ヒナノが知っている武器の作りかたは、鉄を高温で熱してガンガン叩いて伸ばしたり水に浸けて冷やしたりするものであり手間のかかるもの、前世のテレビで見た知識しかない。

 それぞれの工程に意味があるのだろうが、詳しくは分からないというのが本音である。


 【鉱物使いSS】の【変形】能力があるので、ある程度の工程はヒナノでもできる。

 というか面倒な工程が省けてしまう。

 作る早さはまだまだであるが、剣の形状も手を当て魔力を込めればイメージ通りの形になる。

 本職の作りかたよりは、早いことは間違いない。

 刃の鋭利な部分も指で挟むように、なぞれば尖った刃が出来上がる。


【鉄の剣】:ヒナノが作った物。ヒナノの魔力を纏っている。


 それっぽいのが出来上がったが、性能はどうなのであろう。

 試し切りの時間である。


 剣術の心得など仕事人間だったヒナノにはないので、とりあえず木の枝を軽く切ってみることにする。

 大木を斜めに切ったりとか、格好いいとは思うが足を切りそうなので止めておく。

 横に延びた少し太めの枝を狙い軽く振り下ろす、スパッと切れた。


「おおっ~!」


 切り口はとても綺麗なので刃の鋭さは問題ないのだろう。

 更に太い枝で試すが、抵抗なく切れる。

 

「えっ、完成しちゃった?」


 これだけ切れればいいだろう、あっさりと完成したのだが、一つ問題があった。

 これを使用するココは【石食い】である。

 ヒナノの魔力が混じった物に食欲を感じてしまう厄介な存在。

 そんな彼女にこれを食べないで我慢するのは酷なことかもしれない。

 食料不足の緊急時ならまだしも、メイン武器として使うなら不都合だろう。


 ということでヒナノは完成品から魔力を抜いてみることにする。

 どうやるのかと思ったのだがイメージするだけで簡単にできた。


【鉄の剣らしき物】:ヒナノが作った物。


「ええっ~!?」


 鑑定した結果、ランクダウンしたようである。

 鉄の剣から鉄の剣らしき物になってしまった。

 切れ味も数段落ちており、正に剣らしき物という表現が合っている代物。


 歯こぼれや曲がりも出ている、先程は只魔力で強化されていただけであり、魔力が宿っていなければ素人が作った【剣らしき物】であったようである。


 魔力を抜いても性能がいい剣を作らなければならない。

 ヒナノは俄然、燃えてきたのであった。

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