第14話 岩塩と胡椒と年齢と
鉄鉱石から鉄を抽出して成形した物は不格好な形ではあるが、何とかフライパンと言える物はできた。
能力を使ったヒナノの初めての鉄製品である。
見た目は良くないけれど、一応はフライパンの機能は満たしているだろう。
柄の部分は鉄であると持っていられないほど熱が伝わってきそうなので、ナイフで木を削り木製の物を作った。
接合部分は鉄で作り木製の柄に固定。
本体に取り付けるのには【合成】を使って鉄部分同士を接着した。
「あれ? でも色が銀色なんだけれど……。フライパンって黒いよね?」
出来上がった物は純粋に鉄を伸ばして曲げただけなので、銀色をしている。
どういうことなのかヒナノはフライパンに【鑑定】を掛けてみた。
【フライパンのような物】:ヒナノが作った物。塗装前。
「ああー、フライパンが黒い色をしているのは塗装しているからなのね」
たぶん、酸化防止とかそんな理由ではないかとヒナノは考える。
塗装自体やり方が分からないので、フライパンはそのまま使用する事にした。
名前からもまだフライパンとしては認められていないようである。
でもこれで肉も焼きやすくなったはず。
ヒナノとしては肉を食べるのに、やっぱり塩気は欲しい。
ということで塩と胡椒を手に入れることにした。
(塩を手に入れるなら岩塩かな?)
海があればいいのだが塩の匂いもしないし近くにはなさそう。
レオに確認しても同じような回答であった。
岩塩であれば鉱物なので能力で何とかなるはず、自分の能力を活かすとしたら岩塩を探すのが良いだろう。
この世界にあればいいのであるが、胡椒に関してはよく分からないのでヒナノはレオを頼る事にする。
「レオ君、胡椒って知ってる?」
『コショウ? 聞いたことないね』
「そっか、分からないか」
(まあ、猫であるレオ君が胡椒なんて嗜好品食べないか。いや、たしか猫には絶対与えてはいけなかったはず!)
レオに限らず獣がそんな物を好んで食べるとも思えない。
『どんな物かイメージしてもらっていい?』
「えっ? それでレオ君に伝わるの?」
『うん、従魔契約しているから大丈夫だと思うよ』
「へえ~、従魔契約って凄いんだ。ええっとね、こういう物なんだけど」
ヒナノは胡椒のイメージをレオに伝える。
『あー、あの実のことかな? あれ変な味するよね』
「えっ!? レオ君食べて平気なの?」
『ん? 別に平気だけど』
「そうなんだ。レオ君は特別なのね」
ダイヤや鉱物を食べてしまうレオは普通の猫とは違い魔物であるので平気なのだろう。
どうやらレオは胡椒を見たことがあるようであった。
「それをね、採ってきて貰いたいの」
『うん、いいよ任せて!』
「よろしく!」
これで塩と胡椒が手に入れば、肉もぐっと美味しくなるはずである。
ローズマリーとかのハーブ、醤油や砂糖、香辛料も今後増やしていければ、どんどん欲が出てきてしまう。
ヒナノは岩塩探し、レオは胡椒探しということで別行動になるので、ヒナノはレオに結界を張って貰う。
この結界なのだが、まだ単独で魔物に遭遇したことがないので効果の程は分からない。
見た目には特に変わらないので、昨日の猪みたいな魔物と遭遇したらと思うと、大丈夫なのかと不安はある。
「まあ、なんとかなるかな。レオ君よろしくね」
『はーい』
ヒナノは自分に言い聞かせて岩塩を探すことにした。
岩塩は海水や塩の湖などが固まってできたものであるので、自然が溢れるこの世界ならば、ありそうな気はする。
ヒナノは岩塩に絞って【知覚】を発動させる。
今いる場所から少し離れているが反応があった。
(この能力どれぐらいの距離まで分かるのかな? これもレベルによって違うのだと思うけれど……)
岩塩が地表近くにあれば良いのだが、あまり地中深くだと取ることができない。
せめて【移動】の能力が届く距離にあれば、何とかできるはず。
レオとは離れ離れになってはしまったが、契約をしているのでお互いの位置が分かるようである。
方向が分かるといった方がいいかもしれない。
なので探しても見つからないということになることは無さそう。
岩塩があるであろう場所へ向かい、しばらく歩いて進む。
森を抜けてすぐに岩山を発見。
「あった! これが岩塩ね!」
岩山の中腹が光を放ち、これが岩塩であるとヒナノに教えてくれている。
【知覚】は考えただけで鉱物が発見できてしまうのだからありがたい。能力様々である。
只、岩塩はこんなに剥き出しであるものなのだろうかと考えたが、あるのだから仕方がない、ラッキーだったとヒナノは思うことにする。
見つけた岩塩は橙とピンクと透明が混ざったような色をしており、この層が全て塩になるかと思うと驚いてしまう。一体どれだけの量があるのだろうか、凄い量である。
【岩塩】:水分が蒸発して塩分が凝縮、結晶化した物。ミネラルが多い。
鑑定してみるとミネラルが多いと表示されたので、良質な塩のようである。
アイテムボックスからナイフを取り出して岩塩の表面を削り、汚い部分を地面に落とす。
更に中の方を削り手の平で受け止める。
粉上になったそれを口に近づけてヒナノは舐めてみた。
「しょっぱい!」
どうやら塩で間違いないようである。目的は達成された。
これで肉も更に美味しく食べれるはず。
『ヒナノ、採ってきたよ』
「あっ、お帰りレオ君。早かったね。こっちも塩を見つけたところよ」
レオが離れたヒナノの場所を探し出せたのだから、契約者の位置が分かるというのは本当らしい。
『ああ、このしょっぱいやつね。食べるの?』
「そうね。でもこのままじゃなくて肉にまぶして焼いたりとか、料理に少量使うとグッと美味しくなるのよ」
『へえ~、そうなんだ』
レオはピンときていないようであるが、気に入ってもらえると嬉しい。
上手く調理しないと。
「それでレオ君、胡椒はどうだったの?」
『はいこれね』
スライム魔石の収納スペースからレオは胡椒を取り出した。
ぶどうの房のように球状の束が連なり、一つの穂には数十の胡椒の実、完熟度の違いなのか緑と赤のものがある。
「そうそう、これよ。レオ君ありがとう」
『どういたしまして。どれぐらい必要か分からないから沢山採ってきたよ』
確かに、分量は指定していなかったのだが、ヒナノとレオなら一年は困らない分はありそう。
レオに渡したスライム魔石の収納容量は複数のダイヤで強化しているので、たっぷり入るようになった。
次から次に収納できてしまうのが楽しくてレオはどんどんと採ってしまったらしい。
子猫なので好奇心旺盛なのかもしれない。
「そういえばレオ君は今何歳なの?」
何となく気になりヒナノはレオに聞いてみる。
『まだ、生まれてそんなに経っていないから……』
可愛らしい容姿なのでそうだとは思っていた、生後数ヵ月ってところかな?
『100歳ぐらいだよ』
「ひゃ、100歳! レオ君100歳なの!?」
『そんなもんだね。僕の種族は人間と違って長命だから。人間とは感覚が違うのかも』
「う、うそっ!」
まさかの人生(猫生?)の大先輩であった。
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