第16話 トッピングは宝石

 レオが獲ってきてくれた子豚のような魔物を調理したいと思う。


 まずは部位を切り取り食べやすい大きさに捌かないといけない。

 何度も思うが原型が残っているものにナイフを入れるのはヒナノには抵抗がある。

 でも、生きていくためにはやるしかない。

 数をこなしていけば徐々に慣れていくのだろうか。


「ううっ……」


(命と加工者さんには感謝しないといけないわね)


 こうして自分で肉を切り出してみると、前世では食べる前の準備段階で掛かる時間と手間は誰かが負担してくれていたのだということ気付かされる。

 苦労しながらも何とか切り分けて魔石も取ることができた。

 ヒナノも成長しているようである。


 血が苦手そうだらかと血抜きはレオがやってくれていたので、ヒナノはあまり汚れずにすんだ、レオはなんて気が利くのだろうとヒナノは感動した。


 前回と同じようにレオに火口へ雷の魔法で火を付けてもらい、段々と大きくしていく。

 火が消えないように注意しながら空気の通り道を作り、火の勢いが安定してきたら調理に入る。

 

 ヒナノが作ったフライパンのような物で……いや、もうフライパンでいいだろう。

 フライパンを温め、豚の白い脂の部分を切り取り乗せる、肉が焦げ付かないようしておく。

 厚めに切った豚肉をフライパンの中央に乗せる。

 この時にフライパンは、まだ火にかけない。


 スライム魔石から岩塩を取り出してナイフで汚い外側の部分を削ぎ落す。

 綺麗な中身の部分をナイフで削り上からパラパラとかける、同様に肉をひっくり返して反対側にもかける。

 次に胡椒であるが普通は乾燥させて使うような気もする、でも今回はそのまま使ってみた。

 余裕ができたら天日干しでもしてみようと思う。

 胡椒は粒のまま肉に乗せた。


 ここでようやくフライパンを火にかける。

 始めは強火で一面一面を焼いていく。


――ジュウウ。


 豚肉のいい匂いが辺りに広がる、こんな所で焼いていたら匂いに釣られて他の魔物とか獣が寄ってきそうだが、レオに睨みを効かせておいてもらえば大丈夫なはず、だよね?

 ひっくり返しながら全面に焦げ目が付くまで焼いていく。

 次に火からフライパンを遠ざけることで弱火に調整。

 ここら辺も何かで火の調整ができる工夫が必要かもしれない、今は手動でやるしかないのでずっと持っていると腕がぷるぷるしてくる、重い。

 

 時間を掛けてゆっくりと中まで肉に火を入れていく。

 塩胡椒の下味程度しか味付けしていないので、醤油とか生姜も欲しくなる。

 醤油がこの世界にあればいいのだが、無いなら自分で作ってもいいとヒナノは思っている。

 まあ作り方はよく知らないのだが何とかしたい。


 盛り付ける皿であるがヒナノが肉を焼いている間にレオに木の伐採をお願いしておいた。

 レオが取ってきた木材は、少し厚みのあるスライスされたもので、断面は綺麗であり年輪がくっきりと浮かんでいる。

 どうやればこんなに綺麗な切り口になるのかヒナノには不思議である。


『スパッとやればそうなるよ』


 とレオは言っていたが岩塩を破壊した技と同じだろうか、ヒナノにはよく分からない。

 まあそういうものなのだろう。

 まだ木材は水分を含んでいるが、肉を乗せるぐらいなら問題ないはず。

 本格的に木を使用するなら乾燥させた方がいいだろう。

 乾燥させる魔石とか探してみるのもいいかもしれない。

 

 出来上がった塊肉を二本のナイフで持ち上げて、木製の皿に移す、良い感じ。

 写真に収めたいほど良い見た目である。

 魔物だからそういうのもなのかもしれないが、水分を閉じ込めて焼いた肉は本物の豚肉よりも随分と柔らかい焼き上がりである。

  

 ナイフがスーッと入り、切り口から肉の脂が染み出す、いい香りが食欲をそそる。

 

(フォークが欲しいわね)


 ヒナノは鉄鉱石の塊を出して、能力を使用する。

 塊から鉄の成分を移動させながらフォークをイメージして鉄鉱石を変形させていく。

 少量の鉄の操作なら、始めに比べれば大分上達したようである。


【鉄のフォーク】:ヒナノが作製した物。普通のフォーク。


 不格好ではあるがどうやらフォークとして認められたようである。

 水で洗った方がいい気もしたが、食欲に負けてそのまま食べることにした。

 拭き取るものもないので、いいことにする。


 フォークで肉を押さえてナイフで小口に切る。

 口に運び肉を味わう。


「やっぱり塩コショウは大事よね!? 脂の甘味も引き立つし肉も柔らかい!」


 それっぽい感想をヒナノは言ってみた。

 別にヒナノは料理評論家ではないのでこれぐらいしか言えない、まあ美味しいということである。

 火も中まで上手く通っているのでフライパンの効果はあったのだろう。

 

「レオ君、本当に胡椒食べても大丈夫なんだよね?」

『全然平気だよ。早く食べさせてよ!』


 そこまで言い切るなら、もうレオを信じるしかない。


「はい、どうぞ」

『うんうん、おお~美味しいね! 塩と胡椒でどんな味になるのかと思ったけど、普通に肉を食べるよりこっちの方が美味しいかな』

「よかった~、不味いとか言われたらどうしようかと思ったよ」

 

 美味しいと感じるならレオも人間と同じような味覚があるってことかもしれない。

 一口で食べられるように切って、皿の端におくとレオはそこからパクパクと食べていく。

 

 ヒナノは少し工夫を思い付く。

 岩塩を取った時に偶然見つけた鉱石を収納から取り出す。


 小さな肉の欠片にこの鉱石を削って振りかける。


「レオ君、これは食べられそう?」

『な、何それ凄くいい匂いがするんだけど!』

「ふふ、そうでしょ! 食べてみて」

『なっ!?』


 やはりな反応である。

 肉に振りかけたのは拾った鉱石、ラピスラズリにヒナノの魔力を込めてから能力で削った物。

 鉱石好きのレオならこの良さが分かるはずだと思い肉にかけてみた。


『うんうんうん、美味しさが一段階あがったよ! う、旨いよおおおお!?」


 この反応は嬉しいよね。

 魔石を食べるレオならそう言ってくれると思った。

 

 ヒナノが食べる分には勿論、鉱石はかけない。

 絶対にじゃりっとしてるだろうし、前世では料理のアサリに砂が入っているとテンションが落ちるほど残念な気持ちになった、石を食べるなど考えられない。


 この後二人は思い思いに肉を堪能して完食したのであった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る