第73話 金貨と水槽
ココの氷魔法でヤナギは凍ったのだが、それは表面だけのようであった。
中身は凍っていないようで、普通に話せるし元気なようだ。
糸と氷に動きを阻害されているだけで死ぬことはなさそうであるが、このままでは可哀想なので体の周りの氷を割ることにする。
レオが前足の肉球で氷を踏むと、そこからヒビが入り氷全体が綺麗に砕け散った。
普段レオが、ヒナノが寝ている時に愛情表現として踏んでくるものとは全く違い強力なものなのだろう。
アラクネの糸も解除しておく。
『ふう、やっと解放されたのである』
ヤナギとの激闘でヒナノが作った空中の床がボロボロになってしまった。
そしてヤナギは体が床からはみ出す程大きいので、全員でこの場にいるのは狭い。
ヒナノは床の増設と、そして作り直しをすることにしたようである。
すぐにヤナギを湖に戻せばいいのだが、話を聞いてみたい気持ちもあるのでヤナギ用のスペースも作ろうとヒナノは思う。
ヒナノとしては意思疎通ができる魔魚に興味があったようである。
『我は魔魚であるから、一日ぐらいなら水の中にいなくても平気である』
魚とはいえ魔物なので地上にいても平気なようであった。
ヤナギは魔魚と言っているが、容姿はナマズを大きくした感じである。
全体的に黒く、長めの尻尾にヒレ、ぬるぬるとした体、口元に髭のようなものがあった。
横に平たい形をしているので、地面にいても安定していて転がることはない。
アラクネの糸でぐるぐる巻きにされていたヤナギの体には他の魚が数匹付いていた。
粘着性のある糸だったからか、湖で暴れた時に巻き込まれてしまったようである。
大小様々な種類の魚が付着していて凍ったものは保管、後で食べる事にする。
凍っていないもので大きな魚は血抜きをして、小さい魚はそのままココに頼んで氷魔法で冷凍した。
ヤナギは魔力を込めて力を入れると、ギュッと身が引き締まり体は固くなる。
ヒナノがドアをノックするように叩けば硬質な音が鳴り、レオの一撃にも耐えられる体は鉄のようで光沢がある、表面に魔力の膜があるようであった。
「もしかしたら防御のスキルか何かを持っているの?」
『うむ、その通りである。我に生まれつき備わっている能力のひとつである』
「やっぱりそうなのね。レオ君の攻撃に耐えるのだから何かあるとは思っていたけれど」
頑丈なのには理由があったようである。
そんなヤナギでもレオの攻撃は驚きだったのだろう。
『確かに! あの一撃はスキルが無ければ、やばかったのである。初めての体験であった』
レオの一撃と水面に叩きつけられた衝撃にも耐えられるあたり、凄い能力である。
もしかしたらタフなココにも似たような能力があるのかもしれない。
ヤナギに詳しく聞いてみると常時発動しているものと、意識して使うものと二種類あってそれぞれで強度が変わり、レオの攻撃に耐えたときに使用したのが後者のようであった。
レオに聞けば『本気の攻撃じゃないから耐えられたんだね』と言いそうだが、防御スキルとしては相当有用なスキルなのは間違いない。
『そうそう、お近づきのしるしに、姉さんにこれを差し上げよう』
ヤナギがそう言って口を開くと、キラキラしたものが現れた。
口いっぱいに広がったそれはどこから現れたのか、不思議である。
「それもヤナギの能力の一つなの?」
『ああ、これは能力というより複数ある胃に保管してあったものである』
「へぇ~、何だか牛みたいね」
口を開けたまま念話するヤナギの姿は何だか面白い。
どうやらヤナギは光ものが好きなようで、湖に落ちたものや底にある物などを集めていたようである。
今回、ヒナノにその一部を分けてくれるようであった。
ただ、体の中に入っていたとは思えないほどの量なので胃の中がスライム魔石のように異空間になっているのかもしれない。
床に広げた光物は胃液や唾液でベタベタになっているということもないので、多分そうなのだろう。
中身は金貨や鉱物、武器や防具など光っている部分がある物なら集めたみたいであった。
「こんなに貰ってしまっていいの?」
『ああ、コレクションの一部であるので問題ないのである』
「そうなんだ。ありがとう」
断る理由も無いのでヒナノは貰うことにした。
以前に貰ったこの世界の金貨と同じ物もあるが、違う金貨もある。
ヒナノが見たことがない古い時代や違う国の金貨なのかもしれない。
枚数にすれば凄い数である、一気にお金持ちになった気分であった。
ヤナギは魔物とはいっても魚と同じように水の中に住んでいるのだから、水に浸かっている方が良いのは間違いないだろう。
とういうことでヒナノは水槽を作ることにしたようであった。
全員がいても余裕があるように大きめにヒナノは岩石で床を作り始める。
鉄や他の硬い金属を変形させているヒナノであれば、岩石など今では簡単に加工できる。
もう一度この場で戦闘をする訳でもないので、ある程度の強度があれば問題ないだろう。
スライム魔石に保管してあった岩石で量は十分であった。
ヒナノ達とヤナギの境の部分には、ガラス製にして姿が見えるようにヤナギを囲う。
まあ、出来上がりのイメージとしては水族館の水槽みたいな感じであった。
ヤナギ用のスペースにはある程度の高さを持たせて、囲ったその中に水を満たしていく。
水は【クトゥルーの魔石(特異種)】に魔力を通して変換したものである。
『気持ちいいのである。それに何だかこの水は美味しいのである』
徐々に満たされていく水を浴びながらヤナギはそんなことを言う。
ヒナノは、もしやと思うのであった。
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