第35話 洋服と宝石

 思っていたよりも武器作りは難しいこと学んだヒナノであったが諦めるつもりはない。

 必要な物であるし、ココにも喜んでもらいたいのでヒナノは改良を重ねていくしかない。


 只、悩んだ時は体を動かすのがいいと誰かが言っていたので、練習したバク宙をやってみたりしてみる。

 身体能力が極端に向上しているので、コツを掴めば楽々出来てしまう。

 そうなると少しアレンジしたくなってくる。

 勢いをつけて側転を捻ったロンダートからのバク転からのバク宙、くるくると回り両足で着地、完璧。


「うん! 凄いよね!」


 前世ではやろうともしなかったことが、簡単にできてしまう。

 気分転換はできた、気を取り直して洋服でも作ろうと思う。

 武器作りではないのかと言われるかもしれないが、あえて違うことをやってみる。

 

 別のことをやることにより武器作りの新たなアイデアが生まれるかもしれない、まあ軽い現実逃避ともいう。

 洋服は【鉱物使いSS】の能力とは直接は関係ないが、魔石から生成されたものは操れるのでできるはず。


 ヒナノは【アラクネの魔石(特異種)】を使って糸を重ねて布を作製。

 ここら辺の工程は寝床作りでもやったので、やり方は分かっている。

 只、今回は洋服なので荒い格子だと肌が見えてしまうので、間隔を少なくして透けないようにした。

 広げてみると少し光は通るが、目は詰まっているので大丈夫だと思う。


 これを洋服にしていく訳だが……。


「どうするのこれ?」


 布一枚から洋服を作る技術などヒナノは持ってはいない。

 とりあえず真ん中に頭が通る大きさの穴を開けた。

 刃物で切る訳ではなく能力で格子の隙間を広げる感じで大きくする。


 頭から被ると、ポンチョのようになった。

 まあ、布を被っただけなのだが、風はしのげる。

 左手を横に上げると前後に布が垂れる、それを合わせて付けるようにイメージ。

 

 まるで初めから一つだったかのように布は継ぎ目もなく繋がる。

 糸同士がヒナノの魔力で一体化した、魔石から生成された糸は【鉱物使いSS】の対象であるということだ。

 【合成】により繋がったということだと思われる。


(これは使えるかも)


 ヒナノは開いている部分を指で繋ぎ合わせていく。

 布をなぞるだけで接着されてしまうので簡単。

 一周全てを繋げたが、まだ洋服とは言えない。

 【変形】で自分の体に合わせて修正する、足りない部分は伸ばして多い部分は縮ませる。

 ボディスーツのような体にぴったりとした物が出来上がった。

 アンダーウェアとしてはいいのだろうが、もう少しゆとりのある服が欲しいので間に空間を作る。


「こんな感じかな?」


 丸首の白い長袖のシャツが出来上がった。

 端を引っ張ると伸びて離すと元に戻る、伸縮性があり動きを阻害しない。

 色が糸の色である白しかできないのは残念であるが、一応洋服が作れた。


(こんな色がいいんだけど)


 地面の岩を見てヒナノがそんなことを思うと、洋服の色がスッと変わっていった。

 

「おお~! 私が思った色になるってことね!?」


 試さずにはいられない楽しさがある。

 岩の色から始まり、葉っぱ、空、花と色々と変化させた。

 回数の制限は無いようであり、何度でも色は変わる。

 ヒナノは、ふと思い出しスライム魔石から鉱物を取り出す。


 案の定、服はその鉱物の色になった、鮮やかな緑色であり取り出した鉱石はエメラルドであった。

 それは内包物が極度に少ない物であり、ヒナノが原石から能力で抽出した物。

 丸い外形は均等にカットされ、色は淡く、輝度は高い。

 研磨技術が必要なカットもヒナノの能力であればお手の物であり、大きさも異常と言わざるを得ない。


 前世の価値で、一億はくだらない価値の物が数十分で出来てしまう、そんな能力をヒナノは持っている。

 更に研鑽を積めば、より良い物をもっと早く作ることも可能であろう。


 勿論、こんな物を【石食い】であるレオとココに見せれば、大変なことになるのは間違いない。

 涎をたらして、まっしぐらであろうことは予想できる。

 だからこそヒナノも彼らの前では出さなかった。

 彼らがいない時に【光沢】の練習用として使っていたので、食べさせる訳にはいかなかったようである。


 エメラルドグリーンの服は目立ちすぎるので、結局初めの岩の色、灰色で落ち着いた。

 デザイン的には問題があるが、洋服としての機能は果たしているので良しとする。

 今度、人間の街にいったら洋服屋で服のデザインを見てくるのもいいかもしれない。

 ヒナノがそんなことを考えていると、遠くから人影が近づいてくるのが見えた。


(あれって人間よね?)


 近づいて来る人影は4名、男性三人、女性一人だと思われる、多分人間。

 人間だと思った理由はココのように頭に耳がなさそうだからということだけだが、どうだろう。


『ヒナノ、そっちに戻ろうか』


 どうやら接近してくる人影をレオも確認したようであり、ヒナノを心配して念話で連絡をしてきてくれたようである。


「ううん、大丈夫よ。とりあえず自分で対処してみるわ。もし駄目そうならよろしくね」 

『りょーかい!』

 

 いきなり襲われることもないだろうが、レオの結界も有るし大丈夫だろう。

 身体能力も上がっているので、逃げるだけならヒナノでも出来るはず。


 この世界に来て初めての人間との遭遇かもしれない。

 ヒナノは少し緊張するのであった。

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