第53話 ダンジョンコアの苦悩
――マスター! 大変です! 侵入者です。
『……うん? 侵入者? ダンジョンなんだから誰かが来るのは当然じゃないの?』
ダンジョン最深部に鎮座したマスターと呼ばれたダンジョンコアは、部下からの報告に訝しげに返答する。
通常であればそんなことは、部下たちもいちいち報告してこない、どうやらいつもとは違う様子であった。
――いえ、不正侵入者です。
『不正侵入者? どういうこと?』
賄賂を払って侵入するとかダンジョンにはない。
他の方法などあるのかとダンジョンコアが疑問に思うのも当然だろう。
――侵入者達は正規のルートを通らず、外壁に穴を空けてダンジョン最上層内に入りました。
『はあ? なにそれ、そんなこと可能なの? ダンジョンの壁って空間隔離用の壁じゃなかったっけ?』
物理的な壁ではないダンジョンの外壁からの進入、そんなことがありえるのだろうか。
ダンジョン生誕以来そんなことは今まで一度もなかった。
――はい。ですが侵入されました。
『し、侵入者の数は?』
――三体です。おそらく人間と獣人、そして正体不明の魔物が一体です。
『はあ? おそらくとか不明とか、何その曖昧な報告は!』
部下の教育が悪かったのだろうか、報告ぐらいしっかりとして貰いたいものだとダンジョンコアは思う。
――いえ、私の能力では侵入者達のスペックを測ることが不可能でした。
観測者である部下はダンジョン内の監視をしている、その方面では特出した能力を持っているのだ。
そんな役割のものが鑑定できない侵入者達、ダンジョンコアは不安を覚えた。
『侵入者の映像をこっちに回して!』
映し出された侵入者達の容姿は、人間、獣人、猫であった。
だが、見た瞬間部下の曖昧な報告に納得せざるを得なかった。
ダンジョンコアが自ら確認しても、侵入者の力量は測れない、バケモノ揃いである。
『しゅ、守備隊の魔物達は、どうなったの?』
それぞれの階層には魔物が配置してある。
侵入者には襲いかかるようインプットされている、それがダンジョンなのだ。
――はい。一瞬で全滅しました。
『うぐっ!』
まあ上層部の魔物は弱いので仕方がないだろう、ダンジョンコアは必死に心を落ち着ける。
ダンジョンは下層に行けば行くほど魔物の強さが上がっていく、そういうものである。
『まあ、いいわ。それでそいつらはボス部屋に向かったの?』
階層のボスを倒すと次の階層へ行くことができるようになる、この世界の一般常識である。
――いえ、それが床を突き破り次の階層に進みました。
『はああ!? だからダンジョンの壁や地面が簡単に壊せる訳ないでしょ!!』
――いえ、あっさりと貫通して進んでいます。
『えっ、あっうん、ちょっ、ちょっと待って!』
理解が追いつかない時に、パニックになるのはダンジョンコアでも同じようであった。
何とか気持ちを整理して、まとめた考えを部下に伝える。
『と、とりあえずは浅い階層だから魔物は通常通りで様子見ね。罠の配置を変えて奴らにぶつけて! また変化があったら連絡しなさい!』
――了解しました。
浅い階層では、まだ侵入者を倒せるような魔物は存在しない。
でも、これから下に行けば行くほど侵入者達も手こずるはずである。
それまでに少しでも罠でダメージを与えておけば問題ないだろう、ダンジョンコアはそう思いたかった。
それから少し時が経ち。
――ご報告します。侵入者Xは階層壁を食い破り依然進行中。罠は無効化、守備隊も近づくことなく全滅しました。
『くっ! なんて奴ら! 効果なしってことね。少しはダンジョンのルールを守ってもらいたいものだわ!! 奴らの予想目的地は?』
――おそらくはここ、コア部屋だと思われます。真っ直ぐに向かって来ております。
『やっぱり、そうよね』
ダンジョンコアの獲得は冒険者としては、名誉なことであり価値がある。
彼らほどの力量なら狙わない訳がない、ダンジョン側の考えとすればそうなるだろう。
だが侵入者X、ヒナノ達の目的は違う、金剛石の獲得でありコアのことなど考えにない。
――侵入者Xは現在、監視冒険者Aに遭遇、合流しました。
『ま、まさか、奴らを助けに来たの?』
監視冒険者Aはロイド達であり、ダンジョン側は魔力が高い彼等を養分にする為に色々と画策していた。
その甲斐あって瀕死のところまで追い詰めることに成功したのだが、まさか侵入者Xと合流するとは思ってもいなかったようである。
監視冒険者Aのことは残念ではあるが、これ以上、被害が出る前に侵入者Xには帰って貰えるならその方がいいかもしれない、ダンジョンコアはそう考えた。
その時ダンジョンコアは信じられないものを目撃する。
『あっ、えっ、あいつら何をやっているの?』
――お、おそらくは料理かと思われます。
侵入者Xは具材を入れた鍋を温め、箸で混ぜている、間違いない料理である。
『か、完全に舐めているわね! あいつらダンジョンを何だと思っているの!!』
セーフティエリアでもない通常の場所は魔物が蔓延る危険地帯。
冒険者達は手に汗を握り、命をかけて魔物に立ち向かう。
それがダンジョンであり冒険者という者ではないのか! ダンジョンコアはそう熱く叫びたい。
そんな場所での愚弄するかのような所業、許せるはずもない。
『あの人間の女が元凶ね。あいつから片付けましょう!!』
――同意します。
ダンジョンコアは宣言する。
あの人間の女というのはヒナノのことであり、たしかに料理をしたり壁を苦もなく突破しているのはヒナノの能力の所為である。
部下もダンジョンコアの意見に賛成であった。
しかし……。
『なっ!?』
――うっ!?
身震いするほどの悪寒がダンジョンコア達を襲う。
いや、本能的な危険察知とでも言った方がいいだろうか。
ヒナノに殺意を向けた途端にそれは起こった。
『やばい、やばい!? 何なの一体!?』
ダンジョンコアもその部下も自らの命の危険を感じた元凶は人間の肩に乗っている小さな猫、レオであった。
ヒナノに危害を加えようとするものは許さない、そういうことだろう。
ダンジョンコア達は対峙してもいない相手に恐怖を感じたのだ。
『あ、あんなのどうすればいいって言うのよ!?』
――す、凄まじい魔力です。魔物達が相手にならない訳です。
レオに標的にされれば命はない、しかしヒナノを何とかしなければここまで辿り着かれるのも時間の問題。
ヒナノ達の知らないところで、ダンジョンコア達は苦悩するのであった。
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