第83話 セレスの想い2
ヒナノ様がいらっしゃる予定である日より、わたくしたちは早めに城に到着いたしました。
城の重要性を考えれば当然でしょう、他の者にもお父様からも直ぐに城の防衛に当たれと指示があったようで、わたくしが到着した時には既に兵士が数名駐留しておりました。
ヒナノ様が来たのは直ぐに分かりました。
巨大な複数の魔力、それが湖の上空を駆け上がっていくのが見えたのです。
足元に何かが現れてはその上をあがり、ヒナノ様が通りすぎればそれは消えました。
どんなトリックかと思いましたが、どんどんと上空へと向かう彼女を見ると神託にあった鉱物を操る能力を使っているのでしょう。
わたくしの【遠見】の能力でもギリギリ見えるぐらいの高さ。
上空には四角い床のような物が作られたようで、落ちることなくその場に留まっているのは不思議な光景です。
お迎えにでも伺おうかとも思いましたが、湖の真ん中であり上空。
わたくし達にはどうすることもできません、城にいらっしゃるまで待っているとしましょう。
その内に湖に光の線が掛かりました。
どうやらヒナノ様方は釣りを始めたようで、糸を水面に垂らしたようです。
力強い引きだったようで、もしかしたら格闘しているのは湖の主かもしれません、水面から飛び上がった魚の体躯は大きく見事なものでした。
護衛達は湖の主だと口々に言っております。
神託通りの姿であり、あれが湖の主ヤナギ様なのでしょう。
魔法も使用されているのでしょうか、わたくしが知っている釣りとは違って豪快なものでした。
釣っているというよりは、戦っているといった感じでしょうか。
糸でぐるぐる巻きとなった湖の主は上空に消えました、ヒナノ様方の勝利のようです。
一泊した後、ヒナノ様方は湖の主に乗ってこちらに向かってきます。
主の御導き通り、この時この城を目指しているようで、神託は本当であったと安心いたしました。
近くまで来たヒナノ様方は湖の主の背中から上空に飛びました。
文字通り飛んだのです。
くるくると回転して、わたくしたちの前にお立ちになりました。
ヒナノ様、レオ様、ココ様。
ようやく、お会いできました。
ヒナノ様が御使い様であり、他の方々は従者ということですが、お一人お一人が凄まじい存在なのがひしひしと伝わってきます。
わたくしは失礼ないように挨拶をして名前を名乗のります。
御使い様の御前、長くはあるのですが正式名を名乗るのが筋でしょう。
「ひ、姫様。御使い様方が……」
一部引っ掛かったところを護衛から指摘されてしまいました。
御使い様方も不審に思われたのでしょう。
「あっ! 申し訳ございません!?」
もう一度初めから名乗らなくては、自分の名前を噛んでしまうなんて恥ずかしいですわ。
今度はなんとか最後まで詰まることなく言えたので、良かったです。
ヒナノ様方は長旅でお疲れなのでしょう、目がトロンとしているのは仕方ありませんわね。
ヒナノ様方が魔物がいるこの城を攻略して住んでいただけるのか不安でしたが、どうやら問題ないようで安心いたしましたわ。
ヒナノ様方の実力であれば、城の攻略など簡単なはずです。
リリアが持っているネックレスのことをお尋ねしたら、なんと色違いの物がダンジョン内の宝箱にあるということではありませんか。
わたくしは直ぐにダンジョン攻略部隊の編成を指示しました。
誰かに先を越されてしまったら、後悔してしまいます。
全力で取りにいかなくては。
もちろん、それとは別に新規作製分もお願いしたところ、ヒナノ様は快く引き受けてくれました。
唯一の問題は事前に何を作っていただくのか考えず、デザインをしてこなかったこと。
そんなことに頭が回らないなんて神の御使い様に会えることで、わたくしも舞い上がり、そして緊張もしていたようですわ。
米と醤油なるものをリリアがヒナノ様に渡しておりました。
それを使った料理をヒナノ様が作ってくださるそうです。
ヒナノ様は料理も出来るのですね、わたくしはやったことがありませんけれど。
それにしても不思議な道具を使っていますわ。
魔導コンロという物らしいのですが、火が複数綺麗に並んでいます。
強弱をつけられるようで、これで火力を調整するとのこと、不思議ですわ。
安定した火力、家の料理人達も欲しがることでしょう。
ヒナノ様が言うには火を使わないで、温める道具もあるとおっしゃっていました。
わたくしにはどういった物か想像もできませんが、ヒナノ様の能力であれば作製可能なのでしょう。
さすがは神の御使い様です。
米とは初めて食べましたが、美味しいものです、醤油なるものを使って焼いた物は更に素晴らしく、王国にも普及させるべきです。
リリアが東の国から入手可能といっておりましたが、貴重な物のようで量はそれほど購入できないみたいですわ。
今度、東の国のことを調べてみた方が良さそうですわね。
でもヒナノ様が城を攻略したら、作ってみようかとおっしゃっていたので、国産の物が食べられるようになるかしら。
ヒナノ様はわたくしと同じか少し歳上かしら、リリアに負けず美人で可愛らしい方ですわ。
なんといいますか、オーラが違うというか生命力に溢れていらっしゃいます。
生物的に強いといった方がいいのかしら、リリアやわたくしにはない何かを感じますわ。
ヒナノ様には神託以外の、わたくしが知らない秘密が色々とありそうですね。
城に巣くう魔物のことをヒナノ様はお尋ねになりました。
木の魔物であると説明するとヒナノ様は不思議がっており、実際に見てみることに。
美しい城であったようですが、今は見る影もありません。
風化や劣化でボロボロになり、木に寄生されて内部から葉や蔦や根に侵食されているかのようです。
何故か開いている城門から複数の魔物が出てきました。
「へえ~、本当に根が足みたいね」
ヒナノ様は木の魔物に驚いているようです、わたくしも初めて見たときは驚きました。
でも怖がっている様子はありません、あれぐらいの魔物であればヒナノ様の驚異にはならないのでしょう。
わたくしの護衛達は隊列を組みます、ヒナノ様を守らなくてはなりません。
ヒナノ様が手のひらを上空に向けると、何かが飛び出しました。
それは角度を変えて魔物達に向かいます。
魔物達を貫くと絶命させてしまいました、光の粒子となって消えてしまったのです。
後には魔石が落ちました。
こんなに簡単に倒すことができてしまうなんて、どうやらヒナノ様には戦闘力もあるようです。
「じゃあ、お願い!」
ヒナノ様は誰に言うのでもなく、そんなことをおっしゃいました。
すると城は無数の光に包まれます、幻想的そんな表現が合っているのでしょうか。
美しい光の放流に皆、口を開けて驚き、そして息を飲みます。
光が収まると城におびただしく巣くっていた木々は跡形もなく消えました。
「ま、まさか!」
突然のことに、わたくしたちは驚きを隠せません。
どうやら城を侵食していた魔物達が全滅してしまったようです。
異世界の鉱物でモノづくりしていたら仲間とお金が集まりました~魔石の力も引き出せるようです~ かるぼな @carbona
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。異世界の鉱物でモノづくりしていたら仲間とお金が集まりました~魔石の力も引き出せるようです~の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます