第44話 蟹と氷魔法

 氷属性の魔法を覚えたと言っていたココであるが、レオには変化がなかったようなので魔法には適性があるようである。

 火の魔法は覚えられて氷の魔法は覚えられない、どのような基準で決まっているのかはヒナノには分からないが、そんなこともあるのだろう。

 

『せっかく覚えたのなら、練習しないとな!』

「そ、そうですね。練習したいですぅ!」


 新しく覚えたものは試しに使ってこそ実戦で生きてくる、二人は当たり前のことを言っているのだが、ヒナノの心はざわざわした。

 以前にレオが火の魔法を暴発させた印象が強くて、ヒナノはそんな気持ちになるのかもしれない。


 だが今回は氷の魔法である、辺り一面が焼け野原になることはない。

 せいぜい地面に氷が張るぐらいだろう。

 ヒナノの予想としては5メートル、多くても10メートルぐらいの氷のサークルができる程度だと考えている。

 今回の魔法使用者はココなので、もしかしたらそれほど威力も無いかもしれない。

 でも一応注意はしておく。


「私は鍋を作っているので、二人はやり過ぎないように気を付けて練習してきてね」

『りょーかーい!』

「了解なのですぅ!」


 レオとココの軽い返事が不安ではあるが、まあいいか、ヒナノは鍋作りに入る。


 使用する金属はチタン、軽くて硬く変形しにくい。

 サビや酸や塩などに強く、耐食性がある。

 チタン自体の価格が高いことと加工が難しいらしいのだが、ヒナノの能力であれば何てことはない。

 

 鉱物から抽出して変形させるだけでいい、難しいことをせずとも製品化できてしまう。

 鉄よりは堅いので時間はかかるが、ヒナノの能力も上がっているので問題ないはず。

 今回も鉱物から取り出したチタンを使って作っていく。

 

 【ブレードフロスト(特異種)】の体が入る大きさと深さの鍋を作らなければならない。

 チタンを丸くしてから潰すように円状に広げていく、それを目測ではあるが体が入るように伸ばす。

 底面の外形が決まったら、壁の部分を作っていく。


 端の部分にチタンを追加して隆起させる、厚みは薄め、それを円を一周するように隙間がないように整える。

 この時に底面と隣り合う壁同士、隙間がないように接着していく。

 中のお湯が漏れないように慎重に行い、一周して始まりの部分とくっ付けて完成。

 どごかに穴がないかをヒナノは鍋の外周を回って確認、大丈夫そうであった。

 

 今回取手は付けない、付けたとしても巨人でないかぎり手が届かないので意味がない。

 その代わりに工夫が必要である。


 胴回りが数メートルの深鍋ができた、ヒナノが手を伸ばしても届くようなレベルではない。

 軽い金属とはいえ、持ち上げるのは難しい重量。

 だが、ヒナノは持ち上げる。


「うん、いいかも」


 身体能力が上がっているので腕力で持ち上げた、という訳ではない。

 【鉱物使いSS】の【移動】で上に動かしているだけであった。

 周りから見れば持ち上げているように見えなくもない。

 鍋は完成したようである。


 次にヒナノは網を作ることにした。

 外形は今作った鍋に入るギリギリの大きさ、鉄で作製。

 円状に広げた板に均等に穴を開けていく。

 網というよりは網っぱい物と言った方がいいだろうか、用途としてはお湯が穴から抜ければいいのでこれでいいだろう。


 網の底の部分の外周部に等間隔に鉄の塊を6つ足として付ける、それを二枚作製した。

 

―――ドオオオオン!!


 離れた場所で大きな音がする、次にメキメキといった異音と共に氷の山が大きくなっていくのが見えた、氷山の出現である。


「はいはい。ココが氷の魔法を使ったのね」


 ヒナノは冷静であった。

 予想以上の光景ではあったのだが、レオとココならこれぐらいはやってしまうだろうと、心のどこかで思っていたようである。

 彼らの異様さにヒナノも慣れてきたのであった。

 まあ、それでも心配なのでヒナノは確認してみることにする。


(レオ君、そっちは大丈夫?)

『うん。全然問題ないよ』

(ちょっと、氷の山はそのままにして、二人で戻ってきて貰いたいんだけれど)

『分かった。戻るね』


 別にやり過ぎたことを叱る為では無い、ココにお願いしたいことがヒナノにはあるようである。

 二人は走って戻ってきた。


「お帰り! 凄い山が出来たわねココ」


 ヒナノは氷山を指差し言った。


「は、はいです。ドーンといってドパーン、ゴゴゴでしたですぅ!」


 何言っているか分からないけれど、気持ちは伝わった。


「戻ってきて貰ったのは、お願いしたいことがあったからなのよ」


 ヒナノは先程作った網の足を伸ばして、その上に蟹の魔物を置いてもらうように、ココにお願いする。

 ヒナノの能力は鉱物にのみ作用するので蟹の魔物自体を持ち上げることはできない。

 だから力のあるココにお願いしたのだ。


「お、お任せですぅ!!」


 ココは魔物の背中の甲羅部分を持って軽々と持ち上げる、ココにすれば重くないようである。


「そのままキープしててココ!」


 ヒナノは鉄を細くして糸状にしたものを、魔物の脚に巻いて束ねる。

 左右の脚ごとに纏めて、爪は爪同士で縛った。

 それを網の上に乗せて貰う。

 魔導具のシャワーで水を掛けて体を綺麗にしていく。

 【ブレードフロスト(特異種)】の体は大きいので、シャワーの水量と風量は強めにして汚れを洗い流した。

 

「うん、いいかも。じゃあココこれを鍋に入れてくれる?」

「は、はいですぅ!」


 鍋の底にはもう一つの網を入れてあり、網に付けた足により底面と隙間が空いている。

 その網の上に甲羅を上にした蟹を乗せた、大きな体もすっぽりと鍋に入った。


「ありがとうココ。じゃあ二人とも出来るまでまだ時間が掛かるから、どこかで時間を潰してきてね」

『じゃあ、あの氷山で剣の試し切りしてみるかな』

「そ、そうですね。やってみたいですぅ」

「あっ、じゃあレオ君のスライム魔石(金)に氷を保管しておいて欲しいのだけれど」


 スライム魔石(金)は時間停止機能付きなので氷が解けることが無い。

 折角あれだけの氷が出来たのだから後で有効利用したい、ヒナノはお願いする。


『うん。りょーかい。たくさん取っておくね』

「よろしくね」

『はーい』

「いってきますですぅ!」


 二人が出かけた後ヒナノは準備を進めた。

 外周の底付近に【ヘルハウンドの魔石(特異種)】(火)を取り付ける。

 チタンの鍋の外側から魔石をめり込ませるように押していくと、傷もなく入っていく。

 鍋の底面と網の隙間に魔石が顔を出したはず、それを三か所取り付けた。

 最後に【クトゥルーの魔石(特異種)】(水)で鍋を満たしていく。

 

 これで下準備は完成である。

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