お前がママになるんだよ!(第二話 完
「それで男爵様、どうしてアメスを引き取ろうと?」
「余裕はあるから。子ども一人分育てるなんて問題ないよ」
「男爵様、ひょっとしてこのような幼い子が好みで」
だとしたら、一大事だ。
幼女化スキルは魔女の特製にあったかしら。
「なんでも性に結びつけるのはやめようね、ミレイア」
肩をすくめながら、男爵はミレイアをたしなめる。
「これはね、ボクじゃなくてアメスの頼みなんだ」
「アメスが?」
当のアメスは、ミレイアにくっついて離れない。
「ママ。あたし、ママの子になる」
幼児退行してしまったのか、アメスがミレイアの腰に手を回してしがみつく。
すっかり、アメスになつかれてしまった。
「ハーッハハハァ! コイツぁ傑作だっ! お前がママになるってか! 男爵の世継ぎを産むって息巻いていたくせに、よそからガキをこさえて来やがった!」
ゴリラさながらに手を叩きながら、クーゴンが愉快そうに笑う。
「笑い事ではありませんよ。アメスさん、あなた、ココがどれだけ危険な場所か、わかっていらっしゃるの?」
「おまいう」
「お黙りなさいませゴリラ」
クーゴンはミレイアのイヤミなど意に介さず、ニヤッと口を釣り上げた。
『何をためらっとんねん? あんたの望みやんけ。願ったり叶ったりやん』
勝手に、指輪が語りだす。
「ちょ、オバサン!」
『あんな、男爵。ミレイアがなんでこの子をかばったかわかるか? かわいそうやったからや』
「本心」を指摘され、ミレイアは黙り込む。
『人には、ミレイアは冷血漢に見えるかも知れへん。けど、こいつかて困ってる女の子はほっとかれへん。悪いやつも許さへん。ピィに色々調べさせたんも、アメスをこの家に住まわせたかったからやんか』
魔女の分析は、止まらない。
『男爵、あんたもミレイアの気持ちを察したから、全部任せたんやろ?』
「そうだよ、魔女。キミの言うとおりだ。ミレイアの中に眠っていた正義は、本物だった。彼女なら、すべてを収めてくれる力があると思ったんだ」
男爵にまでミレイアの心を読み取られたと知って、ミレイアは今度こそ沈黙した。でも、分かり合えたってことともいえるからワンチャンあるか?
「ママ。あたしは、ここにいたい。ママと一緒にいたいです」
アメスを自由にするために動いていたのは、事実だ。
しかし、アメスがミレイアになつくことまでは想定していなかった。
「男爵様、わたくしは、どうすれば?」
戸惑うミレイアの肩に、トゥーリ男爵が手を置く。
「ミレイア、アメスは、一人ぼっちになってしまった。彼女には支えが必要だ。キミが、親代わりになってくれないか?」
「旦那さまのお言いつけであれば。でも、ワタクシに務まるでしょうか?」
「キミならできる。いや、キミにしかできないんだ」
「もったいなきお言葉ですわ。旦那さま」
ミレイアは、男爵に一礼した。アメスの前にしゃがみ込む。
「ワタクシは、また魔族退治に向かうことになるやも知れません。その間、男爵様のお世話をお願いできますか?」
「任せてくださいママ」
アメスだって、元々メイドだったのだ。お世話は造作もなかろう。
「ふーん。あんたにも、カワイイところがあったのね?」
腰に手を当てながら、エリザが勝ち誇ったようにミレイアの顔を覗き込む。
「あなたには関係ありませんわ、メスゴリラ」
ミレイアは、プイと横を向く。
「わかったわよ。アメス、あんたはあの街で死んだことにしておくわ。これからは、ただのライカン『アメス』として、第二の人生を歩みなさい。いいわね?」
「やったぁ。ありがとうございます、エリザベート姫!」
アメスがバンザイで感謝すると、エリザはフッと笑う。
「一件落着ですね、アメスちゃん」
イルマも、アメスの新たな門出を祝った。
「はい。エリザベート姫、イルマ様、ありがとう」
「れ、礼なら、こっちのメイドに言えば?」
頬を朝日色に染めながら、エリザはミレイアに視線を向ける。
トコトコと、アメスはミレイアのもとへ戻った。
「ママ、これからもよろしく」
「こちらこそ」
ミレイアは、アメスを抱え上げる。
「あなたの子ですわ、男爵様」
「キミと添い遂げた覚えはないよ」
これ幸いと、言質を取ろうと思ったのだが。
「さて、今日は歓迎パーティをいたしますわ。エリザ姫、イルマ様。ご一緒いただけますか?」
急に声をかけられ、二人はハッとなる。
「いいの? あたし結構食べるわよ?」
「お二方のご活躍がなければ、街は壊滅しておりました。それに、今後も何かと顔を合わせることが多いかと」
エリザとイルマが、顔を突き合わせて笑った。
「じゃあ、ごちそうになるわ」
「ありがとうございます。いただきます~」
騎士二人が快諾してくれたところで、ミレイアは腕をまくる。
「アメス、下ごしらえを手伝ってください。それと、ケーキも焼きますから」
「ケーキ!」
甘いものに目がないのか、アメスは目を輝かせた。
「何がよろしくて?」
「リンゴのケーキ!」
ハキハキと、アメスが一人で盛り上がる。
「そうですか。ではアップルパイにいたしましょう」
特大アップルパイを作って、この日は一日パーティとなった。
アメスも、この日を境になじんでくれるといい。
こうして、男爵家に新たな家族ができた。
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