第41話 武器作り再び

 リリアとの出会いはヒナノには楽しく有益だった。

 目的地である城の話、リリアが住んでいる街のことも聞くことができた。

 まずは城に向かうのが優先ではあるが、落ち着いたらリリアの街にも行ってみたい。


 ヒナノは同じ人間に初めて出会えたことになる。

 レオやココは違う種族だが、意思疎通ができるので寂しいことはない。

 でもこの世界に同族である人間がいるのは、嬉しい気持ちになる。

 人間には人間の仲間が必要ってことなのかもしれない、ヒナノはそんなことを思う。

 

 城には魔物が巣くっているらしいが、どれぐらいの強さなのだろう。

 神様が勧めてくれたのだから、そんなにどうしようもないほど強い魔物がいるとは考えにくい。

 でも、もし強敵がいたとしても、レオとココもいるので何とかなるはず。


 例によってヒナノが城までの道を歩いて進んでいる間、レオとココは魔物を狩ったり修行したりと自由にやっている。

 移動手段が歩きしかないのでそうしいるのだが、普通の人はどうしているのだろうか。

 リリア達は馬車や馬で移動していた。


 ヒナノも馬を購入してもいいのだが、まだ街にも行ったことがないので買うことはできない。

 リリアに馬を譲ってもらうことも考えなくはなかったが、ヒナノは親に連れられて子供の頃にロバに乗ったぐらいで、馬に乗ったことはない。

 大人になってからは忙しくなり、それどころではなかった。


 今後経験として練習してみるのもいいのだろうが、今はものづくりや新たな発見がある、のんびりとした生活が気に入っているので、ゆっくり進める徒歩でいいとヒナノは思っている。


 ある程度道を進んでから、いつも通り能力を使ってものづくりを始める。

 前回の反省を踏まえてココの為の剣を作ることにした。

 魔力を含んだことによる性能の向上ではなく、素材そのもので強固な物ができるように工夫をしたい。


 今回は鉄だけでなく違う材料も使おうと思う。

 違うと言っても同じ鉄であり、炭素含有量を調整した硬い鋼で刃と切先を作ることにした。

 両刃の部分は硬く中心部の土台は柔らかくすることで、折れにくく刃こぼれしない剣を目指す。


 柄と握る部分そして鍔の部分は通常の鉄で作製、形は好みなのでヒナノは自由に作ってみた。

 剣の中心部は鉄を使用して適切な厚みと長さにする。

 刃の部分は鋼を使い、魔力を込めて手で形を整えながら鋭利に仕上げていく。

 それを二枚分作り両側から鉄に接着、つなぎ目が無くなるように丁寧に【合成】で取り付ける。

 切先部もずれがないように【変形】尖らせていく。

 最後に柄の部分にはめ込み完成。


「うん、いいんじゃないかな!」


 ヒナノの感覚的には前回よりも良い物ができた自信がある。

 

【鋼の剣+】:するどい切れ味の剣。ヒナノの魔力を纏っている。 

 

「おお~!」


 名前の後ろにプラスが付いている、良い出来ってことだろうか。

 初めてのプラス効果である。

 ここで魔力抜きをしてみて問題なければ完成なのであるが。

 剣を手に持ってイメージすると、剣に練り込まれていた魔力が霧散する。

 再鑑定すると。


【鋼の剣】:良く斬れる鋼の剣。


(プラスが取れて表現が変わったけれど、斬れるってことね!)


 前回よりも良い物ができたようである。


 気が付くとレオとココは帰ってきていた。

 ヒナノの感覚では剣は直ぐに完成したと思っていたが、かなり時間が経っていたようである。

 毎回ものづくりをしていると時間が経つのが早く感じるのは集中している所為だろうか。

 

「お帰り、レオ君、ココ!」

『ただいま~』

「ただいまですぅ!」


 集中してヒナノが何かを作っていると、二人は気を使って声を掛けてこない。

 気を使わせて申し訳ないが、集中して良い物を作りたいので許して欲しいとヒナノは思う。

 

『今回は剣を作っていたんだね』

「そうなのよ。前回よりも良い出来よ!」

『へぇ~。でも美味しそうじゃないね?』

「たしかに。ヒナノさんが作るものは、いつも涎が出るのに今回は平気ですぅ!」 


 流石は敏感な二人、魔力を抜いてあるのが分かるらしい。

 たしか、匂いで分かるとか言っていた、どうやら今回はそれがしないみたいだ。


「そうよ。魔力を抜いて作ってみたの。これでココも安心して使えるでしょ」


 戦いの最中に剣を食べたくなったら大変である、そんなことはないとは思うが……。

 でも集中できないだろうし、製造者として無駄な要素は取り除いておかないといけない。

 ヒナノはココに剣を渡す。


「あ、ありがとうです! 嬉しいですぅ!!」

 

 おもちゃを与えられた子供のように喜んでくれるのは、作った者としては嬉しい。

 ヒナノはココの笑顔に癒される。


「性能確認が、まだなのよ。試し切りしてみないとね」

「は、はいですぅ!」


 ヒナノは試し切りに手頃な物を探して辺りを見回しているとレオが言う。

 

『じゃあ、こんなのどうかな。さっき狩りをしてきた奴なんだけど』

「あっ、いいかもですぅ!」


 レオが提案、ココも知っているようである。

 レオのスライム魔石から巨大な物体が出てきた。


「こ、これは!?」 


 現れたのは前世でも見覚えのある形のもの。

 体の表面は皮膚というには硬く、脚が六本あり大きなハサミが二本付いている。

 全体的に青っぽい色合いをしている。


 まあ、蟹なのであるが大きさは異常、甲羅だけで二メートルはあり脚を伸ばしたら凄いことになる。

 倒しても体が残っているので、食べられる魔物ということだろう。


 今回レオとココの狩りは大収穫だったようであった。

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