第三話 汚え花火ですわ
元パーティメンバーからの依頼
燃える街の中を女性が疾走し、教会の中へ逃げていく。
だが、木の扉はあっさりと破られる。
魔族たちの手が、女性に伸びた。
怯えてかがみ込んだ女性は……ニヤリと笑う。
背中に隠した二丁拳銃で、追ってきた魔族をハチの巣に。
「
女性ミレイアは、一瞬にして魔女の武装に身を包む。
一体が逃げようとしたが、ミレイアのムチは確実に獲物をとらえている。腕さえ折られ、銃口が向いた時点で絶命していた。
一体を囮にして、魔族たちは蜘蛛の子を散らすように逃げていく。
「ワタクシからは、逃げられませんわ」
蜘蛛の足のようなマジックアームが、ローブの下を突き破る。
ミレイアの背負う拳銃の数は、二丁どころでない。
ピィが新たに考案した自律型アームは、逃げていく魔族を確実に仕留めていった。
「なかなかの新兵器ですわ。ザコ相手なら、これでいいカンジかもですね」
魔物をオシオキした後は、よく眠れる。
爽快な気分で、ミレイアは目を覚ます……はずだった。
「うーん。ママ」
小さな物体が、ミレイアの腰にしがみついている。彼女はアメスだ。自分と同じメイドで、男爵のお世話をすることになった。あれから数日が経ち、お揃いのベビードールを着ている。
「アメス、起きましょう。もう朝です。男爵のお世話がありますよ」
「はい。おはようママ」
ミレイアをママと呼び、すっかりアメスはオサナイ感じになってしまった。
家族どころか一族を魔族の手によって皆殺しにされるという、トラウマものの経験をしたのだ。ムリはなかろう。
とはいえ数日の間、ミレイアの部下として見事にメイドの役割をこなしている。
ミレイアが魔物退治の冒険に出ても、心配ないだろう。
「ほう、発明家の護衛ですか」
朝食の席で、ミレイアは男爵から頼まれごとを受けた。
「私の元仲間でね。ビシタシオン・オジャという。ノームの研究者でね」
依頼の入った封筒を手に、トゥーリ男爵は話を切り出す。
女レンジャーだったオジャ氏は、アイテムの採掘や宝箱のトラップ解除などを担当していたという。
知恵を活かし、新しいアイテムなどを作る技能に長けていた。
男爵の旅に同行したのも、新しい知識を求めてのことだったとか。
「好奇心旺盛ながら慎重な人で、私は彼女に何度も助けられた」
引退後に、オジャ氏は念願の研究所を開く。
これまで集めた鉱石や魔法石を、魔術使用以外に役立てないかと。
「イヒヒ。彼女の発明品は、炊事などにも取り入れられておるでヤンス」
ピィの開発した武器類や、冷蔵庫などは、オジャ氏がいなければ完成しなかったらしい。
オジャ氏の考案した作品の数々は、必ず男爵の審査を通過してから世間に流通する。
「ところが最近、彼女の周りで妙なことが起き始めた」
買い物から帰ると部屋が荒らされていたり、育てていた子牛が盗まれたり。
「キッカケは、なんだったのでしょう?」
「研究成果を買い取るという、貴族の頼みを断ってね」
自由を求めていた彼女は、貴族の専属研究員になることを拒んだという。
「弟子をよこしただけで、貴族は満足しなかったらしい」
しかも、その弟子が逃げ出してしまう。
「とうとう、弟子が死んでしまったんだ」
落雷が落ちてきて、絶命してしまったらしい。
生前の弟子は、貴族の危険性を説いていた。
「貴族はオジャ氏の研究を、よからぬことに用いようとしている」と。
彼が死んだ今となっては、探索しようがない。
「これが当時の状況だ」
クーゴンがミレイアに、写真を絵にしたものをよこす。
頭上からまともに、雷撃を受けたかのように見える。
冒険者を雇って護衛に当たらせていたが、彼らも全員、謎の落雷で命を落とす。
「エリザ様は、ビシタシオンが殺したのではないかと疑ったりさえした」
証拠不十分な上に動機もまったくないことから、疑いは晴れたが。
「魔物が関与していますね?」
どの現場を検証しても、魔族絡み以外に考えられない。
狙いが正確すぎる。
「それで、ワタクシに向かえ、と?」
「頼めるかな?」
「お安い御用ですわ男爵様。必ず、お勤めを果たして帰ります」
しかし、少々日を開けてしまう。
その間に、男爵をお世話できない。
「アメス。留守の間、男爵様のお世話はおまかせしますわ」
「気をつけてね、ママ」
アメスなら大丈夫だろう。
心配があるとすれば、ネコ族にお世話されて、男爵に変な性癖が追加されないかどうかだ。
「帰ってこなくてもいいんだぜ」
「何をおっしゃいます。ゴリラの使いではありませんの」
クーゴンの嫌味も、軽くかわす。
このやり取りにも慣れてきている自分が怖い。
「イヒヒ。何かございましたら、このヘッドドレスを使うでヤンス」
食事係のピィから渡されたのは、なんの変哲もないヘッドドレスである。
「これは?」
「通信装置付きでヤンスよ」
このヘッドドレスがあれば、遠くにいる相手とも通話ができるらしい。
「オレのサングラスと同じ機能だな。オレとも通話できるわけだ」
クーゴンが、サングラスをコンコンと叩く。
「あたしとも! ママとおそろい!」
ミレイアと同様のヘッドドレスをもらい、アメスがハシャいだ。
「イヒヒ。その通話機能も、オジャ様の発明品でヤンスよ」
微量の魔力を探知して、音声に変換するそうだ。これだけの機器を発明できるとは。オジャ氏はかなりの使い手らしい。
「変わり者でヤンスから、お気をつけて。イヒヒ」
ピィが、謎の笑みを浮かべた。
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