第36話 リリア登場

 馬に乗った4人の集団はヒナノに近づいてくる。

 当初ヒナノが思った通り彼等は人間であるようだ、見た目で判断すればということだが。 

 かなりの距離があったはずであったが、ヒナノは視認でき人間であることも見極めていた。

 どうやら視力が良くなっているようである。


 これは契約による身体能力向上のためか、【鉱物使いSS】の能力のおかげか、それとも遠くを見渡す機会が多い環境のせいなのか。

 それともこれら全ての要因が重なったからか、ヒナノには分からない。

 只、遠くのものが見えるようになったのは間違いないだろう。

 

「おい、お前ここで何をしている! 何者だ!」


 一人の男がヒナノに声を掛けてくる、随分と高圧的な態度であり、いい気分はしない。

 後ろにいる二人の男性は女性を守るような配置をとっていて、随分とヒナノを警戒している。

 周りに誰もいないこの場所に、女の子が一人だけいる状況の不自然さに彼らが疑いの目を向けてしまうのは無理もないこと。

 もしかしたら、盗賊が油断させるために無害そうな人間を使って罠を仕掛けた可能性を考えているのかもしれない。


 ヒナノは彼らの話している言葉が理解できるので、神様がサービスしてくれた言語能力は万能なようである。

 とりあえず彼等を驚かせないように、レオとココに気配を断つように念話で伝えると……。


『もう、やってるよ』


 とのこと、レオは気が利く出来る子なのであった。

 年齢は……まあ、この際いいよね。


(とりあえず私が話してみるね)

『うん、人間の武器で僕の結界は壊せないから安心していいよ』

(はーい、了解!)


 レオとココが近くで見てくれているので安心感がある。

 何も返答しないヒナノに痺れを切らしたのか、男は更に言う。


「おい! 聞こえているのか!?」

「ええ、聞こえていますよ。私は旅をしている者です」

「旅? 一人でか?」

「いえ、仲間は今、食料の調達に行っています」


 本当は狩に行っているのだが、細かいことはいいだろう。

 魔物の肉も食料だから嘘は言っていない。


「怪しい奴め。旅をしていると言っている割りに武器も持っていないし随分と軽装だな!」


 完全に疑われている。

 確かに、ヒナノは全てスライム魔石に収納しているので、見た目は何も持っていない。

 旅をする人間の装備とは思えないと感じるのも当然だろう。

 高圧的な態度の相手と話をするのも少し面倒になってきたヒナノであったが、レオ達に自分で対処すると言ってしまった手前、出来ませんでしたというのも恥ずかしいので会話を続ける。


「まあ、別に信じて貰えなくても構いませんが、あなたたちはどちら様ですか?」


 今のところ生活には困っていないし、ヒナノとしては別に助けて貰いたい訳でもない。

 これ以上こちらのことを知りたいのであれば、まずは名乗るぐらいはして欲しいものである。

 ということで、そんな返答になった。

 

「お、お前!」


 男はヒナノの態度に怒っているようであるが、ヒナノはそれほど緊張していない自分に気がつく。

 武器を持っている男が自分に敵意を向けているにもかかわらず、平然としている。

 しかも相手の方が人数も多い状況で、どうしてなのかヒナノは不思議に思う。


「やめなさい!」


 男の背後から艶のある透き通るような声が辺りに響く、後方にいた女性が発したようである。

 その女性は馬を降りて前に出てくると言った。


「彼女に失礼よ」

「しかし、お嬢様!」

「いいから、下がりなさい!」

「は、はい」


 男はしぶしぶと下がり女性の後方にいく、しかしヒナノが怪しい動きをすれば直ぐに対処できるように武器に手を掛けている。

 馬上にいた男達も馬を降りて彼女の近くに来た、護衛なのだろう。

 

「驚かせてしまってごめんなさいね。私はこの商隊の主人でリリア・アークといいますわ」


 リリア・アークと名乗った彼女、リリアが名前でアークが名字なのだと思う。


 ヒナノは可愛いものとか、もふもふしたものが好きなのであるが、美人も大好物である。

 彼女はそんなヒナノのストライクゾーンであり、相当な美女。

 ヒナノよりも年齢は少し上であろうか、切れ長の目が艶かしい華やかな女性であった。

 

 そんな美人が優しく名乗ってくれているのに、自分が名乗らない訳にはいかないヒナノは空気が読めるのである。


「私はヒナノ・テンカジと言います」

 

 名乗り方はこれで合っていると思う。

 ついカーテシーでもやってしまいたくなるような相手であったが、まあ今まで一度もやったことがないので止めておく。


 自分の時とは違う態度に先程の男の目が鋭くなった気がしたが、ヒナノは気にしないことにする。


「ヒナノさんは随分と肝が座っているというのか、大人びていらっしゃるのね」

 

 美人は声も素敵なのである、耳に心地いい。


 彼女にはヒナノは物怖じしない性格に映ったようであった。

 ヒナノの外見はどう見ても10代なので、違和感を覚えたのかもしれない。

 実際の中身は29歳であり、社会経験もそれなりにあるので10代とは違うはず。

 更に、レオ達に守られている安心感が心に余裕を与えてるということもある、でもそれを正直に言う必要もないだろう。

 

「そういう性格なのかもしれません」

「そうなのね。私は街で商売をやっている者よ。今回は商品調達の為、鉱山に向かっているところなの」

 

 彼女はヒナノに信頼して貰いたいからなのか、自分達がどういった人間なのか話し始めた。

 リリアの話によるとここにいる4人だけではなく、大規模な商隊で来たようであり近くに待機しているとのこと。

 リリア達は周辺の見回りと、気分転換も兼ねて少人数で動いていたようである。

 そんな時にヒナノを見かけて近づいてきたということらしい。


「どうして私を怪しい人間ではないと信じてくれたんですか?」

「そうね……、勘かしら。勿論、初めヒナノさんを見たときは驚いたわ。でもピピッときたのよ商機を感じたっていうのかしらね」

「は、はあ」

 

 確かに怪しいと思った時点で近づかなければ何も問題は起こらない。

 商人の勘なのだろうか、ヒナノが何か有益な物を持っていると感じた為、近づいたというなら不思議なものである。

 

「例えば貴女がしている指輪、シルバースライムの魔石よね? 超レアな魔物の魔石を指輪に付けてしまうなんて、私の目に狂いはなかったわ」

「シルバースライム!?」


 後ろの男性達は驚きを示す。

 触れてもいないのにリリアはスライム魔石(銀)のことを言い当てた。

 鑑定のような能力を持っているのかもしれない。


(世間ではシルバースライムっていうのね)


 ヒナノは魔石だけレオから貰っていたので、本体の名前は知らなかったというか効果だけに気を取られ、詳細の確認を怠っていたのである。

 今度確認してみようとヒナノは思う。


「私、宝石とか魔石が大好きなのよ!!」


 急にテンションが上がったリリアは目を輝かせてそんなことを言う。

 まさかとは思うが……。


(それって食べたいって意味じゃないよね?) 


 魔石を手渡せば、もしかしたら食べてしまうかもしれない、そんな勢いである。

 レオやココにあげるように魔力を込めて渡してみようかと本気で思ってしまう。


 リリアはヒナノの魔石に興味津々なのであった。

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