雷槍《ライソウ》 アエーシェマ

「ボク、関係なくない?」

 息も絶え絶えに、グリフォン男がつぶやく。


「あなたで防ぎたいから防いだ。あなたと同じ理由です。問題がございますか?」


「適当な肉壁があれば利用する。当然であろう。攻撃されたくなければ、この世に生まれなければよかったのだ」


 大女と、意見が一致した。


 失神した魔族が、墜落していく。


「回収していきますねー」

 魔界で流す映像を管理する『魔族ちゃんねる』の運営が、アカウント削除と連行を同時に行った。


「どうぞ」


 邪魔で仕方なかったから、ちょうどいい。


「さすがだな。魔女が復活したというウワサは本当だったらしい」

 屈強な女性が、腕を組む。


「何者ですか?」


「我は【魔王 アーリマン】直属の配下だったもの、【雷槍ライソウ】アエーシェマ。魔王様復活の邪魔はさせぬ」


 雷槍と名乗るボスは、ヨロイの性能か、羽根も飛行ユニットもなく宙に浮いている。

 背丈は、クーゴンといい勝負かも。

 右手に持つ槍が、異常に大きい。自身の身長より高いのでは?


「人間大のボスですか。それにしては強そうですわね」

『あれは多関節の槍や。油断せんときや』

「ええ。心得まして」


 今までの相手がクズばかりだったせいか、新鮮味のある敵だ。

 とはいえ、敵であることに変わりはない。


「あなたも背信者で?」

「あれは別の魔族が運営しておる。我はあんな連中に用はない。背信者など、人の欲を満たして遊んでおるに過ぎぬ」


「結構。では、お手並み拝見と致します!」

 全攻撃用ユニットを展開し、敵に砲撃を叩き込む。


「ぬうう!」

 全身からオーラを放ち、攻撃のことごとくを弾き飛ばす。


 他の魔物がとばっちりを受けて、銃弾にやられていた。 


「銃が効きづらいですわ」


 なんとかスキを作ろうと、拳銃で乱れ打ちをする。

 

 それでも、特殊なフィールドに阻まれた。


「ならばこれで」

 ミレイアは、ビーム砲を見舞う。


 それでも、弾かれた。


「ビーム砲も、通用しないようですね」

 敵の多関節槍が、ミレイアの心臓を的確に狙ってくる。


 ブーストのせいで、大きく揺れながら避けなければならない。


「どうやら、ボスなどという実力ではありませんわね?」

『えらいデカイ魔力を持ってるな』


 ムチで相手の動きを封じようにも、かわされる。まるでスキがなかった。

 これまでの相手とは、ひと味もふた味も違う。


 遠当てでは不利だ。接近戦に持ち込むか。


 相手も武器を構える。

 グリフォンなどとは比較にならないほどの雷光が、槍に収束していった。


「あれは……」


『攻撃がくるで!』


 相手のパンチが飛んでくる。


「な⁉」


 射程が伸びた。


 雷撃を杭にして射突する武器とは。


 とっさに身をかわしたが、飛行ユニットの翼に傷がつく。


「飛行ユニットが!」

 博士の作った飛行ユニットに、穴が空いてしまった。


 やはり、このユニットはバランスに問題がある。

 急な攻撃には対処できない。


「一つ質問に対します。博士のアイアンゴーレムを壊したのは、あなたですね?」

「だったら、どうだというのだ?」

「答えていただきます」


 はじめの疑問は、ゴーレムがグリフォンの攻撃なら防げたことだ。


 続いて、他の被害者の死に方も。

 彼らは落雷に当たっても、黒焦げになった程度だった。


 アイアンゴーレムのときだけ、死に方が異常なのが気になる。

 ゴーレムは消し炭レベルにまで粉々になっていたのだから。


 博士を守っているゴーレムと同等の防衛システムが、あの個体には施されていたはず。


 どうしてあそこまで、周到に破壊する必要があったのか。


「いかにも。アーリマン復活の謎に触れたのだ。人に知られるわけにはいかんかったのでな」


 証拠を余すことなく、破壊する必要があったわけだ。




 ゴーレムを喪い、泣き崩れるシオン博士の顔が浮かぶ。




「そうですか。ならば、こうするまで」

 ミレイアは、飛行ユニットの両翼をムチで真っ二つに。


『何すんねん! このままやと墜落してしまう!』

「ワタクシは、あきらめが悪いんですの」


 切り取った両翼を脚に装備した。腰のビーム砲台を、高速飛行用のブーストに変更する。


「あなたに、個人的な恨みはございません。ですが、事情が変わりました。本気でいかせていただきます」


 猛スピードでアエーシェマと距離を詰めて、ミレイアはハイキックを見舞う。


「なに⁉ 急に動きがよくなった!」


 キックはアエーシェマの頬をかすめただけ。


 だがアエーシェマからは、おびただしい出血が。


「けえ!」

 反撃の雷槍が、ミレイアの腹部に叩き込まれようとする。


「止まって見えますわ!」

 特殊金属製の翼を利用し、相手の腕を挟み込む。 


『飛行ユニットを武器に使うんかい!』

「利用できるものは、何でも利用しますわ! アエーシェマさんとやら、お覚悟を!」


 ミレイアは、相手の腕をねじ切った。


 片腕をなくし、アエーシェマが後ろへ下がる。


「ぐううう⁉」

「これでもう、雷撃は使えませんわね」


 敵は主力武器を失った。たとえ仕留め損ねても、生き恥をさらせばいい。


「おのれ、本気でお相手する!」


 アエーシェマの腕が再生した。ちぎれた雷槍を再び掴む。


「はじめから、そうしていればよかったのです!」

 ミレイアも、すべての武装を展開した。

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