第68話 ダンジョン脱出とレオ巨大化

 行きとは違い正規の出入り口からヒナノ達は出ることにした。

 これだけの人がいれば、どさくさに紛れてヒナノ達のことは分からないだろうとの予想。

 また、ダンジョンに潜ってから数日が経っており、ヒナノ達のことを忘れているかもしれない。

 入口の番をしている人物が交代で変わっている等、都合のいい考えをヒナノは並べた。

 そんな時は大体上手くはいかないものである。


「おい! お前ら冒険者じゃないな!」

「どうやって入ったんだ! あっ、この前いた子供達だな!」


 案の定、冒険者でもないことも勝手に入ったこともバレているようである。

 彼等はヒナノ達が初めてこのダンジョンに来た時に出会った人物達であった。


 不法侵入と言われればその通りだが、ヒナノ達は別に国に仕えている訳でも、住民でもない、増してやこの世界の住民ですらなかった。

 だから冒険者のルールは適用されないのではとヒナノは自分勝手なことを考えてみる。

 そんなことを言えば門番達もそうだが、エレノアにも入口から正規に入って来てよと怒られることは間違いないだろう。

 

 ヒナノは立ちはだかる彼等に視線だけ動かし彼等を一瞥すると、二人の間を素早くすり抜ける。

 レオは下を、ココは脇を抜け門番の防御網を軽々と突破した。

 門番達はハッキリとヒナノ達の姿を捉えることはできなかっただろう。

 もしかしたら消えたように見えたのかもしれない。


(うわっ、体が軽っ!)


 前世のヒナノは勿論のこと、エレノアとの契約直後とも違う動きの速さ。

 そこから更に向上したと思えるほどの体の軽さ、感覚がヒナノにはあった。

 ダンジョンにいた数日でレオ、ココ、エレノア、そしてヒナノの能力が上がったということだろう。

 振り返れば入口から一瞬で数メートルは離れただろうか、門番達は見失ったヒナノ達を探しキョロキョロとしている。


「い、いたぞ! あそこだ!」

「逃がすなっ! 追えっ!!」


 そんなに怒らなくてもとヒナノは思うが、捕まるつもりもない。


『ヒナノ、あいつら殺っちゃう?』

「ぶ、ぶっころですぅ?」


 前にもこんなやり取りがあったような、やる気満々なナイト達なのであった。


「駄目よ、逃げるわよ二人共!」

『ええ~』

「ざ、残念ですぅ」


 血の気の多い戦闘民族達をなだめてヒナノは逃走を選択。

 門番達には仲間がいたようで、馬で追いかけてくる者達もいた。


「どれだけ捕まえたいのよ!」


 ちょっとダンジョンに入っただけなのだから、見逃して欲しいとヒナノは考えているようである。

 実際のところはダンジョン攻略をしてしまっているので、ちょっととかいう問題ではないのだが、ヒナノとしては荒事をレオとココに任せっきりだったのでそんな感覚なのだろう。

 穴を掘って金剛石を取って来ましたというぐらいなのかもしれない。


 身体能力がアップした今のヒナノなら、馬で追いかけられても振り切れる可能性は大いにある。


『ヒナノ、僕の上に乗る?』

「えっ? レオ君の上に?」


 結構な速度で走りながら会話をしてもヒナノは息も切れない、心肺機能も向上しているようである。

 レオの上に乗るのを想像するヒナノ。

 いくらレオが強いとはいえ体格は猫のレオよりヒナノの方が大きい。


「さすがに無理よね?」

『このままだったらね』


 ヒナノの当然の疑問に淡白に返すレオ。

 そう言うとレオは走りながら、みるみる大きくなっていき、あっという間にヒナノの身長を超える。

 

「ええっ! レオ君大きくなれたの!?」

『小さくなれるんだから、大きくなれるでしょ!!』


 さも当たり前に返答するレオ、聞いてないよとヒナノは言いたい。

 以前にもダイヤを食べさせた時に、大きくなったり背中に羽が現れたりはしていたのを見ていたが、一時的なもので直ぐに元のサイズに戻っていた。

 だから継続的に大きくなれるとは、ヒナノは思っていなかったようである。

 

『ほら、ヒナノ飛び乗って!』

「う、うん!」


 特にスピードを落とすことなくレオは言う、ヒナノも問題なく飛び乗る。


「うわぁあ!? ふわふわで温かくて気持ちいいわね!?」

『そ、そう?』


 喜ぶヒナノ、満更でもないレオ。

 長さはそれほど長くはないが、毛並みがいい。

 このままレオの上で眠りにつきたいヒナノであったが、あることに気が付く。 


「あれ? 首輪が大きくなっている!」


 ヒナノが作ったスライム魔石の付いたレオの首輪が、体のサイズに合わせて大きくなっているのだ。

 肩の上に乗った時も小さなレオに合わせて首輪は小さくなっていた。

 これは別にヒナノが付けた機能ではない。

 だからこそ不思議であった。

 

『ヒナノがそういう風に作ったんじゃないの?』

「ううん、違うわ。でも何か理由があるのかも」


 大きくなったり小さくなったりと伸縮自在な金属で作った訳ではない。

 でも首輪が大きくならなければ、レオが首を痛めたかもしれない、ヒナノは安堵する。

 更に貴重な魔石が付いているので、首輪が外れたり壊れたりしなかったのは結果的には良かっただろう。

 

『飛ばすよ!!』

「あっ、レオ君、ココは!」

『大丈夫、ココならついてこれる!』


――ドンッ!!


 景色が凄いスピードで流れる、風を切って進む中レオにしがみつきヒナノはココを探す。

 振り向けばココはレオの後ろを走って着いてきている。


(す、凄い!?)


 格段に身体能力が上がったヒナノであったが、走ってこの速さを出せる自信はない。

 ココの基本能力は凄まじいものがあるのだろう。


 あまりのスピード差に門番達は追いかけるのを諦めたようである。

 こうしてヒナノ達のダンジョンからの脱出、そして門番達からの追跡をかわすことに成功したのであった。

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