第59話 ダンジョンコアの本気と敗北

 ダンジョン内にいた冒険者達は異変を感じ取っていた。

 今までに感じたことのない地面の振動と壁の歪み、軋む音。

 それは突然やってきた。


「何だこの揺れは!」

「ただ事じゃあないぞ!」

「不味い! 全員退避だ!」


 走ってダンジョン入口まで戻る者達、転移石で逃げる者達でダンジョンは、騒がしくなる。

 古参の冒険者達も今まで経験したことのない出来事に困惑する。


「一体何が起こっているんだ!」

「分からねぇ。こんなことは始めてだ!」


 ダンジョン自体の変化と、更には上層階の魔物達も一斉に姿を消す。

 フロアに魔物が一体もいなくなるという、ダンジョン始まって以来の出来事であった。

 どうやらダンジョンを維持する力が弱まっているようである。

 どれほどの力がダンジョンの形成維持の為に使用されていたのか分からない。


 だがダンジョンコアはその魔力を最終フロアボスに注いだようである。

 対魔法処理をされた筋骨隆々の体、身長はヒナノの二倍はあるだろうか。

 金属の塊を棒切れのように振り回す、風が舞い、砂埃を巻き上げる。

 まともに喰らえば、体の原型がなくなるほどのスピードとパワーであるのは間違いない、ひとたまりも無いだろう。


 更に魔法障壁は強力な魔法でさえ跳ね返してしまう程の防御力を誇る。

 そんな凶悪な武器と防御力を備えたフロアボスを三体、ダンジョンコアは出現させた。

 フロア数層分の魔力を注ぎ込んだようである。

 

 ダンジョンコアもなりふり構っていられないのだろう、ここでヒナノ達に止めを刺すつもりのようであった。



――フロアボスの配置完了しました。


『ご苦労様。これで奴らも終わりね!』


 部下からの報告に満足そうなダンジョンコア。

 上層フロアを数層停止させて作り上げたフロアボス、ダンジョンコアの最高傑作である。

 いくらヒナノ達が強いとはいえ、総力を結集して作り上げたフロアボスの敗北など考えられない。


――はい。200%我々の勝利で間違いありません。


 どうやって計算したのか分からないが、部下も自信満々であった。

 

『まあ、奴らもここまでよく頑張ったんじゃないかしら。ここでダンジョンの肥やしにしてあげるわ!!』


――ええ、奴らなら相当な養分が見込めるはずです。被害が出たフロアの修復も容易でしょう。


『そうね。損して得取れってやつね。楽しみ、思い知らせてやるわ!』


 コア部屋の手前の層、最終フロアでフロアボスとヒナノ達が対峙することとなった。

 ヒナノ達は各階層を正規のルートでクリアしてきたのではない。

 地面に穴を掘って降りて来ただけである。

 始めは驚いたそんな光景もここまでやられれば慣れてしまうものなのだろうか、ダンジョンコア達も感覚が麻痺したようであり、怒りも感じなくなっていた。

 最終フロアで迎え撃つ、そこに集中しているようである。


『なっ! まさかあの獣人の娘一人で戦うつもりなの!』


――そ、そのようであります。


 フロアボス三体の前に出たのは獣人の娘ただ一人。

 レオは訓練の為にとココを送り出したようである。

 今までとは違う敵の迫力にココだけに戦わせるのは不安を感じたが、苦戦するようならレオも参戦するということでヒナノは賛成することにしたようだ。


『ど、どこまで馬鹿にすればいいの! ぶっ潰してやるわ!!』


 ダンジョンコアは、ぶち切れであった。


 フロアボスは血管が浮き出た太い腕を振り降ろす、金属の棍棒が激しい音と共に地面にクレーターを作った、これが戦闘スタートの合図となった。


 それから少し経った。


――げ、現在フロアボス三体は獣人の娘に押されています!


『な、なんなの信じられない!』


 ダンジョンコア達が自信を持って送り出したフロアボス達を、ココは攻略し始めていた。

 始めは戸惑う部分もあったようだが、今は完全に見切っているようであり、余裕さえ伺える。


――このままでは厳しいかと思われます!!


『バ、バケモノめ! 仕方がないわ。中層までの魔力をフロアボスに注ぎ込んで!!』


――しかし、それでは。


 ダンジョンコアとしては全力で魔力をボスに回せと言っていたが、本当にそうなるとは思っていなかったようである。

 部下もそこら辺は分かっており、上層部のみの魔力しかボスに注いでいなかった、いやそれでも十分過ぎるだろうという予想だった。

 

『覚悟を決めなさい! 相手は真のバケモノよ!!』


 それでも、もはや足りないかもしれない。

 初めから一体のボスに魔力を注ぎ込むべきだったのか、それとも何か他の方法があったのではないだろうか、そんな後悔がダンジョンコアの頭をよぎる。


――承知いたしました。


 中層部の魔力を注ぎ込まれたフロアボス達は善戦する。

 パワーアップしたコンビネーションによる攻撃と手数でココを追い込んでいく。


――マ……マスター……こ、これで失礼いたします。ご、ご武運を……。


 ダンジョン監視役の部下を維持する魔力が切れてしまったようである。

 フロアボスに回し過ぎたのであった。


『くっ、あんたの分までやってやるわ! うおおおおお!!』


 ダンジョンコアもフロアボスに魔力を注ぐ。


――バキッ!!


 無情にもココの攻撃によりフロアボス一体の足元が崩される、そこからは早かった。

 次々と各個撃破され最後のフロアボスも倒されてしまう。


『はあ、はあ、なんて奴らなの……』


 敵の力を見誤った、いや測れなかった、ダンジョンコア達の完敗であった。

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