第39話 錬金術師?

 声がする方に向かうと、どうやら男達は荷馬車の事について話しているようだった。

 火矢により焼けた屋根や荷台は鎮火したようだが、所々焦げ跡が目立つ。

 石斧や棍棒による損傷もあるだろう、酷いものである。


「おい、車軸が曲がってしまっているぞ!」

「動かせるか?」

「いや、歪みすぎて難しいな」


 どうやら荷馬車の後輪の軸が曲がってしまったようで、男達は困った表情を浮かべている。

 ゴブリンとの戦闘が激しかったのか、荷馬車へのダメージは大きい。

 これから商品調達に行くと言っていたので、荷馬車は必要なのだろう。

 

「リリアのアイテムバッグだけじゃダメなの?」

「私が持っているアイテムバッグは荷馬車の半分ぐらいの大きさなのよ。今回は大量に仕入れたいので荷馬車で来たのだけど……困ったわね」


 リリアが持っているアイテムバッグは、商品調達場所までの移動の際に必要な物などを入れているらしいので、ほぼ埋まっているようである。

 容量はヒナノのスライム魔石の方が、はるかに大きい。

 

「でも軸が曲がってしまうぐらいだから、激しい戦闘だったのね」


 左右を繋ぐ太いパイプの部分が変形するぐらいなのだからゴブリンの力は相当なものなのだろう。

 そう思ったからこそヒナノの口からは、そんな言葉が漏れたのだが。


「いや、まあ」

「ああ、なあ」


 何故か男達の歯切れは悪い、言いにくそうと言った方がいいかもしれない。

 不思議に思ったヒナノだが、ある結論を導き出す。

 ゴブリンの力では車軸を曲げるのは難しいかもしれない、ならば……。


 ヒナノが後ろを振り向くとレオとココはサッとそっぽを向く。


「レオ君、ココ、なんで違う方を見てるのかな?」


 ヒナノがレオを抱き上げて顔を自分の方に向けようとしても、レオはヒナノと目を合わせない。

 ココも同様であり、少し垂れている耳は蓋をするように閉じて、尻尾はピクピクしている。


「ちょっ、ちょっとレオ君! ココっ! 聞いてるの?」


 ヒナノは再度たずねる、それを見かねた男達が言う。


「か、彼らを責めないでくれ。俺達がゴブリンに囲まれているところを助けてくれたんだ」

「そうだ、命が助かっただけでもありがたい!」


 男達の話を聞くと、どうやらレオが吹き飛ばしたゴブリンが当たったり、ココが投げ技で叩きつけたりして荷馬車に損傷を与えたらしい。

 軸が曲がるほどの力だやらなくてもいいものだが、混戦していたのだから仕方がないかもしれない。


『ご、ごめんねヒナノ』

「ご、ごめんなさいですぅ」


 シュンとなる二人、ちゃんと謝ってくれたのだから、二人の主としてヒナノにはやることがある。


「リリア、荷馬車を壊してしまってごめんなさい」


 ヒナノは頭を下げる。


「いいのよヒナノ頭を上げて。彼も行っていたけれど皆の命が助かったのだから、こちらは感謝したいぐらいよ」

「そう言って貰えると助かるわ。それで、壊れている部分を見せて欲しいのだけれど」

「ええ、それは構わないわ」

「ありがとう」


 何故ヒナノがそんな事を言ったのか、リリアは不思議に思ったようである。

 ヒナノは荷馬車に近づき、しゃがんで後輪の車輪部分を確認した。

 言っていた通り車軸は曲がり車輪も潰れている、大きな力が掛かったのは明白だ。

 両方とも鉄で出来ているようで、この世界にも製鉄の技術があるようである。


 ヒナノの能力は製鉄技術の工程を省略して鉄鉱石から鉄を取り出し製品化できてしまう。

 勿論、炭素含有量を調整して鋼も作る事もできたりする。

 何が言いたいのかといえば、曲がった鉄製品を元に戻すなど、ヒナノの能力なら簡単であるということだ。


「ココ、荷馬車の後ろを少し持ち上げてくれる?」

「は、はいですぅ!」


 荷物が乗っていないとはいえ、片手で簡単に持ち上げるココに周りが騒めく。

 ココは涼しい顔をしているので余裕なのだろう。


「そのまま押さえていてね」

「は、はいですぅ!!」

 

 ヒナノは素早く荷馬車の下に入り曲がった車軸に触れる。

 ただそれだけで車軸は真っ直ぐになった。

 そして車輪を円状になるように元に戻す。


「「「おおっ!」」」

「どうなっているんだ、直ったぞ!!」


 更に板状のチタンを作り出し、元からあった金属部分と結合させて穴が空いている部分の補強をした。

 これで荷物を置いても問題ないだろう。

 鉄の板だと重いので、ヒナノは少しでも軽くなるように頑丈なチタンにした。

 これで荷馬車も大丈夫なはず。


「ヒナノ、貴女は錬金術師なの?」

 

 この世界では鉄や鉱石類を変形させて武器や防具を作る人達をそう呼ぶらしい。

 ヒナノの能力を見たリリアはそう思ったようである。


「うーん。ちょっと違うのだけれど似たような感じかな」

「そう。でも凄い能力を見れたし、やっぱり貴女に会えてよかったわ!」


 人がいる街に行って職業に困ったら、錬金術師と名乗るのもいいかもしれない。

 ヒナノはそんなことを考える。


「ヒナノの能力で他に何かできるの?」

「他に? そうね。やってみるね」


 ヒナノは実は前からやってみたいことがあったのだが、リリアを見ていたらイメージが固まったようである。


 ヒナノはスライム魔石から、ある鉱物を取り出す。

 鋼玉と言われるもので透明度のある深い青色、表面は少しザラっとしている。

 そこから一番良い色合いの部分を、アーモンド形よりは卵形に近い形状にくり抜く。

 それを両手で包み【変形】で形を整え【光沢】で表面の凹凸を極限まで少なくする。

 出来あがった物は表面に光の層が見えるほど磨き上げられた状態のもの、まだ完成ではない。

 ヒナノは不規則にならんだ内包物を、【移動】の能力で規則正しく並べ直す。

 

 プラチナで台座を作り中央に今作った石をはめ込む。

 取れないように固定する。

 ヒナノの能力なら違う鉱物同士を接着できるので簡単である。

 更にプラチナ部分にダイヤを取り付けゴージャスさを演出。


 最後にプラチナで作ったチェーンを通して完成。


「はい。どうぞ」


 ヒナノはリリアに今作った物を手渡した。

 

「なっ、す、凄いわヒナノ!?」

「おお~、美しい!」

「どうなっているんだ!!」

『す、凄い美味しそうだね!?』

「ま、間違いないですぅ」


 周りの感想は色々であったが、いい物ができたようである。

 ヒナノは達成感に満たされたのであった。

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