第37話 売れました
「リリアさん、これ食べてみますか?」
ヒナノはアイテムボックスからダイヤを服のポケットから取り出して、そんなことを言ってみる。
「ヒナノさん、ダイヤなんて食べれる訳ないじゃない」
至極まっとうな返答を貰い安心したような、残念なような気持ちのヒナノ。
リリアは【石食い】ではなかったようである。
何言っているんだと言わんばかりの護衛の人達の視線が痛い。
レオやココなら大喜びだったはず。
「でも凄く綺麗なダイヤモンドね。見せて貰ってもいいかしら?」
「ええ、どうぞ」
神様から貰った無限にあるダイヤなので、取られてしまってもヒナノとしては痛くも痒くもない。
今のヒナノなら材料さえあれば、同等かそれ以上の物が作れるだろう。
惜しむ理由はないのである。
「素晴らしい純度のダイヤモンドね。ヒナノさんはどうやってこれを手にいれたの?」
「ああ、これは知人に貰った物なんですよ」
まあ、その知人は神様であるが嘘は言っていない。
リリアはどうやら気に入ったようである、しきりに眺めてはうっとりとため息をついている。
そんな姿も絵になるのだから美人は得である。
「ヒナノさん、これを私に譲っていただけないかしら? 勿論、ただでとは言わないわ。相応の金額で引き取らせて貰いたいの」
元手が、無料なのだから譲ってもいいのだが、こちらの世界の通貨とか価値を知りたいので、幾ら出せるのかヒナノは聞いてみる。
「そうね。金貨10枚であれば嬉しいのだけれど、カットと透明度が素晴らしいので金貨20枚でどうかしら?」
どうやらこちらの世界の通貨は金貨のようである、金貨一枚がどれぐらいの価値か分からないが、ダイヤの価値から考えると金貨一枚10万円ぐらいではないだろうか。
リリアはかなりの高値で引き取ってくれるようである。
「それで結構ですけど、高すぎませんか?」
前世の感覚であったのだが、そう思いヒナノは聞いてみた。
「通常であればもう少し価格は下がるとは思うわ」
「えっ、じゃあ」
「でも、ここで出し惜しみをしてはいけないと判断したわ。貴女には何かある! 私の勘がそう言っているの!」
計算で動く商人が勘に頼っていいものだろうか。
しかしリリアの目は確信に満ちている。
取り急ぎ、お金の必要はないのだがダイヤに高値を付けてくれたことに、悪い気はしない。
「つまり、今後も私と繋がりを持ちたいということですか?」
「そういうことね。私はヒナノさんと仲良くなりたいと思っているの」
「なるほど」
商人にとってコネクション作りは大切なことであろう。
ここは損してもヒナノに良い印象を与えるのが最適とリリアは考えたようである。
「お願いがあるのですが金貨の一枚だけ両替して貰いたいのですが」
ヒナノは他にどういう貨幣があるのか探りを入れてみる。
「ええ、構いませんわ。銀貨だけでなく銅貨も混ぜた方がいいのかしら?」
「はい。それでお願いします」
やはり銀貨や銅貨もあったようである。
この世界の通貨が知れたので、両替をお願いして良かった。
どうやって両替してくれるのかと思って見ていると、バッグから机とお盆が出てきた。
明らかに普通では入らない大きさの机、ヒナノが目を丸くしているとリリアは悪戯っぽい笑みで言う。
「ふふ、凄いでしょ。アイテムバッグで言うのよ。こんなに大きな物も入ってしまうのよ」
「そうなんですね」
世界一美しいドヤ顔かもしれないとヒナノは思った。
別にヒナノは驚いた訳ではない、アイテムボックスやスライム魔石を持っているので機能は分かっている。
只、他人が使っているのは初めて見たし、呼び方も色々とあるんだなと思ったようだ。
もしかしたらアイテムポーチとかアイテムリュックとかも、あるのかもしれない。
リリアの話によるとアイテムバッグは貴重であり、組織で管理する物で個人で持っている人間は余程の金持ちぐらいしかいないとのこと。
今回のような商品の買い付けや調達の際に使用されるようである。
リリアは机の上のお盆に金貨と銀貨、銅貨を並べた。
「確認してください。ヒナノさん」
まさか、こんな所でお金を数えることになるとはヒナノは思わなかった。
色の違いで種類の見分けはつく、手に取ると鑑定が発動する。
メッキではなく本物の金だった、同様に銀貨も銅貨も混ぜ物はない。
枚数も問題ないようである。
「確かに大丈夫そうです」
「取引成立ね!」
流石は信用第一の商人といったところか、騙しても良さそうなのだが素性の知れないヒナノにも正直な商売。
ヒナノはお盆に手を置いてスライム魔石を発動、金貨らはその場から消えて収納された。
「まあっ!?」
「ふふっ」
ヒナノは負けじとリリアがやったように悪戯っぽい笑みを返す、ヒナノは大人げないのである。
体は10代の子供になったのだから許されるのではないだろうか。
でも、リリアのような妖艶さは出てないだろうなとヒナノは思う。
「ふふ、貴女もアイテムバックを持っているのね。でも何も持っていないように見えるけれど?」
今のヒナノでは出せない、余裕のある大人の微笑みで返されてしまった。
「まあ、似た感じの物です」
「そう。やっぱり貴女に声を掛けて正解だったわ」
それからヒナノとリリアは色々なことを話して仲良くなった。
だいぶ打ち解けてきたところでリリアが提案する。
「ねえ、ヒナノこれから私達の本隊に合流して食事でもしない? ご馳走するわよ」
「いいのリリア? ご馳走になって?」
「ええ、勿論よ。一緒に旅をしている人達も含めて食べましょう!」
二人は、お互い呼び捨て合う仲になっていた。
喋り方も初めと比べると随分と砕けた感じになっている。
この世界の人間が何を食べているのかヒナノは気になった。
只、レオとココは嫌かもしれない。
ヒナノは念話でレオに確認すると、二人も問題ないらしく来るようであった。
少し待っているとレオとココが歩いて近づいてくる。
「えっ、ヒナノはあの子と猫と旅をしてるの?」
リリアは屈強な男達を想像していたのかもしれない。
「そうよ。大切な仲間。私の護衛もしてくれているのよ」
「そ、そうなの……」
向かってくるココは可愛らしい容姿、レオに至っては猫である。
それを護衛と言われてもリリアが戸惑ってしまうのも当然だろう。
ヒナノは手を振って出迎える。
「二人とも、お帰りなさい!」
『にゃあ~』
「ただいまですぅ!」
気が利くレオは、普通の猫の真似もできるのであった。
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