第74話 柔らかいダイヤとヤナギの背中
「もしかしてヤナギは石も食べたりするの?」
ヒナノが変換した水が美味しいと感じるならば、ヤナギが【石食い】の可能性は高い。
『ああ、そうであるな。光る石は基本的には食べないで集めるのが趣味なのであるが』
「変わっているのね。でもだから体内に大量の金品が保管してあったのね」
魚の魔物なのにコレクション体質であったヤナギにヒナノは驚く。
『だが食べられなくもない、むしろ好きなのである』
独特な言い回しは、やっぱりおかしく面白い。
どうやらヤナギは石を食べることはできるようであった。
ヒナノが作る宝石には、きびだんご的な能力があることはヒナノ自身も感じている。
これまでも数々の猛者達を虜にしてきた、そんな自負はあるようであった。
何より自分が作った物を喜んで貰えるのはヒナノとしても嬉しい。
作る宝石はエレノアダンジョンで大量入荷したダイヤモンドであった。
ヒナノはダイヤモンドを選択することが多いのであるが、これには理由がある。
他の宝石も色々と試したのであるが、ダイヤモンドは味はもちろんのこと能力の上昇など、経験上効果が高いことが分かっているからだ。
レオやココがダイヤモンドを好んで食べるというのも大きい。
だからこそベースはダイヤモンドにして他の鉱物や魔石はトッピングとして作ることが多くなった。
「今回は少し変化を加えてみようかしら」
実はヒナノの能力の中で【変質】だけが異常に低かった。
これは使用していなかったということであり、伸ばす為には意識して使ってみようと考えたようである。
ダイヤモンドの質を変えるとはどういったものなのか、それはダイヤモンドですらないのかもしれない。微妙なところである。
「はい。どうぞ」
ヒナノは作ったキラリと光るダイヤをヤナギに差し出す。
『ほうほう、これは見事な石であるな。ぜひ我のコレクションに追加したいのである!』
ヤナギはガラス越しにヒナノの手元に目を近づける。
「いやいや、これは食用だから。食べていいのよ」
そのあと何回かコレクションにしたいとヤナギは言って食べるのを拒んでいたが、また作るからとヒナノが説得するとしぶしぶ了承した。
ヒナノは作ったダイヤモンドを水槽に放り込む。
パクリとヤナギは飲み込んだ。
『な、何であるかこれは! コレクションにしたいなどと言った先程の自分を許してほしい! 食べなければ一生後悔するところであった!!』
あれだけ食べることを拒んでいたのに、評価が変わったようである。
興奮気味に話すヤナギに作ってもいないレオとココは、うんうんと誇らしげに頷くのであった。
『外はカリッとしていて中は程よい弾力! 溢れ出る魔力が堪らない! ぜ、絶品であるうううう!!』
ヤナギの感想にレオとココは目を見開き、涎が落ちそうであった。
今回作ったのはダイヤモンドを柔らかくしたもので、噛めばヒナノの魔力が溢れ出てくる。
外側には薄いダイヤでコーティングしてあるので、硬さと柔らかさの食感の違いを楽しめる。
グミの周りに飴を纏っているそんな感じであろうか。
レオとココの分も作り与えれば、食べた三人の【石食い】達はヒナノが作った宝石がどれだけ美味いかで盛り上がった。
『そうであったのか。先輩方も色々と姉さんの作った物を食べてこられたのであるな。羨ましいのである』
『ああ。最近は腕が上がって初めの頃より美味しさに磨きが掛かっているからね』
「そ、そうなのです。やばいのです。ヒナノさんはやばいのですぅ!!」
ヤナギ、レオ、ココがヒナノの宝石を誉める。
好評のようであり、喜んで貰えてヒナノも嬉しい気持ちであった。
『これで湖の主も安泰なのである』
話を聞くとヤナギにはこの湖でライバル達がいたようであり、実力は拮抗していて僅かに勝っていたヤナギが主を名乗っていたようである。
今回ヤナギはヒナノの宝石を食べたことにより大幅にレベルアップしたらしく、これならばライバル達から抜きん出た存在になれたと感じたようであった。
ヒナノの宝石の効果は思った以上にあったようであり、ヤナギも【石食い】ということで間違いないだろう。
そんなことをやって落ち着いたころヒナノが湖の上から地上を見下ろすと、高さもあるので遠方まで見渡せた。
日が傾き始めた美しい景色、そして当初の予定であった城も視界に捉え、目標であった場所に近づいたことが確認できる。
湖から城はもう目と鼻の先であった。
レオも頷いているのであの城が神様指定の場所であるのは間違いない。
「私達はしばらくはあの城にいると思うわ」
『ほう、では姉さん達とは、ご近所ということであるな』
「ふふ、そうね。ヤナギはあの城のことは何か知っているの?」
『たしか、昔に人間が住んでいたようであったが、最近は魔物の巣になっているようであったな』
ヒナノ達の目的をヤナギに伝える。
ヤナギは魚の魔物であり、どうやって湖の外の情報を得ているのか不思議ではあるのだが、周りの状況や人間のことも知っているようであった。
まあ、人間の言葉が理解できているので知能は高いのだろう。
普通に会話も成立してしまう。
色々とスキルも持っているとも言っていた。
ダンジョンコアであったエレノアなど、この世界にはそういった存在が多いのかもしれない。
『あの城に行くのなら我が送っていくのも、やぶさかではないのである』
変な感じに言語変換された言葉にヒナノは苦笑する。
意味的には送ってくれるということなのだろう。
「どうやって送ってくれるの?」
『姉さん達を背中に乗せて湖を渡るって感じであるのだが』
「ああ、いいわねそれ。楽しそう!」
強大魚の背中に乗って水面を移動できるなんて、なかなかできることではない。
ただ、大きいナマズのような魔物であるヤナギの背中は丸くぬめっとしているので、乗るのには適さない、すぐに転がり落ちそうである。
そこら辺をヒナノが確認するとヤナギは言う。
『こんな感じで背中を凹ませれば問題ないのである』
ヤナギは水槽の中で体をくねらせ背中を見せる。
「ずいぶんと器用なのね!」
ヤナギの背中の一部が平らになり四角いスペースができた。
これならば全員乗っても大丈夫だし落ちることもないだろう。
人間では不可能な動きであり、まるで作り物のようである。
明日の朝にヒナノ達はヤナギの背に乗り湖の端、城を目指して進むことになったのであった。
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