第38話 初戦闘

 リリアの仲間達と合流する為にヒナノ達は歩いて向かうことになった。

 馬で来た彼女達も降りてヒナノ達に合わせ歩く。


「あの丘を越えたところに……」


 リリアは言葉を止めると険しい顔で空を見つめている。 

 ヒナノが確認すると煙が上がっているのが見える、合流地点はあそこなのだろう。


「何かあったみたいね。貴方、確認して来て!」

「はっ!」

 

 リリアは若い護衛の一人に指示を出す、馬に乗って素早く駆けていく。

 少ししてからその護衛は戻ってきた。


「本隊が魔物の群れに襲われています! 数は約50、ゴブリンだと思われます」

「なっ!」


 急いで全員で丘の上まで行くと全容が見えた。

 言っていた通りリリア達の仲間であろう者達が、魔物に襲われている。


「あれが、ゴブリン!」


 緑色の体は痩せていて筋肉質だが身長は小さい、耳は長く尖っていて目は黄色く怪しい光を放っている。 

 二足歩行の化け物と言った方がいいのだろうか、だらしなく涎を垂らし気味が悪い。

 手には棍棒やら石斧、弓を持っている。

 

「危ないからヒナノ達はここにいて。私達は助けに行くわ!?」

「「「はっ!」」」

「き、気を付けて!!」


 リリアは勇敢であった。

 自ら剣を取り馬でゴブリンの群れに向かっていく、その後を護衛達は追う。


「初めて実物を見たけどゴブリンって気持ち悪いのね」

『そうだね』

「レオ君は詳しいの?」

『うーん。何となくは分かるけど、あいつら基本群れで行動していて集団で敵を襲うんだ。あと繁殖能力が高い魔物かな』

「やっぱりそうなんだ」


 異世界ものでは定番とも言えるゴブリン、この世界にもいたようである。


『ヒナノとココは女の子だから特に気を付けた方がいいよ』

「その……やっぱり乱暴されるってこと?」

『そうそう。あいつら種族とか関係ないらしいから』

「そうなんだ……」

「ふぇっ」


 ヒナノもココも何だか嫌な気分になった。

 でものんびりとしてられない、気分を切り替えてヒナノは言う。


「そうよ、助けに行かないと! リリアが危ないわ!!」


 リリアも女性である、しかもとびっきりの美人だ。

 ゴブリンに好みがあるかは知らないが、綺麗な者には惹かれる気がする。


『あいつら強くないから大丈夫そうな気もするけど、もしもの事があるからね』

「うん、助けに行こう!」

「でも、待っているように言われていたですぅ」


 素直なココはリリアに言われたことを思い出す。


「いいのよ。二人がいれば大丈夫でしょ?」

『まあ、僕達がゴブリンなんかに負ける訳ないけどね』

「そ、それはもちろんですぅ! 蹴散らしますですぅ!!」

「じゃあ、行こう!!」


 ヒナノ達は急いでリリアの後を追う。

 リリアの護衛達は剣で応戦、ゴブリンは火矢も使っているようで馬車の屋根が燃えていて、混戦状態である。

 

「レオ君、ココ、先に行って!!」

『りょーかい!』

「りょ、了解ですぅ!」


 ヒナノよりも速いであろう二人、先を促せば姿が消えた。

 いや、辛うじてヒナノには見えた、一瞬で距離を縮めた二人は、あっという間にゴブリン達にたどり着く。


「グギャ?」

「ガギャ?」

 

 レオとココに弾き飛ばされたゴブリンは、何が起こったのか理解もできず、煙のように消えて魔石だけが残った。

 肉が残らないタイプの魔物のようである。

 ゴブリンの肉が食べれると言われても、食べたいとは思えない。

 想像すると気持ち悪くなるので、ヒナノは考えないようにする。

 殺める罪悪感は多少は減るかもしれない。


 もし自分の能力で戦闘をする場合のことをヒナノは考えてきた。

 レオとココが傍にいない場合もあるだろう。

 そんな時何もできないのは、よろしくない。


「ギャアアア!」


 奇声をあげ、棍棒を振り上げながらヒナノに向かって来るゴブリン。

 本当に女好きなのか、敵という認識なのか分からないが、涎を垂らしながら向かって来る様は、やっぱり気持ちが悪い。

 

「ガアアア?」


 突然空いた地面の穴がどうして出来たのか理解できず、ゴブリンは落下していく。

 ヒナノが空けた穴は、ゴブリンの体全体を飲み込んだ。

 後は土を掛けて埋めてしまう、まったく手を使わずにヒナノはこの工程を行える。

 生き埋めという形であるが、土は固めているのでゴブリンが這い上がるのは不可能だろう。

 倒した後の魔石はどうなるかと思ったら、固めた土の上に浮かび上がってきた。

 不思議である。


 残酷だと言われればそれまでであるが、命のやりとりをしているときにそんな事も言ってられない、ヒナノは心を鬼にする。

 

 スライム魔石から鉄鉱石より抽出した鉄を取り出す、いつも能力向上の為に握っているあれである。


「グギャアアア!」

 

 奇声を上げないと向かって来れないのかとヒナノは思う。

 声を上げたら奇襲にならない、ゴブリンの知能は低いのだろう。 

 ヒナノは鉄を丸くしてゴブリンへ打ち出す、いわゆる鉄球である。

 能力の一つ【移動】を使って放出、ゴブリンへ向かう。

 スピードは、まあ遅い。


 ゴブリンにも視認できたのか持っている棍棒で打ち落とそうと、狙いを付け振り下ろす。

 

「グゲェエエ?」


 急加速した鉄球は弧を描き、棍棒を躱してゴブリンの頬へと直撃してめり込む。

 何が起こったか分からないゴブリンは、そのまま煙となり魔石と棍棒だけが残った。

 

「ふうっ、上手くいったわね!」


 ヒナノは初戦闘であり自分でも気がつかないうちに緊張していたようである、心臓がまだドキドキしている。


 周りを見るとゴブリンは全滅しているようであった。

 レオとココがあっという間に戦闘を終わらせたのだろう、魔石の回収をしている。


「危ないから丘の上で待っててと言ったのに」


 リリアがヒナノに近づいて言う。


「ごめん、じっとしてられなくて」

「いいえ、正直に言うと助かったわ。私達だけでは厳しかったかも。全員大きな怪我がないのもヒナノ達のお陰よ」

「どういたしまして。みんな無事でよかったわ」


 ほとんどがレオとココのお陰だが、死人が出なかったのは良かった。


「貴女達、凄く強いのね。少人数で旅をしているのも頷けるわ」

「ふふ、レオとココが強いからね。安心して旅が出来るのよ」


 二人の強さには底が見えない、いい仲間に恵まれたとヒナノは思う。


「うわっ、これはダメだな!?」

「ああ、完全に曲がっているな!!」


 どうやら荷馬車の方で騒いでいるようであった。

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