魔族と貴族、まとめてオシオキ(第一話 完

 さっきから黙って聞いていれば。


「言わせておけば! アッタマきた! 男爵のハートはワタクシがすべていただきますわ!」

『あんたがそう思ってても、魂のレベルで同化してしもうてるから一緒やもーん』


 厄介な相手と、融合してしまったものだ。


 しかし、この力があれば、男爵の力になれる。


『せや。あんたに言うとかなアカン、ペナルティがあったんや』


 ペナルティとは、穏やかではない。確かに、これだけの力を授かるのなら、それなりの代償は必要かも。


「なんですの?」

『呪いについてや』


 ミレイアの所持している指輪は、呪われているという。


『定期的に魔族を食わんと、あんたの精神を食らい付くしてしまうんや』

「すべて、吸いつくされてしまったら?」

『我と入れ替わる』


 命を吸われたミレイアは自我を失い、魔女化するそうだ。


「ほう。では、男爵の意思など関係なくとも、魔族は討伐対象だと?」

『せやねん。おそらく、男爵も気づいてるやろう。魔物討伐の仕事も振ってくるんとちゃうかな?』

「お安い御用ですわ。男爵の断りもなくデカい顔をする魔族は、ぶっ飛ばしておきたいですからね。始末オシオキならお任せを」


 魔女が、もう何度目かのため息を付いた。


『ホン……マにブレへんよな、あんた。我と入れ替わるのが、怖くないんか?』


 おそらく、魔女はこう言いたいのだろう。


 何もしなければ、寿命を食われて死ぬ。

 力を使い続けても同じだ。

 たとえ魔族を殲滅したとしても、魔女の力を使い続ければ、魂を削られて体を乗っ取られてしまう。


 どのみち、破滅の道が待っている。魔

 女の指輪をはめた時点で、ミレイアは詰みなのだと。


「乗っ取りが怖くて、家出なんてできますか! 乗り越えてみせますわ!」

『魂を食わせへんつもりやな?』


 このまま装備していても、命は尽きてしまう。

 ならば、魔族を殺し続ければ、少しでも延命できるわけだ。


『わかったわ。あんたのガンバリ、見せてもらおうやないの』

「フン。せいぜい高みの見物でもなさっておきなさいな」

『ぬかせ、エルヴェシウスの聖女さ・ま。クケケ』

「今はヴェスタ村の家出娘、ですわ。ウフフ」 


 二人して、含み笑いをする。


『その威勢が、いつまで続くんやろうね。ぴーぴー泣き叫んでも、助けたらへんから! グヘヘーッ!』

「あなたはそこでヒソヒソ隠れてなさいな! この魔女の力にひれ伏すがよろしくてよ! オーッホッホッ!」


 段々とテンションが上っていき、高笑いを続けた。




「うるせえ! 男爵が寝られねえじゃねえか!」

 ドアを蹴破って、クーゴンが怒鳴り込む。




「なんですの⁉ レディの寝室にノックもせずに!」

「お前のような淑女がいるか! それより静かにしねえか! 男爵様がおやすみになるんだぜ! 声のトーンを落とせ。もしくは寝ろ!」


 頭に青筋を立てながら、クーゴンがわめく。気の短いゴリラだ。


「まだ二二時ですわ。これから、興奮剤入りのお香を焚いて、寝室にお邪魔しようと準備していましたのに」


 お香の準備は、整っている。


「うーんいい香り。男爵様も、すぐお元気になられますわ」


 EDの草食系老人すらエロザルに変える、特殊な媚薬入り香薬だ。

 刈り取った野盗の巣窟で見つけてきた。


「元気にしなくていいから。男爵はこの時間に眠るんだよ。なのに騒ぎ立てやがって」


 男爵の就寝を邪魔してしまったなら詫びねば。すぐにでも。  


「あらあ、それは困りましたわ。すぐにお休みできるよう、じっくりとお疲れになっていただかなければ」


 ネグリジェの上をはだけさせ、男爵様のいる寝室へGO!


「お前が気絶しろ!」


 クーゴンからラリアットを食らい、ミレイアは一瞬、夢の世界へ飛んでいく。


「まったく。英気を養わねばならんときに、お前なんかと夜伽なんぞに明け暮れるわけなかろうがっての!」

「英気、ですって?」

「魔王の復活が近いんだよ!」


 ピンク色だった脳内が、マジメなモードに切り替わった。

「本気で、言ってらっしゃいますの?」


「大真面目だ。宝物庫を狙ったのも、オマエさんの嵌めている指輪が目当てだったろうしな」


 ミレイアは、自分の指を見つめる。


 ヘビの目玉を思わせる宝玉と、目があった。


「その指輪に秘められた力は、魔王のエサとなる。奴らの手に渡っていたら、世界はどうなっていたか」

「ですが、世界に平和は戻ったのでしょう? 魔王を倒したおかげで」


 確かに魔王は、男爵が殺したはずだ。


「殺しきれなかったんだよ」


 とどめを刺す時、魔王は世界中に自分の力を分散させ、命を落としたらしい。

 今でも、魔王に近い能力を持った魔族が、力をつけ始めているという。

 野盗共ですら、マジックアイテムを駆使するほどに。


「それだけじゃない。貴族の中には、魔王に味方していたおかげで繁栄した一族も少なくない。男爵への憎しみはいかばかりか、ってな」


 クーゴンが苛立ちを隠さず、教えてくれた。


「敵は人間にもいるとおっしゃりたいのですね?」

「そうだよ。人間に手出ししていいものか。オレとしては、ぶっ殺したいがな」


「正直でよろしいではありませんか。そのためにゴリラの力はあるのですから」

 不敵に、ミレイアは笑う。


 魔族も人間も、関係ない。


 男爵の邪魔をする不届き者は、まとめて始末オシオキするのみ。


「テメエのそのふてぶてしさ、ちょっと見習いたいぜ」

 クーゴンは魔法でドアを直して、閉める。


「フン。あなたに褒められても嬉しくありませんわ」

 すっかり、男爵の寝込みを襲う気持ちは失せていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る