アメスの恋愛観?

 最初、ミレイアは何を言われたかわからなかった。


「は? 男爵様、おっしゃっている意味がわからないのですが?」

「お見合いを断られたということは、男性としての魅力に欠けているか、自分に自身がないからだと、ボクは思っている。そこで、キミにお見合いのコーチを頼みたい」


 確かに、見合い歴なら多少はある。どれもハズレで終わったが。


「お言葉ですが、その役割はアメスが適任かと」


 アメスなら、歳も近い。仲良くできるだろう。


「そう思うなら、試してみるといい。おいでアメス」

「はーい」


 トテトテと、アメスがやってくる。


「なんですか、パパ様?」

「アメス、今日はこの男の子とお話してくれるか?」

「はい。えっと、何を聞けば?」

「そうだね。好きな子はいるのか、とかかな?」


 男爵の言葉を、アメスはふんふんと聞いている。


「えっとね。ニコ様は、どんな娘がお好きですか?」

「落ち着いた女性がタイプです。アメスさんのような元気な子も、素敵だと思いますよ」

「えへぇ。ありがとー」


 褒められて、アメスはうれしそうだ。


「アメスさんは、どんな人が好きですか?」

「ママ!」


 ニコの質問に、アメスは即答する。


「あたし将来、ママみたいな立派なメイドさんになる。で、旦那さまのお世話もするの!」


 自分の将来像を思い描きながら、アメスはハキハキと答えた。


「好きな男性とかは、いないんですか?」

「男性?」


 アメスは「男性」という言葉に、まるで興味を示さない。単語の意味すらわからない感じである。


「カッコイイとか、たくましいとかは……」

「わかんない。たまーに男の人に声をかけられるけど、アメをもらうくらいかなぁ?」

「今まで、この人素敵だなって思ったことは?」

「友達同士でも、好みの異性とかは意識してなかったかな」

「なるほど。よくわかりました」


 見かねた男爵が、アメスに昼食の買い物を頼む。


「ついでにお菓子も買ってきておくれ。荷物持ちに、クーゴンをよこすよ。行っておいで」

「はーい」


 アメスがクーゴンと共に、屋敷を出ていく。


 なるほど。アメスが当てにならないわけだ。

 トレーニングにならない。

 彼女は、まだ恋愛というものがわかっていなかった。


「ご覧の通り、成熟した女性はキミをおいて他にいない。頼めるか?」

「そう申されましても、わたくしにも務まるかどうか。エリザベート姫かイルマ副隊長のほうが、女子力においては勝っているかと」

「エリザ姫やイルマさんに、お見合いレッスンができると思うかい?」


 思えない。第一、頼んでも断られるだろう。引き受けてくれたとしても、数秒後になればほうじ茶がニコの顔にかかるのがオチだ。


「仕方ないですわね。では、少々厳しくいきます。それでよろしければ」

「ありがとう。キミならきっと、ニコを大人にできるよ」


 ニコの方も、椅子から立ち上がって「よろしくおねがいします」と頭を下げる。


「はあ……もったいなきお言葉です。では、さっそく訓練を」


 乗り気ではないが、仕方あるまい。


「待ちたまえ」


 起立したミレイアに、男爵が待ったをかけた。


「どうなさいましたか?」

「その格好では、どうしても使用人という感じが抜けない。幸いアメスも仕事に慣れてきた。ここはキミも、お見合い用の格好で望んでみてはいかがだろうか」

「と、いいますと?」

「実は、こんなものもいただいてね」


 またしても、ポーラ姫からのいただき物があるとか。


「これなんだけどね」


 男爵が、細長い箱を出してきた。やけに平べったい。


「まあ。素敵」


 げんなりしていた気分が、わずかに高揚する。


 ポーラ姫からの贈り物は、着物だった。


「袖を通しても?」

「ああ。是非」

「では着替えてまいります」


 東洋風の服を着る方法なら、知っている。一人でも大丈夫だ。




「イヒヒ。こりゃあ、おつかいに出さなくて正解でさぁ。お召し物が泥で汚れちまう」


 ゲラゲラ笑ってこそいるが、ピィは別に面白がっているわけではないとわかる。


「素敵だよ。ミレイア」

「ありがとうございます。では、ぼっちゃ……」


 ニコを「ぼっちゃま」と言いかけて、ミレイアは口を閉じた。なんだか、子供扱いが抜けていない。この段階から、もうお見合いは始まっている。甘やかすわけにはいかないだろう。


「ではニコ様、お見合いを始めましょう」


 彼には、素敵なレディと結ばれてもらわなければ。

 そのためには、彼のヘタレを直す必要がある。

 女性慣れをしてもらうのがいいだろう。



「はい。よろしくおねがいします」


 相対するニコは、えらくカチコチである。


「ご安心を、ニコ様。何も取って食おうなどと考えてはいませんからね」


 安心させるために、ミレイアはニコの耳に顔を近づけて落ち着かせた。


「は、はいい」


 ミレイアが顔を近づけると、ニコはますます赤面してしまう。


 刺激が強すぎたか。


「男爵様、お部屋を一つお借りしても?」

「構わないよ。いくらでも空いているから、好きに使いたまえ」


 ここは元々、貴族用の連れ込み宿ラブホだ。

 部屋はいくらでもある。


「お言葉に甘えて。ではニコ様。参りましょう」

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