第51話 料理で回復?
温かくて気持ちが落ち着くような食べ物が理想ではあるが、巨大蟹の汁が大量にあるのをヒナノは思い出す。
時間停止機能があることをいいことに、巨大鍋のまま収納してしまったのは失敗だったかもしれない。
使う度にあれを取り出さなければならないのは、邪魔になるし面倒なので小分けにしておくのが正解だったと思う。
『なんか小分けにできるみたいだよ』
「えっ、本当に! じゃあこの鍋に入るぐらいに汁を出せる?」
『細かい調整ができるか分からないけど、やってみるね』
ヒナノの肩に乗ったレオが片足を鍋に向けると、ザバーっと半分より多めの蟹汁が鍋に注がれた、まだ温かく湯気が立つ。
スライム魔石(金)は時間停止しているのは本当のようである。
「へえ〜、分けられるのは便利ね!」
便利というより、そんなのありなのかという思いが強い。
蟹汁が入った鍋が、中の蟹汁だけ取り出せて量も調節できる、ご都合主義とかチート能力といったものなのだろうか。
まあ、できてしまったのだからヒナノとしては文句はない、有効利用させて貰おう。
そのまま汁だけを彼等に出すのも味気ないのでアレンジしたい。
本来であれば味噌汁が理想なのであるが、この世界ではまだ味噌を見たことがない、リリアも持っていなかった。
魔導電磁調理器にヒナノの指輪から外したスライム魔石(銀)をセットし電力を供給する。
蟹の茹で汁が入った鍋を再度温める、温まった状態で保管してあったので直ぐに沸騰してくる。
以前レオとココに収穫して貰ったニラを、二センチ幅に切って沸騰した蟹汁の中に入れる。
塩と胡椒で味を調えて溶いた卵をゆっくり回しかけ、箸で全体を混ぜていく。
黄色と緑の綺麗な色合い。
「レオ君、蟹の身だけって出せるかな?」
『ん? 脚でいいの?』
「そうそう。できるかな?」
『やってみるね』
少し悩んだ感じのレオだったが、ポチャンと鍋の中に蟹の身が出現、大きさも丁度いい。
蟹の汁ができるなら身もできる、そんな理屈なのだろうか、あっさりと成功した。
「ありがとう。これで完成ね」
蟹の身が入ることにより、更に彩りが良くなった。
火を止めて、お椀によそってから胡麻から取った油を少したらす。
「はい、皆さんどうぞ!」
「「「おおっ!!」」」
「まさかダンジョンで温かいものが食べられるなんて!」
「本当ね! 嬉しいわ!」
彼等は一口含むと声を揃えて言う。
「「「「お、美味しい!?」」」」
「ふわふわの卵が最高だ!」
「蟹の美味しさが凝縮しているわ!」
「ニラがアクセントになっていい!」
「出汁が旨すぎる! 疲れた体に染み渡るぜ!!」
等々、好評であった。
「なんか体力と魔力が回復したような気がする」
と誰かが言っていたが真偽は分からない。
まあ、気持ちは回復しているようなので良しとしよう。
スープを飲んで落ち着いたころ冒険者達とお互いの自己紹介をする。
ロイド、アリア、クリスト、そしてコーリンの4人で、長いことパーティーを組んでいるようである。
「しかし今回は参った。あんなに大量の魔物の巣に転送されるとはな」
「本当よ。もう駄目かと思ったわ」
「まったくだ。危うく死にかけたぞ」
「本気で駄目かと思いました」
アリア、コーリンの女性陣は結構気が強く男性陣にもガンガン意見を言っている。
男性陣もそれで機嫌が悪くなることもない、お互いが信頼しているパーティーなのだろう。
「しかしこのスープは旨いな。生き返るよ。ありがとうヒナノ」
「いえいえ。どういたしまして。喜んでもらえて良かったです」
「ヒナノ達は冒険者ではないよな?」
リーダーであるロイドがヒナノに尋ねる。
「そうですね。旅人とでもいいましょうか」
「旅人か。でも女の子達だけでは大変だろ?」
「そうでもないですよ。のんびりと旅をしてるので楽しんでいます」
可愛い仲間もできたし、物を作ったり、探し物をしたり色々と発見がある。
ヒナノはこの世界での生活を気に入っている。
「そういえば転送されたって言ってましたけど、そんなことが可能なんですか?」
彼等の話ぶりからすると転送とは人が違う空間に移動することのようであり、ヒナノが不思議に思うのも当然かもしれない。
「ん? ああ、ダンジョン内だとよくあることじゃないかな。ダンジョン脱出用の転移石もあるからな」
「そうなんですね。見せて貰うことはできますか?」
ヒナノは石と言われると興味が出てしまう、能力のせいだろうか。
ダンジョン内にいるということは転送や転移石のことは知ってるはずであるが、ロイドはヒナノ達が訳ありだと察する。
おかしいと思いつつも温かいスープを貰った恩義もあるので、ロイドは質問に答える。
「あー、すまない。実は魔物の群れとの戦いで落としてしまってな。見せることができないんだよ」
ロイドは壁を指差して言う、今は壁の反対側ということだろう。
転移石は高価な物であり通常はパーティーで一つを持つものらしい。
そんな貴重な物を落としてしまったようである。
「その転移石がないと歩きで戻らないといけないってことですか?」
「ああ、そう言う事だな」
「それは大変ですね」
ヒナノのスープで気力が回復したとはいえ魔物の群れとの戦いで消耗した体力で、ここから帰らなければならないのは大変な労力だろう。
ヒナノ達が一緒についていければいいが、ヒナノにも金剛石を探すという目的がある。
ならばと。
「私が転移石を回収して来ましょうか?」
「「「「えっ?」」」」
ヒナノのまさかの提案にロイド達は首を傾げるのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます