第66話 念話とお土産とお礼

『うー、本当に行っちゃうのヒナノ? 私と一緒にもっとダンジョンを楽しもうよ!』


 エレノアはヒナノを引き止めたい思いから言う。

 クマも頷いているので同じ気持ちのようである。

 ヒナノとしてもダンジョンを中から見れるのは楽しいし、エレノアと一緒いたい気持ちもある。

 宝箱に入れる道具やアクセサリー、武器などを作るのはヒナノとしても楽しい。


 そしてレオとココもヒナノが城に行かないで、ここに残ると言えば一緒にいてくれるはずである。


「ごめんね。私もそうしたいのだけれど、行かなきゃ行けないところがあるのよ」


 ヒナノ達が目指してきた場所、神様指定の城である。

 ダイヤモンドを作るために金剛石の獲得が必要だったので、予定にはなかったエレノアのダンジョンに来てしまった。

 そのお陰でエレノアに会えたし友人になれたのだから、ヒナノも来たことに後悔はしていない。

 むしろ到着が遅くなっても得られたことの方が、遥かに大きいとヒナノは思っている。


『寂しい……寂しくなるね』


 しょんぼりとするエレノアにヒナノは決心が揺らぎそうである。

 人間の容姿をしているエレノアは表情豊かだ。

 素直に気持ちをぶつけてくるエレノアはヒナノより純粋なのかもしれない。

 誕生からそれほど経っていないらしく、ダンジョンとしては子供のようであり無垢なのだろう。

 エレノアの気持ちは嬉しくもあり羨ましくもある、そんな想いがヒナノの心に芽生えてくる。


 でも行かなければならない。

 何故か分からないが、きっと城に行くことに意味があるはず。

 エレノアとは連絡は取れるし、また遊びにも来れる。


 ヒナノとの契約によりダンジョンコアはエレノアと名前が与えられた。

 それにより【名無しダンジョン】だったものが【エレノアダンジョン】と生まれ変わったのである。

 訪れた冒険者達は名前が付いたダンジョンは、以前より良い物が宝箱から出るようになったことと、得られる経験値が上がったと噂しているようだった。


 ヒナノとの契約でエレノアもコアとしての格が上がったようで、それによりダンジョンの質も上がり魔物達の持っている魔力も向上したからだろう。

 それだけだと魔物が強くなりすぎて冒険者達が先に進めなくなるが、そこはエレノアが調整して上手くやっているようだ。

 勿論、ヒナノが作製した剣やアクセサリーは今までには無かったので冒険者達も喜んでいるようであった。

 ダンジョンとしての魅力が上がったということだろう。


 エレノアとしてもダンジョンが大きくなるように、頑張りたいと思っているようである。

  

 ヒナノはエレノアと約束をした。

 ダンジョンコアであるエレノアをダンジョン外に出す方法を見つけることを。

 宝石のような鉱物だったダンジョンコアが、実態を持ったエレノアとしてダンジョン内を自由に歩き回れるようになった。

 ならば後は外に出る方法が分かればいいだけだろう。


 まだやり方は分からないが、ヒナノは今後できるような気はしている。

 この世界と神様から貰った能力は可能性に満ちていて自由だ。

 エレノアを外に出す方法ぐらいあるはず。


「そういえばレオ君、契約で念話が使えるようになったけど、距離はどれぐらいまで届くものなの?」


 ダンジョンの外に行ってもエレノアと話せるならいいことだ。

 でもまさか世界のどこにいても届く訳でもないだろう、ヒナノはレオに確認する。


『うーん、はっきりしたことは分からないけれど、お互い強くなれば念話できる距離は遠くなると思うよ』

「そっか、そうなのね」


 もしかしたら念話は魔力と関係しているのかもしれない。

 だとしたらお互いが強くなれば距離が伸びるというのも頷ける。

 そこでヒナノは思い出す。


「あれ? 私とココって念話使えるんだよね?」

『そりゃ、契約しているから使えるよね』

「やっぱり!?」


 獣人であるココは耳と尻尾があるだけで、容姿はほぼ人間である。

 だから人間のように言葉で直接話をしていた。

 そしてレオとココが出かけた際には、念話でレオと喋っていたのでココと念話する機会はなかった、凄い偶然である。


(ココ、聞こえる?)

「ふぁ! ヒ、ヒナノさんの声が頭の中に、き、聞こえるですぅ!」

(ココも念話で話してみて)

(は、はい。ええっと。い、いつも美味しいご飯(鉱物、魔石)を、あ、ありがとうですぅ!!)

(どういたしまして。ココもいつも助けてくれてありがとう!)

 

 どうやら問題ないようである、普通に念話はできた。


「レオ君とココの会話ってどうしているの?」

『ん、ココはどっちでも。僕の言葉が理解できるし、念話も出来るよ』

「んー? そ、そうみたいですぅ!」


 レオが言うには通常レオが話す言葉は人間には分からない、『にゃ~』と聞こえるだけらしい。

 でもヒナノは神様から貰った言語理解能力があるので分かる、そして獣人であるココもレオの言葉は理解できている。

 つまりレオが普通に喋っても念話であってもヒナノとココとなら会話は成立するということであった。


「普通に会話できていたから余り意識していなかったわ」

『まあね』

「は、はい不思議ですぅ!」


 もしかしたら会話と念話が混ざっていたこともあったのかもしれない。


「そういえば、念話で皆で話したらどうなるのかな?」


 ヒナノの契約者は三人になった、全員と話す機会があるかもしれない。


『じゃあ、やってみようか』

「そうね。やってみましょう!」


 結論を言えば可能であった。

 しかも複数人が同時に話してもヒナノ達は誰が何を言っているのか理解できてしまう。

 普通の会話ではそうはいかないことでも、直接頭の中に話しかけられるからなのか念話では可能であった。 

 契約者内グループ念話の誕生である。


 念話は契約したから可能であることかもしれないが、魔力由来のものであるならば魔導具として作製できないだろうか、ヒナノは考える。

 可能であれば遠くの人とも会話できることになり、現代の携帯電話のような物も作れるかもしれない。

 ヒナノの作製予定リストに追加されたようであった。


 そしてヒナノとエレノアの別れの時である。


「じゃあ、そろそろ行くね」

『う、うん……分かったわ』


 寂しい気持ちであるがエレノアも送り出す決心がついたようである。

 エレノアはお土産にと色々な、この世界特有の鉱物を持たせてくれた。

 なかなか面白い物があったのようで、ヒナノの今後の魔導具作りに活かせるのは間違いないだろう。


「お礼に良い物を作るね」


 ヒナノは言う。


『良い物?』

「そうね。良い物よ!」


 エレノアは不思議に思い、レオとココは何か察したようである、期待した熱い目をヒナノに向けている。


 ヒナノはダンジョンで取れたダイヤモンドを千切って手でこねて平たく伸ばす。

 そこに魔泡石を細かくしたものをパラパラと振りかけ手で押して馴染ませる。

 中央には甘味石を丸くして乗せ、ダイヤモンドで包み込む。

 最後に魔力を込めて、つなぎ目をなくす、それを四つ。

 鉱物をブレンドした贅沢品である。


「はい、どうぞ!」

『ありがとう!』

「あ、ありがとうですぅ!」

『な、何これ? 前に私にヒナノが強引に押し込んだものに似ているわね?』


 エレノアは人間風に具現化されたので、口から鉱物を摂取できるはず。


『と、とても美味しそうね!』


 やはりである、ヒナノのダイヤモンドを吸収できたエレノアは体を得たことで【石食い】に近い存在になったのだろう。


「はい、クマさんもどうぞ」


 四つ目はクマの分であり、エレノア同様具現化されたのなら食べれるはず。


――わたくしにもですか。ありがとうございます。ヒナノ様!!


 四人はヒナノが作った鉱物を口に入れたのであった。

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