第46話 蟹パーティー
魔力伝導率ってなんだろう? て感じであるが魔力を伝達する能力が低いということだと思う。
「それが低いと、どんな問題があるの?」
ヒナノは分からないのでレオに確認してみる。
『ええっと、剣に纏う魔力が漏れてしまって切れ味が上がらない感じかな』
「切れ味が上がらない? 斬れないってこと?」
『ココの魔力が全部活かしきれていないってことかな』
レオは前足の爪を出して見せてきたのでヒナノはしゃがんで確認する、爪の周りが光で縁取りされていて、これが魔力であると伝えたかったようである。
『自分の体ならこんな感じでスムーズに魔力が回るんだけど、違う物質に魔力を通してみると、霧散したり流れにムラができたり滞る場合があるんだよ』
レオの言いたいことが何となく分かってきた。
「じゃあ、剣を作る場合は魔力が均一に早く流れないと駄目ってことね?」
『そうそう。魔力の量を沢山流せば何とかなるけど、使用者は疲れるし耐久力がなければ剣自体が壊れてしまうからね』
「そっか、それで魔力伝導率が良ければ少しの魔力で高い効果が得られるのね」
『そうだね。材料とか作り方で違うみたいだから色々と試してみるのもいいかも』
剣作りは奥が深いようであった、形になっていればいいかな何て考えていた自分を反省したいとヒナノは思う。
実際にどんな感じで剣に魔力が流れているのか、確認することにした。
鋼の剣は氷を斬ったり色々と使用してきたようなので、魔導具のシャワーで洗浄する。
剣は鉄で作っているので錆びるかと思ったが、今のところは平気そうであった。
ヒナノの能力なら錆びは簡単に落とせるのだが、ココが装備しているので錆びてしまうのは良くない。
鞘に錆び防止機能を付けるとかの工夫が必要であろう。
洗浄後、巨大蟹の脚を本体から切り離し、脚の部分の白い部分で剣の切れ味を試すことにした。
全く魔力を流していない状態でも、切先を当てるとスッと刃先は殻に食い込む。
縦に割くように刃を引けば問題なく斬れた。
次に魔力を剣に流して貰うと、なるほど確かにムラがあるのが分かる。
只、同じように殻を切ってみると先程より簡単に切れた。
「問題なさそうに見えたけれど?」
確実に魔力により切れ味は上がっている、十分な気もするのだが……。
『これぐらいの物を切る分にはね。相手が魔力でガードしてたりすると違いが出て来るはずだよ』
「なるほど、実戦を想定しているのね」
確かに剣は実戦で使用するもの、そこで効果が発揮されなければナマクラといわれてもしかたがない。
剣の材料、作り方を見直した方がいいかもしれない。
一度鍛冶工房にでも行って参考にさせて貰えたらと思う。
「まあ、難しい話はここまでにして巨大蟹を食べましょうか!」
『そうだね! 食べよう!』
「た、食べるですぅ!!」
食欲旺盛な二人はヒナノの意見に賛成する。
蟹バサミが欲しいところであるが、蟹自体が巨大であるので小さいハサミでは意味が無い。
今回は剣で切るのかいいだろう、魔力伝導率は悪いが甲羅や殻を切るぐらいなら問題ないはず。
「やっぱり脚の部分が美味しそうよね」
「お、おっきいですぅ!」
一本で抱き枕ぐらいもある巨大な脚の両側に、ココが剣で切れ込みを入れていく。
ヒナノは殻の上部分を持って、反対側に折り曲げる。
「わあ!?」
「す、すごいですぅ!?」
『身がぱんぱんだね!?』
開いてみると旨みの詰まったジューシーそうな蟹身が飛び出す。
端までしっかりと蟹の肉が詰まっていた。
重た過ぎて箸では持てないので、縦に切れ目を入れて取りやすくする。
それでも一切れが大きい。
レオには開いた殻に乗せて、ヒナノとココは箸で食べる。
三人でプリップリの身にかぶりついた。
「んっんーん、美味しい!!」
『旨いねー!!』
「あ、甘くて美味しいですぅ!!」
跳ね返る様な弾力、ジューシーな甘さ、繊維の1本1本まで旨みが凝縮されている旨味が口の中いっぱいに広がる。
ひとくち食べただけで分かる新鮮さと旨味、獲ってきてくれたレオとココに感謝である。
『この魔物、茹でても美味しいんだね!』
「ゆ、茹でたの大好きになりましたですぅ!!」
レオとココも絶賛。
鉱物以外でも良い反応が貰えたのは嬉しい、調理したかいがある。
更に貪欲に食を楽しもうとヒナノは準備する。
殻をひっくり返して器代わりにする、その上に蟹の身をほぐして乗せて、更に蟹味噌を追加。
それを魔導コンロに乗せ火にかけた。
水分を飛ばすことで蟹の旨味成分を凝縮したものが味わえるはず。
レオとココも焼き蟹に釘付けであった。
「はい。どうぞ」
『熱っ! う、旨いよヒナノおおお!!』
「お、美味しいです、香ばしいですぅううう!!」
濃厚でクリーミーな味わいが魅力的な味噌焼きは絶品であった。
更にレオとココは焼けた殻も食べている。
ちょっと焼けた殻の香ばしさが食欲をそそり、濃厚な蟹の味を愉しめるとのこと。
歯と胃腸が丈夫な彼等とは違い硬すぎるので、ヒナノは遠慮した。
肩肉とかも食べようとしたのだが、脚だけでお腹が一杯になりそうなので止めておく。
リリアに貰った調味料で味を変えながら蟹の脚を楽しむ三人なのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます