第82話 セレスの想い1
わたくしの名前は、セレスティーナ・ラピス・エステラータ。
正式な名前はとても長いのですが、全てを名乗るのには時間が掛かるので普段は言いません。
周りからはセレスティーナとか姫様とか王女様とか言われており、親しい間柄の方たちからはセレスと呼んで貰っています。
エステラータ国王の長女として生まれたからか、王族としての教育は厳しかったのだけれど、優しい両親と周りの人間に囲まれて何不自由なく育ってきました。
父と母の血を受け継いだ美しい金髪と青い瞳は自分としても気に入っています。
二人の子供として生まれたのは本当に幸せですわ。
母の聖女としての血を受け継いでいるわたくしには重要な役割があります。
それは神である主のお言葉を聞くこと、そしてそれができる唯一の存在であり血筋。
お母様をはじめ歴代の聖女様も数々の神託を受けていたらしく、それにより国の方針が変わったこともあったとか。
わたくしも幼い頃は何のことだか分かりませんでしたが、成長するにつれ段々と主のお言葉が聞こえるようになってきました。
しかし今回の神託は今までにない、ハッキリとした神の意思が感じられました。
なんと言っても内容が具体的であり明確。
それは神の御使い様である、ヒナノ様のことでした。
彼女の容姿や行動、そして出現日時や場所まで、事細かく告げられました。
こんなことは今までなかったので、正直驚いてしまいましたわ。
しかもあの使われていない城にやって来るというのです。
ただ、この神託を聞いたとき、背筋に寒気を感じたのは今でも覚えております。
エステラータ王国領内であるのにもかかわらずなぜ、重要拠点であるあの城を今まで放置していたのか。
それを皆が気付いていない事実に怖さすら感じました。
この事を国王である父に相談したところ、同じように驚き気づけなかった事実を不思議がっておられました。
早速、国の重鎮が集まり城についての協議が始まりました。
城の存在を希薄にさせられていたのは何かしらの力、神の力が働いていたということで間違いないだろうという結論で一致したようです。
城への他国の干渉がみられないところをみると、広域に作用しているようであり、そんなことが可能なのは神以外考えられないということなのでしょう。
御使い様であるヒナノ様のお迎えと同時に、城の譲渡の御神託を承りましたが、もしヒナノ様が城を放棄するとおっしゃるのであれば、我が国が全力で城を死守しなければなりません。
わたくしたちが城の存在に気づいたのであれば、他国の人間も気がついた可能性があります。
先に他国に奪取されることなどあってはならないこと、それがエステラータ王国としての方針であり、わたくしに託された役目となりました。
相当数の護衛と兵士達を引き連れていくことになるのは、仕方がないことです。
ある時、王宮御用達の商人であるリリア・アークの胸元のネックレスに目を奪われました。
この国の第一王女である、わたくしが身に付ける装飾品は高価なものであり素敵なものばかり。
一般人からみれば手がでない物ばかりだと思われます。
王族、王女として威厳を保つ為には必要なものであり、そんな物を毎回身に付けていれば目も肥えてきます。
そんなわたくしが見ても、リリアが付けていたネックレスは別格な美しさと輝き、欲しい。
一目惚れといった方がいいのでしょうか。
吸い込まれるような綺麗な青の宝石に十字に輝く光、今まで見たことがない宝石の煌めきに見とれてしまいましたわ。
すぐさま、わたくしはリリアに言いました、いくらでもいいのでそのネックレスを譲ってくれないかと。
しかしリリアは友人から貰ったものであり、譲ることはできない大切なものであると。
子供の頃であれば、駄々を捏ねてでも自分の物にしたでしょう。
でも、わたくしも大人になりました、そんな強引なことはなるべくなら避けたいという思いがありますわ。
わたくしの発言で周りの人間が動いてしまうのは分かっています、大きな責任が伴うのです。
言えばリリアに圧力をかけてでも取り上げてしまうかもしれません。
それはわたくしが望むことではなく、リリアとは友好な関係でいたいと思っています。
美しく洗練された彼女にわたくしは憧れていて、将来はこんな女性になりたいとも思っているので、彼女を失望させたくない気持ちが欲望を勝っているのでしょう。
ああ、でも欲しい、心からこのネックレスに惚れてしまいましたわ。
手に入れられないのであれば、せめて譲ってくれた友人がどうやって入手したのかを聞いてみることにしました。
入手先や作製者が分かれば同じような物が手に入るかもしれない、何だか期待で心が踊ってきましたわ。
「ヒナノというのですが、その友人が私の目の前で作ってくれました」
リリアが言うにはヒナノという友人が作製者のようです。
ヒナノと言うお名前は神託を聞いたばかりなので、御使い様と同じ名前の人間がいるのだなぐらいに思っておりました。
しかしながら話を聞いていくと、その人物はヒナノ様本人の可能性が高い、いや同一人物であろうという結論に至りました。
「これは運命なのかしら」
こんな素敵な宝石を作れるなんて益々、ヒナノ様に会うのが楽しみになりましたわ。
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