第43話 ヒナノ達の評価

「素晴らしい品ですね。リリア様」


 ヒナノ達と別れてからリリア達は商品調達の為に、ある国に向かっていた。

 その道中の野営している天幕の中で、リリアはヒナノから貰ったネックレスの宝石部分に光を当て眺めている。

 宝石をきらきらとした眼差しで見つめている女主人に、側近である女性護衛は思わず声を掛けた。

 護衛から主人に声を掛けるなど余りないことであるが、リリアとは古くからの知り合いということもあり、仲が良いので許されているのだろう。

  

「ええ。ナテラ、貴女はこの宝石の価値がどれぐらいか分かるかしら?」


 視線を宝石に固定したままナテラと言われた側近女性に、リリアは宝石の値段を問う。

 彼女は商人ではなくリリアを守る為の剣であり盾、宝石に関する知識や価値など知る由もない。

 ナテラにとっては意地悪な質問だったかもしれない。


「そうですね。金貨……100枚ぐらいでしょうか?」


 リリアがダイヤ一つで金貨20枚もヒナノに渡していたところをみると、これぐらいの価格なのではないかとナテラは想像した。


「ふふ、はずれね。安く見積もって金貨500枚ってところかしら」

「えっ! そんなにするのですか!!」 


 そんなにあれば一般人なら一生家族で暮らしていける金額であり、ナテラが驚くのも無理はない。


「オークションに出せば、この倍はいくかもしれないわね」

「ば、倍ですか!?」


 もはや何と言っていいか分からないナテラであるが、装飾品や贅沢品というのは、こういうものなのかもしれない。

 無くても困らないものではあるが、世間が価値があると認めれば欲しくなるもの、その分価値は上がっていく。

 貴族達はそんな物を集め自分達を着飾り、そこに惜しみなく金を使う。

 だからこそ、とんでもない価格で取引される、ヒナノが作った宝石にはそれだけの価値があるのだろう。


 しかしリリアは、これを誰かに譲るつもりなどない。

 甘い言い方をすれば、友情の証として貰ったものを手放すなど、あり得ないだろう。

 そして商人としての見解も同じであった。

 これを持っていることによる意味は大きい、売ってしまうよりも遥かに大きな利益をもたらしてくれる、そんな確信がリリアにはある。


「そうね。だからこそ、手元に置いておきたいのよ」

 

 リリアはこれから社交場にも、ネックレスを身に着けていくだろう。

 価値が分かる人間が欲しいと言ってくるのは間違いない。

 拒めばどんな手段を使っても手に入れようとする人間が出て来る可能性もある。

 また、強引に入手経路を調べようとする者などいるかもしれない。

 それら荒事に対する対策は必要になってくる。


「私の命をかけてリリア様を、お守りいたします!!」

「ふふ、ありがとう。よろしくね。私には優秀な護衛達がいるから安心ね」


 外で着けなければ面倒事に巻き込まれないで済むであろうとも思うが、装飾品は人前で着けてこそ価値があるとリリアは考えている。

 着けないという選択肢は無いようであった。


 しかしリリアとしては自分が狙われるならまだしも、宝石製造者のヒナノの存在を知られ、拉致しようとする者が出て来るのは不味い、それだけは避けなければならない。

 只、それも要らぬ心配かもしれないとリリアは考えている。


「ヒナノにも優秀な護衛がいるようだしね」

「確かに。彼女達のお陰でゴブリンの襲撃から本隊は守られましたから」


 あれだけの数の襲撃ならば損害が出てもおかしくなかった。

 それが一人の死者を出すこともなく済んだのはヒナノの仲間のお陰だろう。


「確かレオとココと言っていたわね」

「はい。一人は獣人族で一匹は猫のようでしたが、強さを考えると何かの魔物であると思われます」

「そうね。ココと言われた獣人の子は【銀狼族】よ」

「【銀狼族】!? あの伝説の種族ですか!!」


 思わず言葉に力が入ってしまうナテラ、それだけ特別な種族なのだろう。

 リリアは鑑定持ちであり相手の種族が判別可能。

 だからこそ結果に間違いない、確定ということである。

 

「まさか、あの戦闘民族である【銀狼族】とは。強いはずですね!」


 ナテラは納得といった感じで頷く。


「それでもう一匹の猫の方の鑑定はどうだったのでしょうか?」

「それがね。鑑定不可だったのよ」

「えっ、鑑定不可? リリア様の鑑定能力はS級、伝説級ですよね!!」


 鑑定能力がS級ならば、ほぼ鑑定できないものはない。

 その能力でリリアは商人として一目置かれる存在なのだから相当なものである。

 それでも鑑定できないということは……。


「あの猫は伝説級以上、神級の魔物ってことになるわね」

「し、神級ですか!? た、確かに強くはありましたが、そこまでなのでしょうか?」

 

 ナテラが受けたレオとココの印象は、その程度のものであった。

 そこまでの魔物なのかは疑問である。


「ええ、間違いないわ。ゴブリンと戦っていた時の彼らは力を隠していたみたいね。彼らにとっては遊びにもならなかったんじゃないかしら」

「まさか! でもリリア様の鑑定能力を疑う訳ではありませんが、信じられない!」

「証拠にあの戦いの中で彼らはゴブリンを一匹ずつ、ヒナノの方に行くように仕向けていたわ。一瞬で倒せたにもかかわらずにね」

「ど、どうしてそんなことを?」

「私の推測だけど、ヒナノの戦闘能力を鍛えていたんじゃないかしら」

「き、鍛えていた?」


 ナテラは口が渇き、手には汗を握っている自分に気が付く。

 あの混戦の中でそんなことが可能なのだろうか。


「ヒナノは戦闘の素人ね。動きを見れば分かるわ。だからこそ実戦経験をしたかったんじゃないかしら」


 言われてみればそうなのかもしれない、リリアの言葉には説得力がある。

 ナテラも納得せざるを得ない。


「純粋な戦闘力でみれば彼らの中でヒナノは一番下なのは間違いないわ。だからこそ、何故彼らがヒナノに従っているのか不思議なのよね」


 強い者が弱い物に従う、魔物の世界では、ほぼ無い事だろう。

 従魔契約をしたということもあるが、単にヒナノが作る魔石に惚れている、胃袋をつまれているというのが正解なのだが、リリアでも考えが及ばないだろう。


「確かに強くはなさそうでした。ヒナノさんは地面に穴をあけたり、宝石を作ったり変わった能力でしたね」

「ええ。錬金術師かと思ったけれど、私ではヒナノの能力も鑑定できなかったわ」

「えっ! そんな、まさか……」


 二人は頭の中である考えが巡り、しばらく沈黙するのだが、リリアが口を開く。


「だからこそ、今回彼女達と交流が持てたことと、親交を深められたことは大きなことなのよ」

「い、急いで彼女達の動向を探る者を手配いたします!」

「お願いね。間違っても粗相がないようにしてね」

「承知いたしました!!」


 リリア達はこれから色々と奔走する訳だが、直接はヒナノ達とは関係ない。

 別の話である。


 そんなリリア達の想いも知らずに、今日もヒナノ達はのんびりと旅を楽しむのであった。

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