第75話 城に到着 第一章(完)

「それで、あの時に口から出していた紫色の液体は何だったの?」


 ヤナギとココが釣り対決をしている時に、放ってきたものが気になりヒナノはヤナギに質問する。


『ああ、あれは酸と毒の塊である。結構強力で相手の骨まで溶かすことができるのであるが、まさか一瞬で蒸発させられるとは。更にこちらの体が痺れるとは思いもしなかったのである』


 やはりただの水という訳ではなかったので、レオの対処が正しかったということだろう。

 そんなものを体に浴びていたらと思うとヒナノはゾッとする。


「怖いわね……」


 もしそれを貰ったとして今後、酸と毒に使い道があるのかとヒナノは考えるが、正直悩むところである。

 酸なら何かを溶かすとかで使うかもしれないが、毒の使い道をヒナノは思いつかない。

 普通に生活してば毒など必要のないものだろう。


『欲しいのであるか?』


 ヒナノの表情から推測したのか、ヤナギはそんなことを言ってくる。

 人間の機微が分かる魚というのも凄い存在であるが、知性を持った魔物というのはそういうものなのかもしれない。

 

「そ、そうね……。酸と毒を分けたりは出来るの?」

『もちろん、問題ないのである』

 

 どうやらヤナギは酸と毒を体の中で別々に生成してから混ぜ合わせているようで、単品でも取り出せるようであった。


「それじゃあ酸からお願いしようかな。ちょっと待ってね」


 ヒナノは保管用の器を作製することにした。

 基本的にはガラスで作る。

 これは酸とかの薬品が瓶に入れられているのをヒナノが見たことがあったからだ。

 ただ、それだけでは心もとない、もし漏れたらと思うと心配である。

 ということでヒナノは【シームルグの魔石(特異種)】(風)の魔石を取り付けて、液体とガラスの間に空気の膜を作ることにした。

 更に、風に魔力を纏わせておくことで強化しておく。

 これで問題ないはずである。

 

 まあ、瓶とはいっても桶みたいな大きさであって量とすれば何十リットルも入るであろう。

 ヤナギには真上にそれぞれを打ち出して貰い、ヒナノは作った器を能力で動かしてキャッチ。

 落下の衝撃で液体が飛び出す前に、蓋をして隙間をつなぎ合わせる。

 こんなことが直接手で触れなくてもヒナノができるようになっているのは、能力の成長のお陰だろう。


 使い道は分からないが、もしかしたら売れるかもしれない、ヒナノはスライム魔石に保管することにした。


 空中で一拍したのち、今日は城を目指して朝から出発の予定。

 ヤナギも魔力水が気に入ったのか夜は水槽の中で大人しくしていた。


 空中に作った床と水槽はどうするかというところだろう。

 先ずは空中に固定された床と水槽をゆっくりと落下させていく。


『おお~、何だか楽しいね!』

「ぜ、全部が動いているですぅ!」

『初めての感覚である!』


 レオ、ココ、ヤナギも喜んでいる。

 水面近くまで落下させるとヒナノは水槽部分を切り離し湖の中に沈める。

 するとヤナギは湖へと放たれる、スーッと音もなく水中を進み円を描くように泳いでからヒナノ達の近くまで戻ってくる。

 ヒナノは水槽をスライム魔石に収納。


 ヤナギは背中を水中から出してから凹ませて、ヒナノ達が乗れるスペースを作る、完全に水気は無いようである。

 レオ、ココ、ヒナノの順番で飛び乗るとヒナノは残った床も収納した。


「じゃあ、ヤナギお願いね」

『お任せである!』


 空中から見た城の方向へと進む。

 朝日に照らされた湖面がキラキラとして眩しい。

 ヤナギの背中は揺れが少なく快適であった、ヒナノ達の為に調整してくれているのかもしれない。

 水面を滑るように進むヤナギ、温かい気候のせいか心地よい風とたまに舞う水滴が相まって、ヒナノは気持ちよさを感じる。


 段々と近づくと城の大きさが分かってくる。


「結構、大きな城なのね」


 空中から確認した時より大きく見える。

 あっという間に城のある岸へと到着。

 

 ヒナノ達の為なのか分からないが、岸には大勢の人間が待ち構えていてヒナノ達を見つめている。

 遂にヒナノ達は目的の城へと到着したのであった。

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