第2話 異世界に行きます
「あれ、私どうしたんだっけ?」
自分の記憶が曖昧な事に陽菜乃は気が付く。
思い出したいけれど思い出せない、あったはずの記憶が抜け落ちた様な感じ。
頭の中に靄がかかったような。
何だか気持ちのいいものではない、怖さする感じる。
『天花寺陽菜乃さん。記憶が混濁しているようですね』
人ではない何かが気が付いたらそこに存在していた、そんな表現があっているかもしれない。
その存在は話しかけて来たが、陽菜乃に見えている訳ではない。
「ええっと、はい。貴女は誰でしょうか? 私は死んだのですか?」
混乱はしていたが多分、相手は女性のような気がしたので、そんな風に陽菜乃は答える。
人間ではない上位の存在、陽菜乃は直感でそう理解できた。
同時に自分が死んでしまった事も理解する。
『察しが良くて助かります。わたくしは貴女の世界で創造主とか神と言われる存在です。ご察しの通り貴女はお亡くなりになりました』
「そう……ですか。多少はショックですけれど仕方がないですね」
『随分と達観されているのですね。普通は取り乱したりするものなのですが』
「ええ、自分でも不思議なのですが何故だか受け入れている自分がいます。記憶が曖昧なのも関係しているのかもしれません」
『魂の安定の為に記憶はわたくしの方で弄らせていただきましたが、それでも自分の死を受け入れるのには普通時間が掛かるものです。貴女は少し変わっているのかもしれませんね』
記憶が曖昧なのは神と言われる存在が、調整していたからのようであった。
「どうでしょうか、もしかしたら現状から逃げたかっただけなのかもしれません」
『そうですか。死因が過労死ともなれば現実逃避もしたくなるのでしょう』
「私、過労死だったんですね……」
死んでしまったことは残念であるが、その時の状況が思い出せないのでショックはそれほど大きくない。
陽菜乃はあまり時間が掛からずに現状を受け入れる事ができるタイプの人間である。
だから落ち着いているのかもしれない。
その時にある材料、環境で勝負できると言えば聞こえはいいが、現状を打破する気概みたいなものは無かったように思える。
どちらがいいとは一概には言えないが、陽菜乃は自分の事を平凡な人間だなと常々思っていた。
『今回、貴女には異世界に行く権利が与えられました。これには明確な理由はありません。亡くなった方の中から偶々選ばれた、貴女にも分かる言葉で表現するとすれば宝くじに当たったようなものだと考えて貰うのが、一番しっくりくるかもしれませんね』
「偶然、私が選ばれたという事ですか?」
『そうなります。全ての魂が転生や転移できる訳ではないという事です。今回の対応は特別だったとお考えください。つまり次に新しい世界で亡くなってしまったらそれまでです』
「三度目はないという事ですね」
『そうなります。只、こちらの勝手で選ばれた訳ですので陽菜乃さんにも異世界に行くかどうかの選択権があります』
「強制ではないのですね。でも行かない場合はどうなるのでしょう?」
『魂は浄化され消えてしまいます。二度と生まれ変わる事もありません。実は意外にもそういう選択をされる方は少なくありません。ですから陽菜乃さんも良く考えてから決めて貰って結構です』
行かない選択をする人がいる事に驚くのは、陽菜乃がまだ枯れていないという事だろうか。
もう一度生きられるなら迷いなどない。
「行きます! 異世界、行かせてください!」
『早いですね。まだ考えても構いませんよ』
「いえ、結論は変わりません」
『そうですか。では条件を申し上げてそれでも気持ちが変わらなければ決定という事にしましょう。まず異世界に行ってからやって貰いたい事ですが……特にはありません』
「えっ、生き返らせるから見返りに何かやれとかではないのですか?」
『陽菜乃さんがやりたいように生きて貰って結構です。そして生きていく上で必要な物を多少なりともサービスさせていただきます。そして前世ではなかった能力を一つ差し上げます』
「随分と私に有利な条件なのですね。能力とはどういったものなのでしょうか?」
『それはあちらに行ってから、ご自分で解明していってください』
そこは教えてくれないんだ、と陽菜乃は思うが色々と貰えそうなので文句は言えない。
「分かりました。やってみます」
『異世界に到着したら、先ずは城を目指してください。これも強制ではありませんので場所はご自分で探して貰いますが、今は使われていない廃城ですので好きに使って貰って構いません。それからサービスで容姿も変えて年齢も若くしておきます』
「気前がいいんですね……」
与えられるものが多くて陽菜乃は気が引けてしまう。
『ええ、体は新たに構築するので、そこら辺は融通が利きます』
「ありがとうございます」
『それでは最後に確認します。貴女は異世界でどんな事をしたいですか?』
突然の質問、何だか意味がある事の様に思えて陽菜乃は少し考えてから答える。
「そうですね。前世では過労死という事でしたので、のんびりと楽しい生活がしたいですね。動物を飼ったり、ものを作ったりするのなんていいかもしれませんね」
『なるほど。スローライフって事ですね。分かりました能力もその様に調整しておきましょう』
「どんな能力なのかは?」
『秘密です!』
その部分に関しては頑なに教えてくれない、あちらで少しずつ陽菜乃が解明していくのが神の狙いなのだろう。
その後、陽菜乃は行く世界がどんなところなのかの説明を受けた。
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