第50話 魔導電磁調理器
ヒナノ達は天井から落ちてきたように見えたのではなく、落ちて来たのだ。
彼等が驚いているといるということは、普通そんなことはないということだろう。
ダンジョンの階層を降りて行けば行くほど空洞内が明るくなっていく、お互いが認識できるほどに。
光石も必要無くなるぐらいになり不思議に思って壁を見たら、表面が光っている。
【ダンジョンの壁】:ダンジョンの壁。光苔が付いている。
どうやら光る苔が付いていて洞窟内が明るいようであった。
ヒナノの能力では光苔の詳細は不明だが、壁はやはり鉱物として認識されたようである。
面白いのでヒナノは少し貰っていくことにした、壁ごと千切って。
空いた穴は直ぐに埋まるからダンジョンは不思議である。
人に会ったら先ずは挨拶、ヒナノは前世でそう教わった。
「こんにちは。冒険者の方達ですか?」
にっこりと微笑みながらヒナノは尋ねる。
「いや、まあそうだが、君達も冒険者なのか?」
「とてもそうは見えないが……」
「確かに、装備品も少ないし女の子二人で?」
「でも、冒険者でなければ、この階層までこられないわよね?」
様々な疑問が彼等の中で渦巻いているようであった。
只、彼等の姿は何と言うかボロボロであり、冒険者って大変な職業なのかもしれないとヒナノは思う。
疲労で座り込んでいるようであった、そこら辺の事情をヒナノは聞いてみた。
「ああ、罠にハマってしまってな。魔物の群れに囲まれて何とか脱出してきたところだよ」
「あんたが如何にも怪しい宝箱に目がくらんだからでしょ!」
「はあっ? お前も開けることに賛成しただろが?」
「もうやめましょう! 皆んなで決めた事です」
彼等は内輪揉めを始めてしまった。
しばらく続いていたが、終わりそうもないのでヒナノは声を掛ける。
「あの、大丈夫ですか皆さん?」
「……ああ、すまない、お見苦しいところを見せた。疲労と空腹で皆気が立っている。許してくれ」
「いえ、平気ですよ」
よっぽど過酷だったのだろう。
話を聞いてみると宝箱に見せかけた罠が発動して魔物の群れの部屋に全員転送、囲まれながらも魔物を倒し続けていたら壁に扉が出現、命からがら扉から脱出して今に至るようであった。
その後、扉は跡形もなく消えてしまったようである。
荷物や装備品を失ってしまったが必死に戦い逃げてきた、誰も犠牲者が出なくて幸いと思うしかない。
「すまないが回復薬を持っていないだろうか? それか回復魔法が使用できたりはしないか?」
「ごめんなさい。どちらも持って無いんですよ」
「そうか。金なら出すんだが……」
どうやら彼等はヒナノがどちらかを持っていると判断したようであった。
魔物がいるような場所に傷を癒す道具や魔法を持たずに来るはずがない、と考えたかもしれない。
ヒナノが渋って出さないのは貴重な回復手段を、赤の他人に無料で渡すのを拒んだように見えた、だからこそ彼は金銭取引を持ち出したのだろう。
「いえ、本当に持っていないのですよ」
「そうなのか……」
本当のことであっても嘘をついているにしても、どちらにしろ回復手段がないことに肩を落とす冒険者達。
「でも、回復手段はないですけど、ご飯なら作れますよ。お腹空いてますよね?」
「「「「えっ?」」」」
ダンジョンで料理を作るということだろうか、まさかのヒナノの提案に冒険者達は戸惑う。
「いやまあ、腹は減っている。だが魔物もいるしのんびりと、この場に居座るのもなあ」
「それなら大丈夫だと思いますよ。ここら辺には魔物がいないみたいですし」
レオとココが睨みを効かせれば魔物も大丈夫なはず。
冒険者達も辺りを見回すが、魔物の影は見当たらない。
「ほ、干肉か何かかな?」
どうやらこの世界の冒険者の携帯食は、干肉がメインのようであった。
「疲れているようなので温かいものがいいですかね。その前に汚れを落としましょうか」
彼等の体は魔物の体液や転がったであろう土埃、自分自身の出血などで汚れてしまっている。
体の汚れを落とせば気分も変わるかもしれない。
ヒナノは魔導シャワーを取りだし、水量少なめ、風多めに調整する。
霧状にして彼等の上から振りかけると、どんどん汚れが落ちていく。
「えっ、な、なんだこれは! 体が綺麗になっていくぞ!」
「本当だわ! あなた何をしたの?」
「ふふ、汚れを落としているだけですよ。害はないので安心してください」
「おおっ、凄いな。みるみる綺麗になっていくぞ!」
ヒナノは魔導シャワーをココに任せて調理に入る。
レオには座り込んでいる彼等も含めた大きさになるように、結界の拡張をお願いした。
『りょーかい』
と言っていたので、どうやら問題なくできるようであった。
温かいものを食べて元気を取り戻して貰うのはいいとして、洞窟内で火を使うのはおすすめしないとヒナノは聞いたことがある。
ガスに引火して爆発するとか、酸欠になるとか、そんなところだろうと思う。
火が出る魔導コンロは使用できないので、ヒナノは違う方法で加熱することにしたようである。
取り出したのは薄いプレート状の石で、中央部は耐熱のガラスで作製。
中には銅をコイル状に巻いたものが入っている。
銅には魔力をコーティングしていて中心部は空洞になっている、自身が発熱してしまった場合には【ブレードフロストの魔石(特異種)】の冷気を送り込み温度を下げるようにした。
メインの動力はスライム魔石(銀)に蓄えられたレオに入れて貰った雷魔法。
それを電力として使い、コイルに流す。
それ自体が発熱する訳ではないが、上に置く金属製の鍋やフライパンを自己発熱させて調理することができる。
電磁波的なものが作用して、なんちゃらなのだろう。
魔導電磁調理器とでも言えばいいのだろうか、ヒナノは燃焼させることなく温めることに成功した。
まあ、詳しい構造は秘密である、というか色々やっていたら出来てしまったと言った方がいいのかもしれない。
魔力の助けは大きい、なければ完成していなかっただろう。
使用する鍋やフライパンの底部は平らなものがいい、発熱の効率がいいようである。
デコボコしているとムラや温度上昇が遅くなったりと不具合が出た。
「何だか分からないけれど、温かい物が食べられるのはありがたい」
「ですよね!」
今は温かい食べ物を作る、それだけに集中しようと思うヒナノであった。
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