第48話 金剛石探しています
天蓋付のベッドの寝心地は思ったよりも良かったと思う。
鉄のバネを木で蓋をして布を掛けただけだが、地面に寝るより背中は痛くない。
よく眠れたし目覚めもすっきりしている。
品質にこだわるなら高反発とか低反発とか、マットレスを作って見るのもいいかもしれない。
作り方が分からないので試行錯誤しなければならないだろうが、睡眠は大事である。
追々作製していきたい。
今は穏やかな気候なので広野にベッドを設置しても問題なかったのだが、風が強い時や雨は考えものである。
テントのように雨風除けを付けた方がいいのかもしれない。
本来なら魔物や獣対策も必要なのだが、レオとココがいれば平気なようなので何もしていなかった。
今のところ寝込みを襲われたことがないので、二人が強者だと周りの魔物達は判断しているようで近づいてこない。
「おはよう!」
『おはよう! ヒナノ!』
「お、おはようですぅ!」
魔導具の歯ブラシでヒナノはレオとココと並んで歯を磨く。
レオは自分では出来ないのでヒナノが手伝う。
魔物が歯を磨く必要があるのかは疑問ではあるが、歯茎のブラッシング効果が気持ちいいらしいので、レオは素直に磨かせてくれる。
香りの石を色々と試したのだが、やっぱりヒナノはミントが一番気に入っている。
清涼感と磨いた後の爽快感はミントに敵う物はないのではないだろうか。
初めて歯磨き粉をミント味にした人は天才なんじゃないかな、ヒナノはそう思う。
口をすすがなくても風を纏った温水が汚れを絡め取ってくれるので、温水を捨てればいい、とても便利で衛生的。
朝起きた直後に顔を洗い、歯を磨く。
寝ているうちに菌が増えてしまうといった話を聞いたので、ヒナノはそうしている。
食べた後もした方がいいのだろうか?
でも、磨きすぎも歯に良くないとかで、どうしたものか。
朝食後に金剛石を探しに行くことにする。
ヒナノの能力【鉱物使いSS】の【知覚】によれば、金剛石を示す場所は一か所しかない。
「こっちの方向なんだけれど」
しかもかなり深い場所に、つまり地下にあるようである。
ヒナノは能力が上がったことで、そこまで分かるようになった。
『そっちだと城の方向から少し逸れるね』
リリア達の話も総合するとレオが示していた城の位置は正確だったようである。
そのレオが言うのであれば、間違いないだろう。
只、寄り道は今に始まったことではない、今更到着が少し遅れようが気にすることでもない。
「二人もダイヤは必要よね?」
『うんうん、食べたいね!』
「も、もちろんですぅ!!」
二人もダイヤを探すことに異論はないようであった。
「じゃあ、出発ね!」
『「おおっ~!」』
ということで予定通り金剛石を探すこととなった。
能力が示す場所を目指せばいいので、迷う事はない簡単である。
しばらく行くとレオとココが言う。
『人間の気配がするね』
「ほ、本当ですぅ。人間の匂いがするですぅ!」
よく目を凝らして見てみると人影らしきものが複数、遠くに映る。
あれが人間なのだろう、この距離でよく分かるものだ。
種族の違いなのか、野生で生きていたからなのか、ヒナノには無い能力であった。
金剛石のある場所は、その人間達がいる真下を示している。
『あそこにはダンジョンがあるみたいだね』
「えっ、ダンジョン?」
『そうそう。魔物の巣窟みたいなところで、人間の冒険者が一攫千金狙って潜ったりしてるんじゃなかったかな』
経験値を稼いだり、ドロップアイテムで生計を立てるものがいるらしい。
それを冒険者と言うようである。
やっぱり異世界なんだなとヒナノは思う。
「レオ君とココはダンジョンに入ったことはあるの?」
『まあ、たまに暇だと潜っていたよ』
「わ、私も親に連れられて子供の時から行ってますですぅ」
レオは暇潰しに魔物を狩り、ココは戦闘民族特有の英才教育でダンジョンを利用していたようである。
「よく平気だったわね?」
『ん? まあ下層に行けば行くほど敵が強くなるけど、倒せない程じゃないからね』
「わ、私は親に倒せるか倒せないかのギリギリの階層で、訓練させられてましたですぅ」
「そ、そう。二人が私とは違うのがよく分かったわ」
ヒナノが考えているよりも、レオとココは修羅場をくぐってきたようであった。
強さが全ての基準で生きてきたのだろう。
だからこそココはレオに弟子入りしたし、レオもココを鍛えている。
野生で生きるためには強くあらねばならない、そういうものなのかもしれない。
ダンジョンに入る入らないは別にして、とりあえず入口にいる人に話を聞いてみようということになった。
近づいていきヒナノは声を掛けた。
「こんにちは!」
まずは挨拶からだろうと思いヒナノはそうした。
でも、帰ってきた言葉は辛辣なものだった。
「何だお前達! ここは子供が来る場所じゃないぞ!」
「用がないなら帰れ!」
二人の男達はつれない素振りと言動。
言葉が通じたのは良かったのだが、返答が酷い、門前払いもいいところである。
可愛い10代の女の子が二人と可愛い100代の子猫が一匹。
しかも一人は帯剣しているとはいえ、もう一人は手ぶら、邪険にしても仕方がないかもしれない。
それでもめげずにヒナノは聞く。
「ここはダンジョンということでいいのでしょうか?」
「ああ、そうだが。一応言っておくが冒険者でなければダンジョンには入れない。まあ、君たちが冒険者だという証拠があれば別だがね」
「なければ通す訳にはいかない!」
どうやらヒナノ達が入れないことは確定したようだ。
『何かこいつらムカつくから殺っちゃう?』
(ぶ、ぶっころですぅ?)
レオは念話でココは小声で物騒なことを言う。
(だめよ、そんなこと言ったら)
『大丈夫だよ、一瞬で片付けるから!』
(さ、サクッとやりますですぅ!)
(いいから、大人しくしてて二人共、手を出したら駄目よ!)
不満そうなレオとココ。
二人の男はヒナノのお陰で命拾いしたことを知らない。
レオとココの実力なら可能である。
まあ、ダンジョンに入ることを止めただけで命を取られたら男達も、たまったものではないだろう。
ヒナノ達は冒険者ではないし、今のところ冒険者の資格を取る気がないので仕方がない。
正面からダンジョンに入るのは諦めた方が良さそうであった。
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