第67話 エレノアとの別れ
ヒナノが作ったお礼のダイヤモンドをエレノア達は思った以上に喜んでくれたようである。
『す、凄いよヒナノ! 何なのこれ! は、初めての感覚よ! こんな物知らないわ!!』
――信じられません! 一体、冒険者何人分の養分に匹敵するのでしょうか!!
冒険者換算されるのはどうかとは思ったが、喜び驚くエレノアとクマに満足そうにうんうんとヒナノは頷く。
エレノアは宝石を美味しそうに頬張っていた。
クマはぬいぐるみなのでどうやって食べるのかと思っていたら、器用に宝石を手で持って口の部分に押し当てると、ズブズブと体の中に宝石が飲み込まれていった。
これが彼の食べるということなのだろうか、不思議である。
今回の物はヒナノが作った鉱物で最高の一品、自信作であった。
中心に甘味のある液体が入っていて泡がシュワーと弾ける飴玉のイメージでヒナノは作ったようである。
甘味石から溶け出したのは、ヒナノの魔力が変換されたハチミツ味の液体。
一口サイズのダイヤモンドの中心部に金色に光る太陽、そして周りには煌めく星々のように散りばめられた光の粒。
宇宙の一部のような美しい宝石は工芸品としても価値があるのではないだろうか。
(周りのダイヤ部分を色のある宝石で作ったらもっと綺麗かも!)
今回は食用として作ったので、外見にはこだわらなかったが、宝石として価値を高めるなら色付きの石も悪くはない。
しかもヒナノの能力であれば天然の鉱石を組み合わせて作ることが可能であり、とんでもない金額で売れることは確定しているだろう。
商人であるリリアが見れば、驚きのあまり卒倒してしまうかもしれない。
レオとココの反応はというと。
『体に稲妻が走ったような衝撃だよ! 信じられない! まだこんな美味しい物があるなんて! 刺激と甘味が最高だよおおおお!!』
「い、一瞬頭が真っ白になったですぅ! シュ、シュワッとした泡が甘々で中がとろりで最高ですぅうううう!!」
いつも通り、いやいつも以上の反応であった。
衝撃的な美味さに震えていた二人も、我に返り口々に叫んだ。
お気に召したようである。
その後、レベルがたくさん上がったとか、力がみなぎるとか、ダンジョンの階層が増えたとか、強力な魔物が召喚できるようになったとか等々、ヒナノの宝石を食べた者達で盛り上がったのであった。
【石食い】であるレオとココと同様にエレノアとヒナノが作る石との相性も良かったようである。
「じゃあ、今度こそ本当に行くね」
別れの時であり、エレノアはヒナノに抱きつく。
『ヒナノ大好き! ううん、とっても大好き!!』
「ありがとう。私も大好きよ!」
ヒナノは足元に抱きついたエレノアの頭を優しく撫でる。
始めは理不尽な侵入者として扱われていたはずだが、ずいぶんと懐かれたものだとヒナノは嬉しくなり微笑む。
『一階まで送るね』
エレノアはそう言うと、ヒナノ達全員でコア部屋から一階まで転移する。
ダンジョンコアであるエレノアなら転移石を使わずとも、これぐらいなら簡単なようであった。
一階には今一番稼げるであろう【エレノアダンジョン】の噂を聞きつけた大勢の冒険者達がちょうど入ってきたようでヒナノ達に目を止める。
「何だあいつら、冒険者か?」
「そうじゃないのか。転移ポイントに現れたし」
「いや、それにしては軽装すぎるだろ」
「そもそもメンバーがおかしいだろ」
「観光って訳でもないだろうしな」
口々に冒険者達はヒナノ達の噂をする。
ヒナノ達は全員武器も持っていないし冒険者らしい装備も身に着けていない。
そして見た目は女の子三人と猫とクマのぬいぐるみ。
どう贔屓目に見ても冒険者とは見えない集団。
観光というのが一番的を射ているのかもしれない。
本当のところはダンジョンコアとその部下、そして最強のダンジョン攻略者達なのであるが、想像できた者が一人もいないのは当然のことだろう。
そんな周りの喧騒を無視してヒナノ達は別れの言葉を交わす。
「送ってくれてありがとうエレノア」
『うん、また遊びに来てね!』
「勿論、会いに来るわ」
『絶対だよ!!』
入口に向かうヒナノは何回も振り向き手を振る、エレノアもそれに答える。
そして別行動となったエレノアとクマに冒険者達の視線が集まった。
一緒に行動している者達と別れてダンジョン内に残る、女の子と熊のぬいぐるみ。
説明できる理由を見いだせずに、冒険者達は困惑しているようである。
小さな女の子が危険なダンジョンに残る理由など、普通は思いつかない。
するとエレノアが少し前に出て冒険者達に向かい口を開く。
『冒険者の皆様、エレノアダンジョンへようこそ! これからも充実させていきますので、どうぞダンジョン攻略をお楽しみください!!』
エレノアとクマは胸に手を当て、お辞儀をする。
そう言ったエレノアは怪しく魅惑的な笑みを浮かべると冒険者達の目の前から消えたのだった。
残された冒険者達に現状を正確に理解できた者は一人もいないようで、ポカンと口を開けたままである。
こうしてヒナノとエレノアは、しばしの別れとなった。
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