第64話 転移石と転移

 転移石の作製に必要な材料は、蛍石とダンジョンの壁、モンスターハウスの地面、そしてコア部屋の地面だった。

 それらを組み合わせると完成する。


『いやいや、材料有るからってそんなに簡単に出来るものじゃないから!!』


 エレノアのダンジョンコアとしてのプライドなのか、部外者であるヒナノがダンジョン用の転移石を簡単に作れてしまうことに驚いたようであった、まさかである。

 仮にヒナノのように必要な材料を集めても転移石ができることはない。


 材料を混合する割合とか魔力量を同じにしたとしても、ダンジョンコアの権限がなければ意味が無く転移石など完成しないはずである。


 鉱物を組み合わせてダンジョンのルールを超える物を生み出せるのは、ヒナノの【鉱物使いSS】の能力が関係しているのだろう。


『実は似ているけど、転移できないとかなんじゃないの?』


 エレノアとしては認めたくない気持ちが、言葉に乗ってしまうのは仕方がないことだろう。

 只、ヒナノは作った物が転移石で間違いないという自信があった。

 

「ふふ、ちゃんとした転移石よ。鑑定したからね」


 ヒナノは鉱物なら【鑑定】を使える、それがどんな物か分かるし影響を与えることもできる、そういう能力の持ち主なのだ。

 

【転移石】:ダンジョン内から地上へ転移することが可能。一回のみ。使用後砕け散る。(ヒナノ作)


『うそ、本当だわ。転移石で間違いない。ヒナノの先祖ってダンジョンコアだったとか?』

「ち、違うわよ。そういう能力なの!」


 ダンジョンコアであるエレノアも自分のダンジョンに干渉できるアイテムの鑑定はできる、それで転移石であることが確認できたようであった。

 ヒナノとしても神様に貰った能力なので詳しくは分かっていない。


「試しに使ってみてもいいかな?」


 ヒナノが転移石を作ると何故か10個できた、ひとつぐらい使っても問題ないだろう、使用実験である。


『う、うん。別にいいけど。一階に転移されるから直ぐに、ここには戻ってこれないわよ』


 コア部屋は最下層であり普通に戻るなら時間が掛かる。

 

『まさか、また地面に穴をあけるの!?』

「そんなことしないわよ。ダンジョンはエレノアの体みたいなものだもの。もう穴はあけないわ」


 ホッとするエレノア、フフッと悪い笑みを浮かべるヒナノ。


「私に考えがあるの!!」

『えっ、なに。嫌な予感がするんだけれど!』


 ヒナノ達の無茶苦茶な行動を思い出し身震いするエレノア。


「大丈夫よ。痛くはしないわ」

『こ、怖いんですけど!』

「ほら、確認しないと転移石が本当に使えるか分からないじゃない」

『えっ、さっきはちゃんとした転移石だってヒナノ言ってたよね?』

「女の子が、そんな細かいこと気にしないの」

『えっ、いやでも……」


 エレノアにとっては理不尽な話である。


 何はともあれヒナノは転移石を使うことにした。

 転移石を握りしめ魔力を込めようとした瞬間、近くにいたレオが小さくなりヒナノの肩にストンと飛び乗った。

 ヒナノを守るためだろう、律儀で過保護な猫であった。

 いつも自分を守ってくれるナイトのようなレオに、ヒナノは嬉しくなり心が温まる。

 

 転移石に魔力を込めるとレオと共にヒナノは光の中に消えた。


 ヒナノは辺りを見回す。


「成功したみたいね」


 景色が変わり足元には文字のようなものが描かれた光の輪ができている。

 魔法陣というものなのだろうか。

 転移石が跡形もなく砕け散ると光の輪も消えた、本当に一回しか使えないようであった。


「ここが一階ってことでいいのよね?」

『たぶん、入口みたいな物もあるし、そうなんじゃないかな』


 ヒナノ達は正規のルートを通って来ていないので、入口から進入していなかった。

 穴をあけて入ってきたのが何階なのかすら正直ヒナノ達には分からない、酷い侵入者達である。


 入口であろう場所から数人の人間が入ってきた。

 どうやら冒険者であるようで武器を抜いていないところをみると、ここは魔物もいないセーフティーゾーンのようなところなのだろう。

 おそらくは一階入口付近、転移石は上手く機能したようであった。


『そういえば、コア部屋まで戻るのはどうするの? 僕が魔物をなぎ倒して進んでもいいけど』

「そうね。それも悪くないかも」


 レオなら負けるような魔物もいないだろうし全滅させることだって可能だろう。       

 もしかしたら魔物が恐怖の余り、道を譲ってくれるかもしれない。

 でも、あまりエレノアの迷惑になることはしたくない。

  

「でも、今回はこれを使うわ!」


 ヒナノが手にした物は少し濃い緑色の八面体。


『んっ? 転移石? でも一階に来ているんだから意味がないんじゃない?』


 もっともな意見をレオは言う、やることは滅茶苦茶であるが意外に常識人(猫)であった。



――マスターエレノア! 転移魔法を感知。出現場所はここ、コア部屋であります。


『なっ、まさか!?』


 外部からコア部屋へのアクセス、そんなことはダンジョンコアであるエレノアにしかできない。

 コア部屋中央部の地面に光の輪が出現、そこからヒナノとレオは現れた。


「ただいま~。上手くいったみたいね」

『もう、ただいまじゃないわよヒナノ。何でコア部屋に転移できるのよ!?』


 驚いたのか呆れたのか、そんな言葉をエレノアは口にする。

 ヒナノが使ったのはコア部屋への転移石であり、材料を調整してたら偶然出来てしまった物であった。

 転移先をコア部屋に指定できたので、時間があればどの階層にでも行ける転移石をヒナノなら作る事も可能かもしれない。


『ちょっとヒナノ、そんなもの誰かにあげたりしないでよね!』

「勿論よ。さすがにこれは不味いわよね……」


 コア部屋に直接転移できるなら、あっさりとダンジョンが攻略できてしまう。

 ヒナノのスライム魔石の奥深くに入れて誰の目にも触れさせてはならない。

 

「私しか使わないから安心して!」

『うん。本当にお願いねっ!』


 エレノアは心の底から言っているようである。

 こうしてヒナノはダンジョンの常識を無視したものを作り上げたのであった。

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