第47話 時間が過ぎていました

 レオとココも蟹をたくさん食べて満足したようである。 


 どう考えてもヒナノ達だけでは食べ切れない量の蟹が余ってしまった。

 本来なら誰かに御裾分けしたり、廃棄になってしまったりするところなのだが、ヒナノにはスライム魔石がある。

 保存しておけば後で食べられるし、材料として違う料理にも使えるだろう。


 腐らないように保存するにはレオが持っているスライム魔石の金タイプに入れておかないといけない。

 時間停止機能が付いているのは金だけなのである。

 

 茹でた蟹をそのまま保存、茹で汁は少し煮詰めてから入れることにした。

 こうしておけば後々使い易いと思う。

 アルミ製の脚立に登り、巨大なしゃもじのような木べらで茹で汁をゆっくりと、かき混ぜる。

 魔女が危険な薬品を混ぜるような、そんなイメージ。

 茹で汁を混ぜて意味があるのかと言えば無いかもしれない、でもヒナノはやってみたかったらしい。

 

 わざわざこの為に、ココに切り倒して貰った木を乾燥させて、それを削って木べらの形にしたようである。

 前世では考えられないような時間の使い方であり、今世では一見無駄に見えることでも一生懸命やっていこうとヒナノは心に決めているようであった。 


「いい感じに混ざったわね」


 ヒナノは満足したようだ、脚立から降りて片づけを始める。

 後はレオのスライム魔石に蟹汁を保管すれば終了であった。


『はい、ヒナノ獲ってきたよ』


 レオはヒナノに声を掛けると、岩の上に手をつく。

 ポンっと金色の魔石が現れた。


「あっ! 金のスライム魔石ね!?」


 どうやら新たに獲ってきてくれたようである。


『見つかったから狩っておいたよ』


 結構な回数の狩りに行っているはずなのだが、中々見つからないのだから金のスライムは相当レアな存在なのだろう。

 

「ありがとうレオ君、助かるわ!」

『どういたしまして』

「わ、私も手伝いましたですぅ!」

「ふふ、ココもありがとう」


 話を聞いてみるとレオが見つけた金のスライムを、始めは訓練の為にココが戦っていたらしい。

 でも、金のスライムは素早く中々倒せなかったようだ。

 しかも形勢が不利だと判断すると金のスライムは、その素早さを活かして逃げてしまうらしい。

 相当レアな上に、逃げ足まで早ければ貴重な存在というのも頷ける。

 レオが出会ったら必ず倒したいと思うのも当然だろう。


 結局は逃がしたくないレオが止めを刺したようである。


「大変だったのね。二人共ありがとう」


 これでヒナノの指輪にもスライム魔石(金)が付けられることとなった。

 只、今回の蟹汁は入れることができない、鍋ごと入れるので大きすぎるのだ。

 ダイヤで拡張すれば入るんじゃない? おっしゃる通りです、でも……。


「ダイヤがないので、できません!」

『うん?』

「ふぇ?」


 突然のヒナノの告白にレオとココは首を傾げる。

 ダイヤはないのである。

 つまり、異世界に転生してから10日間が経ってしまったということである。

 神様から貰ったアイテムボックスは消滅、中にあったナイフ、パン、水、ダイヤも無くなってしまった。


 一応スライム魔石に移しておいたのだが、そんなズルは通じなかったようであり、きれいさっぱり無くなっていた。

 でも、能力の拡張はそのままだし、レオとココにはガンガン食べさせていたのでパワーアップはしているはず。

 それだけは無かったことにされなくて良かった。


 ヒナノも10日間、遊んでいた訳ではない。

 いや、半分は遊んでいたのだが、レオとココと出会ったりリリアにも会えた。

 更にモノづくりにハマっていしまい、あっという間に経ってしまったというのが正しいようである。

 だから、スライム魔石(金)を拡張することができない。


「ということで、明日は金剛石を取りに行くわ!!」

『「おっ、おお~」』


 勇ましく宣言するヒナノ、感嘆の声を挙げるレオとココ。


 金剛石つまりダイヤモンドなのだが、今までもヒナノは【知覚】で探してはいたのだが、反応がなかった。

 ただ単に見つからなかっただけなのか、もしかしたら神様が分からないようにしていたのかもしれない。

 今回その封印が解けたのか、金剛石の反応がある場所が確認できた、是非とも確保したいとヒナノは思う。


 レオとココもダイヤの味を知っているからか、乗り気である。

 今すぐにでも行きたい感じではあるが、もうすぐ暗くなるし明日捜索ということで納得して貰う。

 

 お腹も一杯なのだが風呂で汗を流したい。

 実はヒナノは風呂も新しく作ったようである。

 前回の温泉タイプもいいのであるが、バスタイプも欲しいと思い作製。

 ジャグジーの風呂で泡を楽しむことに特化した物を作った。


 基本構造は前回と同じであるが、魔泡石と【シームルグの魔石(特異種)】(風)を使って泡の強弱、大きさ、回転をコントロールしてお好みの刺激を楽しめる。

 三人ぐらいなら一度に入れる大きさ、癒しの香も装備してあり、リラックスできることは間違いない。


 【アラクネの魔石(特異種)】(糸)で体を拭くバスタオルやバスローブも作ってみた。

 糸の太さや編み込む力で柔らかさが調整でき、まだ試作段階であるが水の吸収や弾く等色々と工夫ができるので、どんどん作製しようと思う。


 寝床も新調してみた、天蓋付きのベッドである。

 【アラクネの魔石(特異種)】(糸)で布が作れたので作製できるだろうと思いやったみた。

 土台となる骨子は鉄で作り、背中に当たる部分は木で作製。

 枠を作り鉄をコイル状にしてバネにする、それを複数作り枠内に等間隔に設置、全体が埋まるようにする。


 その上に切った板を複数枚平行に置いていく、この時に板と板の間は少し開けてバネの上に敷いた。

 板がバネに支えられているか弾力を確認したら、板を枠に金属で固定。

 更にその上に布を敷いていくのだが、背中が痛くならないように厚さを調整。

 更に更に天蓋部分の作製もこだわりがあって……。


『そんなに作っていたから、時間が経ったんじゃないの?』

「そ、そうね……。やっぱりそうよね」

「ヒ、ヒナノさんは物を作っているとブツブツ言ってますですぅ」

「うそっ、そうなんだ」


 集中していると独り言を言っているみたいである、周りからみたら異様だろう。

  

「あ、明日も早いからもう寝ましょうか!」

『はーい。おやすみ!』

「おやすみなさいですぅ!」

「おやすみ!」


 別に早く起きる必要もないのだが、一応言ってみる。

 広野に似つかわしくないベッドで、ヒナノはレオとココの柔らかさと温かさに包まれて寝るのであった。

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