第54話 転移石の捜索

 ロイド達がヒナノの料理で体力と魔力が回復したとはいえ、全回復とはいかなかったようである。


「いや、でも凄い事だよ。料理だけで回復してしまうなんて聞いたことがない!」

「そうよ。味が最高な上に、回復魔法みたいな効果があるなんて信じられないわ!」 

 

 ロイドとアリアがヒナノが作ったフレンチトーストを絶賛である。

 回復効果は抜きにして作った料理が褒められるのはヒナノとしても嬉しいものであった。


「これならもう少し休めばダンジョンから脱出できそうだよ」

「ヒナノの料理、凄いわね!」


 彼等もこのダンジョンに挑んできた者達である、体力と魔力が回復すればそれなりに戦えるのだろう。

 戦闘で道具を落としたようだが、魔法を使ったり極力戦いを少なくすれば帰れる算段がついたのかもしれない。


 甘味石から出る液体を原液のまま飲んだら、完全回復したりするのだろかヒナノは思う。

 ハチミツ味でもメープルシロップ味でも、そのまま飲めば甘いのは間違いない。

 完全回復にはコップ一杯分ぐらいの量は必要なのだろうか。


 ロイド達には我慢して飲んで貰い、完全回復するかの実験に付き合って貰ってもいいかもしれない、これは体力と魔力が減っている彼等にしかできないことである。

 決してヒナノが、自分でやりたくないからではない。

 ココに体を押さえて貰って、口に流し込むのも悪くないかも。


「お、おいヒナノ何だか悪い顔をしていないか?」


 そんな邪な気持ちは周りに伝わるものなのか、ロイドが何かを察したようであった。


「えっ、やだなあ、冗談じゃないですか!」

「な、何が冗談なんだ?」


 ロイドは意味不明であった。

 話を広げる必要もないと思いヒナノは話題を変える。


「じゃあ、そろそろ転移石を探してきますね」


 お腹も満たされたので、彼らが落としてしまった転移石を回収しにいくとヒナノは提案する。


「いやいや、だから危ないって! 君をそんな危険な場所に行かせる訳にはいかない。それにどこに落としたのか正確な位置は俺たちにも分からない。探すのは諦めた方がいい」


 探せない理由を色々と挙げられたが、ヒナノには問題にならないものばかりであった。

 しかも転移石なんていう物があるなんて、ヒナノとしては気になって仕方がないのである。

 転移石というぐらいなのだから石であり鉱物であり、【鉱物使い】であるヒナノが探せない訳がない。

 魔物の方はレオがいるので安心である。

 気持ちの悪い魔物とはいえ結界で近づけないはず。


 【鉱物使いSS】の【知覚】で転移石を探せばあっという間に見つかった。

 ロイドが言っていた通り、壁の向こう側であり通常では行けない場所。

 周りを見回しても入口などなく、罠にかかり転送されなければ中には入れないのだろう。

 

「ココ、私とレオ君は転移石を探してくるからココは彼等を守ってあげてね」

「りょ、了解なのですぅ!」


 一緒について行きたいと言うかと思ったが、特に嫌がる素振りも見せずにココは了承する。

 そんなに時間が掛からず、ヒナノとレオなら戻ってくると考えたのかもしれない。


「お任せなのです、しっかり守りますですぅ!!」


 ココは使命に燃えているようである、ボクシングのワンツーのような動作をしてシュッシュッですぅ! と言って全員にアピールしている。

 その動作に合わせてココが踏み込んだ地面にヒビが入ったり、遠くで何かが壊れるよな音がしたのは偶然だろう、ロイド達はそう思うことにした。

 

 ヒナノは頑強そうな壁に手を当てて力を込める。

 すると不思議なことに壁に小さな穴があき、大きくなっていく。


「「「「おおっ~!!」」」」

「ダンジョンの壁って穴あけられるのか?」

「いや、無理だろ普通は!!」

「何かのスキルなのかしら?」


 どうやらロイド達もヒナノと同じような能力は見た事がないようである。

 穴はヒナノが通れるサイズまでになった。

 『簡単にポンポン壁に穴をあけるんじゃないわよ!!』と聞こえた気がしたが、ヒナノの気のせいだろう。


「じゃあ、行ってきます! レオ君よろしくね!!」

『うん、任せて! 絶対守るよ!』


 相変わらずレオは男前であった。


「ヒナノ、すまない気を付けて行って来てくれ」

「駄目そうなら直ぐに引き返して来てね!!」

「「気を付けて!」」


 ロイド達もこれ以上強引に引き留める事はしないようであった。

 普通ではないヒナノの能力を見せられて、ヒナノ達なら何とかしてくれるのではないか、そんな気持ちになったのかもしれない。

 穴の中にヒナノが入ると、壁の穴はゆっくりと縮み始め最後には元の壁に戻った。


 ヒナノとレオが壁の中に消えた後、ロイド達はここがダンジョンであることを思い出す。

 それはレオが全体に掛けていた結界がなくなった為であり、通常状態に戻ったからであった。

 周りのプレッシャーを感じないで、のんびりと食事が出来たのはその為である。

 今、レオの結界は魔物から守るために、ヒナノの周りに張られていた。

 

 ロイド達の体力、魔力は完全には回復していない、おのずと緊張感が高まる。


「だ、大丈夫です。ココがいますですぅ!」


 可愛らしいポーズを取りながら、のんびりとした口調でそう宣言するココ。

 頼りになるようには見えない彼女であるが、ロイド達は何故か安心感を覚えた。

 レオの能力であれば広範囲に結界を張れば彼等も守れただろう。

 おそらくこの階層すべてに結界を掛けることも可能である。


 でもそれをしなかったのは、ココの修行になると考えたのか、それほど時間が掛かることでもないとの判断なのか。

 ヒナノ達は別行動となった。

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