第52話 回収提案と甘味石
「回収とは言っても転移石は壁の向こうだぞ。仮に壁を壊したとしても大量の魔物がまだいるはずだ。君達もこの階層まで来るということはそれなりに強いのだろう。でも多勢に無勢だ止めた方がいい」
そう考えるのが普通であり、ヒナノの行動は周りからみれば無謀と言わざるを得ない。
だが、ヒナノも安易に発言した訳では無い、勝算があってのこと。
ヒナノがどうこうできるかは別にして、レオがいるので全く心配はしていない。
レオを手こずらせる相手など存在するのだろうかとさえヒナノは思っているようである。
勿論、ココに関しても同様であり、今回は別行動することを考えているようだ。
この場所に残り冒険者達を魔物から守る、ヒナノはココにそんな役割をお願いするつもりであった。
そんなレオとココの強さを分からない彼等が、不安になるのは当然かもしれない。
「どんな魔物がいたのですか?」
「いや、だから……行くのは危険だろ」
「じゃあ、行く行かないは、お話を聞いてから判断しますね。どんな魔物がいたのか教えてもらえますか?」
「わ、分かった。出現したのは俺達の出会ったことのない初めて見るタイプの魔物だったな」
転送先特有の魔物なのだろうか。
ロイドの話によると外郭は黒い殻で守られていて足が複数あり体を丸めて突進して攻撃してくる魔物だったようである。
大きさはヒナノの頭三個分ぐらいはあるだろうか、ロイドが両手で示した大きさはそれぐらいだった。
気持ちが悪い、その一言に尽きるだろう。
そんな魔物が複数で自分に向かってこられたら、普通だったら発狂するレベル。
よく彼等は正気を保って戦い、犠牲者を出すこともなく脱出してきたものだ。
流石は冒険者と言ったところか。
「い、嫌かも」
黒くて脚が多い生物には嫌悪感を感じてしまう、正直な気持ちがヒナノの口から漏れる。
「だろ? 転移石のことはいいから無謀なことはやめてくれ」
大体のイメージはできた、ヒナノは話を変える。
「とりあえず、まだ料理食べられますよね? 追加で肉でも焼きましょうか?」
「えっ、ああそれは助かるが……」
転移石を回収するしないは別として空腹な彼等をこのままにしておく訳にはいかない。
スープだけでは足りないだろうし、新たな料理をヒナノは作ることにした。
とはいえ肉を焼くだけなのだが。
レオとココが肉が好きなので取ってスライム魔石(金)に結構な量を保管している。
肉屋ができるぐらいに肉があるんじゃないだろうか。
差しが入った部位をフライパンで焼いていく、塩と胡椒で下味をつけて両面に焼き色を付ける。
それを一口サイズの格子状に切り分けて、リリアに分けて貰った魚醤を振りかけた。
いい音と匂いが辺りに広がり食欲をそそる。
醤油はなかったが魚醤でも問題ないだろう。
新鮮な肉なので、中身に火が入りすぎないぐらいが柔らかくて美味しいはず。
冒険者達の喉が鳴る、レオとココのお腹も鳴る、ヒナノの頬も緩む。
「はい、どうぞ」
「「「「ありがとう!」」」」
『ありがとう!』
「ありがとうですぅ!」
レオとココもいるので、あっという間に肉は減っていった。
追加で肉を焼きながらヒナノは別の物も作っていく。
実は神様から支給されていたアイテムボックスからパンを何個かスライム魔石に移していた。
パンをそのまま保管していた物は10日間をすぎたと同時に消えてしまったのだが、下処理を加えた物は残っており消えなかった。
調理しておけば、そのまま残るということだったのだろう。
どうせなら色々と作っておけば良かったと思うが、この世界で小麦を探して一からパンを作っていくことが、もしかしたら神様の願いなのかもしれない。
そんな感じでスライム魔石に残っていた材料を使って調理したいと思う。
一センチぐらいの厚さに切ったパンに卵と牛乳をよく混ぜた液をしみこませていた物を使う。
バニラビーンズからバニラシードを取り出し細かくした物を加える。
弱火で温めたフライパンに、バターと不思議な形をした緑色の果実と種子から圧搾したグリーンナッツオイルと似た油を入れる。
バターは牛乳から分離したクリームをココに練って貰って固めたものだ。
パンを並べて蓋をしてしばらく待つ。
裏返ししてフタをし、さらに焼き目がつくまで焼いて完成。
ふっくらと焼きあがったパンの上にバターを散らし、その上に輪切りに切ったバナナをのせる。
更に、この世界には魔力を甘い液体に変換するという、おかしな、いや素敵な石が存在していた。
甘味石とか言われる物で、はちみつとか水飴とか、とろりとした粘度のある甘い液体が魔力から作り出せる。
今回はメイプルシロップ味の甘味石を使う。
焼きあがったパンに、とろーりとかけていく。
オーブントースターがあればもう少し簡単だっただろうか、今度作製してみよう。
「はい、どうぞ」
「「「「うおー、いただきます!!」」」」
『いただきます!!』
「いただきますですぅ!!」
ずいぶんと賑やかになった食卓、料理は全て好評であった。
でもここはダンジョンである。
本来であればのんびりと食事など出来ない戦いの場。
そんなことはダンジョンの外でやれよと誰かが思ったとか……。
ヒナノの魔力を変換したメイプルシロップ、当然ながらレオとココにはご馳走であった。
「体にしみこむですぅううう!?」『液体はやばいなああああ!?』と言っていたので効果があったようである。
そして。
「た、体力と魔力が回復したぞ!!」
「本当だ!!」
「料理を食べただけなのに!!」
「す、凄い!!」
ヒナノは対人間用回復薬を作れるようになったようであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます